「ロミオの青い空」視聴感想文
世界名作劇場、アニメ「ロミオの青い空」をNetflixで視聴した。視聴したのは今回で2回目だ。もう26年も前のアニメで、当時私は11歳。
丁度主人公ロミオと同じ年齢だった。
世界名作劇場特有の、主人公が真っ直ぐでひた向きに生きる流れは他の作品と同じものの、児童労働や人身売買など実際起こった負の歴史が元になっているからか、年齢が同じだったからか、登場人物に感情移入出来、娯楽ものとも言えないような感覚になれたのだろう、とても大好きなアニメだった。
児童労働とアルフレドが過酷な労働から病気で亡くなるという点が子供心に強烈で、心に焼きついている。
26年経った今、まず当時と変わらぬ感想を始めに言いたい。それは初代ヒロイン、アニタの扱いについて。
ロミオの幼なじみの可愛子ちゃん。ロミオが好きで自分からキスをせがむなど積極的な性格。ロミオがミラノへ発つ時は涙の別れ…しかしそれ以降一切登場しないのだ。
ミラノに着いてすぐロミオは伯爵の血を引く美少女アンジェレッタと良い仲になる。
最後は子爵の娘でアルフレドの妹、これまた美少女のビアンカと良い仲に、結婚までする。
ロミオがアニタのことを忘れていようがいまいが、せめて村へ戻った時くらい登場させてやっても良かったような?
でも、登場させてしまうと変にその後のビアンカとの三角関係を匂わせてしまうからやはりフェードアウトが正解なのだろう。
当時の純真な私は、ロミオがすっかりアニタを忘れてしまっていることに憤りを覚えたが、今回はというと全く違う感想。出会いと別れなんてそんなものだ。男女関係で言えば、結婚していない限り心の移り変わりは自由。止めようがない。
そんなことよりロミオが急速にガールフレンドのレベルを上げていった事の方に注目してしまった。村娘から貴族の娘だなんて一気に駆け上がったなと。
それにしてもアニタがどれほど一途な娘か知らないが、離れていたのはたった半年。彼女の心にまだロミオが居てもおかしくはない。忘れかけていたとしても再燃する可能性は十分ある期間だと思うが、そこの所どうなったのだろう。
その他にも気になる点が幾つか有り、考察してみた。
①ロミオの教育環境その後
アルフレドなどの影響を受け、学ぶ意欲を呼び覚ましていったロミオ。
カスラ教授という良き師に学ぶ楽しさを教えられ、将来は教師になりたいという夢を持つ。
しかし半年の契約を終えたロミオは当然故郷の村へ帰る。
ロミオは当初、識字能力が無かった。学校に通えていないのだろう。家が貧しいからなのか?田舎だから環境が無い?時代背景の問題は知識が無いので分からないが、とにかく教育水準が低い。
現代でさえも田舎と都会の教育水準は歴然の差があるのだから尚のこと。私自身が田舎育ちなのでよく分かる。
最終話でロミオは教師の夢をつかんだということは分かったがあの環境でどうやって学を身につけたのか。本だってまともに買えそうにもないほど貧しいし、教養のある大人があの田舎にいて教えを乞うなんてことも無さそう。並大抵の努力では無いという所だけど努力だけでどうにかなるの?と言った感じ。
カスラ教授の元に頻繁に通ったのだろうか?
※そんなしょっ中行ける距離でも無さそう。貧しくて馬車も持ってなさそうだし。
私だったらカスラ教授の元に置いてもらい、勉学に励み都会で通用する人間になる。※ビアンカも居るし。
なんて、、親元に帰りたいですよね、売られて辛い思いしたんですから…
②ビアンカのキャラクター性が弱くない?
ロミオの青い空を彩ったヒロインたち。
初代アニタ、2代目アンジェレッタ、3代目ビアンカ。このヒロイン達の中でどうもビアンカが目立たない。アルフレドの妹ということで期待値が上がり、登場する前の方が矛盾してるが存在感があった。
というのも個性があまり際立っていないように思えたのだ。アニタは積極的な性格で能動的にロミオへ気持ちをアピールするチャーミングな娘。一見アニタに振り回され、尻に敷かれそうなロミオのようだが素直なアニタが可愛いのか少しからかったり、とても仲が良く微笑ましい。
アンジェレッタは聡明で芯が強い。生い立ちが複雑で病気を抱えており苦労しているからか、精神的に大人。ロミオはアンジェレッタの優しさに助けられ相当癒されたであろう。ミラノで初めて心の拠り所となり、それはまたアンジェレッタも同様だった。2人の精神的繋がりをひしひしと感じた。
そしてビアンカ。ビアンカはまず上記の2人ほど明確に語れる個性を感じとれなかった。一応、おてんばキャラとして売っていたようで登場してすぐ、捕まった叔父夫婦から逃げ出そうと窓から逃げ出すシーンは良かった。でもそれ以降、期待するほどおてんば度は上がらず。そっち系のキャラで行くなら狼団のニキータに完敗だし。
もっとアルフレドを振り回すツンデレブラコンかと思いきや、割と普通のブラコンだし。
他のヒロイン2人とニキータのキャラ立ちに手が尽きて、個性の書き分けが上手くいかなかったように見えてしまった。
そんなあやふや感をロミオもどこか察知していたかのように、他のヒロインより親密さが薄い。(ように見える)とは言え将来結婚するのできっと私の知らない空白の期間、徐々に密になっていくんだろう。。
③シトロン親方、何で85リラ持ってんの?
アルフレドの親方シトロン。ナイフをちらつかせるなど、セリの時から凶暴な顔を見せる危ないやつ。それも納得の前科者らしい。
アルフレドを85リラで購入するのだが、物語が進むうちにふっと疑問が浮かんだ。「85リラも何で持ってんだろう?」
というのも、危ないシトロンは期待通りの人物で自分は働かずアルフレドを散々コキ使い、稼いだお金も酒に使ってしまう。アルフレドの「親方が酒に使ってしまうから、うちにはもうパンを買うお金すらないんだ。」という台詞からも日々の切迫した家計事情が窺える。こんなカツカツで働きもしないシトロンによく85リラというお金があったもんだと思うのです。
一応、お金の出処を考察してみた。
1.自堕落生活はアルフレドを買ってからで、それまでは普通に働いていて酒に溺れてなかったから蓄えがあった。
2.アルフレドの前の煙突掃除の子が超猛烈に働き、稼いだ。
3.前科者ならではの闇収入ルートがある。
1・2はあまり現実的ではなさそうなので、この中なら3なのではないか。
3の闇収入は色んなパターンがあると思うが、1つは死神がやっていたような商売として成り立っているルート。もしかしたら人に言えない生業を確立しているのかもしれない。しかしそれなら安定的な収入になるから煙突掃除夫に働かせるなど周りくどいことしないか?
あとのパターンは単発犯罪の繰り返し。ひったくりやスリ、カツ揚げなどで欲しいときにまとまった金を得る。シトロンは、ビジネスの仕組みを考えられるタイプでは無さそうだからこっちの方がしっくりくる。
シトロンは漫画、「幽遊白書」でいう妖怪ランクC以下だと思われる。本当に恐ろしいA〜S級妖怪ほど冷静で利口、慎重に事を運ぶ。下等妖怪ほど解りやすい凶暴性で見境なく衝動的。本作の教えが脳裏に浮かぶのだ。どう考えてもシトロンはC級、良くてB級の下位だと見受けする。
なので単発の犯罪で85リラを得た!!…ぐらいしか合点がいかない。
最後に全体の感想。
この作品は子供向けに、煙突掃除夫の実態よりも、友情の話の方が目立っているが、実際の煙突掃除夫は相当過酷だったという。
とにかく事故が多い。落ちて死ぬ・煙突に詰まって死ぬ・誤って火を点けられ死ぬ。事故に合わなくても肺の病気になって死ぬ。まず長生きは出来ないと…
このような児童労働が平然とまかり通っていたというから信じられない。
そしてこの作品を集約するシーンが最終回にある。それはダンテがロミオに別れ際に言った言葉だ。
「また会おうって言いたいところだけどな、
人生そうあまくはねえ。お互いに知り尽くしているもんな。もう会うことはないかもしんねえ。達者で暮らせ」
契約の仕事は終わり、故郷に帰れたが、彼はこれからも生きるためには過酷なハードルを越えなくてはならないと解っており、覚悟を持って生きているのだ。
貧しさが変わったわけではなく食べることもままならない。
いつ死ぬか分からない生きることがより切実だった人たちだからこそ発する重い言葉。
しかしこの思想って人生の本質でもあるように思えた。人生は有限で今この瞬間から命と健康の保証なんて誰にも無い。仕事だっていつ失うかも分からない。彼らのように切迫した環境ではないだけで、本当はいつだって誰もが何かを失うリスクを持っている。
執着を無くし、失うことの恐れに蓋をせず自覚し向き合い生きて行く。そんな風に生きていくのって、間違いなく無敵。もしかして究極の幸せな生き方?なのかもしれない…