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ロボットタクシーと自動車メーカーの自動運転の方向性の違い

AMD CEOのLisa SuとNvidia CEOのJensen Huangが親戚同士というのは有名な話だ。なにか、親戚同士かつ競合のCEO同士という境遇ゆえの面白いエピソードはないかなと調べていたところ、それとは関係なく、Nvidiaの提供する自動運転プラットフォームNvidia Driveに関する記事から興味深い気づきを得たので書いてみる。

tl;dr

完全自動運転を実現するには高価な機器の搭載が必要で、現時点の自動車メーカーは少ないセンサーで大衆の手に届くコストにとどめたレベル3程度の自動運転を目指しているのではないだろうか。

Disengagement Reports

Californiaの公道でレベル3以上の自動運転の走行テストを行う場合、企業はDMVに対して走行結果を報告する義務がある。毎年DMVがそのデータを公開しており、DMV Disengagement ReportsとググればだれでもDMVから生のデータを取得できる。

余談だが、Appleもレベル3以上の自動運転をテストしている。公然の秘密こと、Apple Carのテストだろう。
自動運転をブランディングとして押し出しているTeslaはというと、カリフォルニアの公道でレベル3以上のテストを行っていないのでデータなし、DMVへ一切報告をしていない。

このデータには走行距離と離脱回数が記録されている。離脱回数は人間が自動運転に介入して手動運転を行ったり、システムが自動運転をやめて人間に運転を委ねるとカウントされる。総走行距離を離脱回数で割ることでMiles Per Disengagement(離脱あたり走行距離)を計算できる。要は何マイル自動運転で走行したのかという指標になる。

  ※ただし、各社の走行環境は揃っておらず、他の車両や歩行者の都合、つまり外的要因によって自動運転を止めなければならないこともある。この指標だけで各社の自動運転の性能を正確に比較することはできない。

Miles Per Disengagement

2021年の各社のMiles Per Disengagementを見る。
DMV公開のデータをもとにグラフにしたいが、面倒なのでThe Last Driver License Holderからグラフを拝借する。

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首位は完全自動運転タクシーの提供を目指すベンチャー企業で揃っている。
自動車メーカーはそれらに比べ低い。
Tech系ベンチャー界隈でソフトウェアエンジニアリングを生業としている人間としては、ベンチャー企業の活躍を喜び伝統的古い企業を憂うところだが、どうもその考えは誤っているようだ。

自動車メーカーが自動運転技術で劣っているわけではない?

ヒントはNvidia CEO Jensen Huangの発言にある。2018年のDisengagement Reportsを見た記者がJensen Huangに対して、NVIDIAはハードウェアとソフトウェアの両面で自動運転プラットフォームNvidia Driveを提供しようとしているのに、Waymoに比べてMiles per disengagementが低くないかと質問している。

その質問に対するJensen Huangの回答は以下の通り。

ウェイモがロボットタクシーを目指しているのに対して、我々は消費者が購入できる自動運転車、人間のドライバーが運転に介在するタイプの自動運転車を目指している。
エヌビディアの自動運転車は、消費電力が20Wしかない自動運転車用SoC(System on a Chip)である『NVIDIA Jetson AGX Xavier』と、カメラやLIDARなどわずかなセンサーしか搭載していない

つまり、Nvidiaは一般大衆が購入できる自動運転車の開発を目指しており、コストの圧縮を心がけているようだ
レベル5の完全自動運転を目指して機器を増やすとコストが跳ね上がり、一部の富豪や企業にしか購入できない車になってしまう。
では2018年時点でMiles Per Disengagementトップ、2021年でも首位にいるWaymoが搭載している機器はどうだろう。Wikipediaから引用する。

Googleのロボットカーには、約15万ドルに相当する機器を搭載し、この内7万ドルに相当するLIDAR(レーザーレーダー)が搭載されている。 上部に装備された距離計(レンジファインダー)は、「ベロディン(英: Velodyne)」と呼ばれ、64個のビームレーザーを備える。この装置からレーザービームを照射し、車両周辺の詳細な3Dマップを生成する。生成された3Dマップをセルフドライビングカーが読み取り、Googleの高解像度マップと照合し、これを応用して自動運転車が自動で運転制御する仕組みとなっている。

Waymoの車は自動運転に関する機器だけで1800万円近くするようだ。Nvidiaの低コストでレベル2,3の自動運転を目指す方向性に納得がいく。

同じことは自動車メーカーにも言える。大衆が購入できる範囲に収めるためには搭載する機器に制限がある。
ただし、彼らはそこにとどまっているわけではない。完全自動運転タクシーを目指すベンチャー企業の殆どは自動車メーカーの子会社もしくは彼らの資本が投入されている。
自分たちでは現実的な大衆向けの安価な自動運転を開発しつつ、高価な機器を搭載した完全自動運転車両の開発にも唾を付けている。

(ただし、中国のDeeproute.aiのように低コスト(1万ドル程度)でレベル4の自動運転を実現し高いMiles Per Disengagementを記録している企業もある)

2021年時点のNvidia

Cruise、Zoox、DiDi、Oxbotica、Pony.ai、AutoX といった企業がNvidia DriveのGPUと自社の大量のセンサーを組み合わせてレベル4の自動運転を実現しているようだ。
2021年のDisengagement Reportをみて分かる通り、Nvidia自身はなお少ないセンサーと省電力SoCを使った現実的な自動運転を目指しているようだが、彼らの開発するNvidia Driveの方はMiles Per Disengagement首位各社の高度自動運転の基礎を担っている。

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