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バカは薄紅色に気づかない

この痛みは
私を弱くさせる

甘やかされる痛みだから

同じ年頃の
多感な時期に
深く負った
他人による自傷行為は
この先彼女たちが
誰に他言することもなく
ひっそりと胸に仕舞い続けていくのであろう

二人だけの秘密

これにはどんな甘味も勝てない
唯一無二の圧倒的な甘さがある

誰にも言えないね
なんて微笑む私と彼女
痛々しい過去を
今は笑いあっている

これだけでいいではないか
けれども、もっと欲しくなってしまう

これだけ分かり合えるのは
この世で貴女だけでいい

痛切にそう願う

気をつけて
またね、と
肌寒くなっているであろう頃への逢瀬を約束をして
別れたエスカレーター前の景色が
異様なほどに眩しく
彼女の表情に釘付けになり
私の焦点が彼女一人だけに絞られていく

過ぎゆく人の速度が
私の鼓動に間に合っていないんだと気づく

異なる傷を持った
別々の生き物のはずなのに
まるで目の間にいるのは
私の分身であるかのように錯覚してしまう

正直になれない
どろどろとした感情が
彼女を独占したいという欲求が
湧き上がってくる

彼女はそれだけ
私の中で神聖な存在なのだと
今更ながら気づく

きっと彼女がいなくなってしまったら
私は絶望に帰すだろう

他に出会う人たちに関しては
死んでしまった暁には
私がその死を食ってやるってぐらいに思えるのに

彼女に対しては
そんな余裕など持つことができない

数年ぶりのやりとりだというのに
数年ぶりの再会だというのに
彼女の話してくれる彼氏との話は
あれだけ微笑ましく聞けたのに
とても喜ばしいのに
心の底から

嘘偽りなどどこにもない
驚きと笑い声の絶え間ない時間を
大切に大切に
抱きしめていたのに

さっきまで
ほんのついさっきまで

それなのに
一気に心が狭くなる

来月は会う余裕がないということを告げた時に
だってあんなに可愛く残念がられると思っていなかったから
私も会いたい気持ちでいっぱいだったから
次の季節には彼女の生活がある街に行きたいと思った

それこそ
もう何年も触れていないというのに
さよならをした途端に
感情が溢れて止まらない

今すぐ抱きしめられたら
きっと私は泣いてしまうだろう

こんなに
まだこんなに
私の中に
「いた」ってこと
今、この瞬間まで知らなかった
知りたくなかったと言っても
嘘にはならない

だって
たった今この瞬間から
こうして言葉を吐いている今も
ぎりぎりと苦しいから

もっと近くにいたくて
触れたいと思っても
彼女は手を振り微笑んで
私から離れていく

悟られてはいけないと
私も手をふる
少し引きつる口元が隠れていてよかったと安堵しながら

彼女は覚えているだろうか
私たちの交わした言葉たちを感情たちを
香りを、味を、声を

今が苦しいからと
当時の私たちの願いがひとつだったということを

私はどれだけ軟派なんだろうと思う
同時に違った形の大切たちを
ちゃんと想いながらも
彼女に対する絶対的な感情が大きく優先されてしまう

とても優柔不断だ
絶対の存在である彼女に対して
なんて無礼な、とも思う
けど事実は変わらない
私が認めたくなくても
ただの事実だけがそこに在る

こんなことを伝えたら
彼女は微笑んでくれるだろうか

きっと私の大好きな
柔らかい笑顔で
ありがとうと言って
軽い足取りで私の一歩先を歩いていく

私はひとつまみの寂しさを覚えながらも
幸せに満たされながら
彼女の少し後ろを歩く

今は寂しいだけだ
大丈夫
きっとひと晩ゆっくり眠れば
この気持も落ち着くだろう

そう信じたい

ちゃんと友として
大切な人と思っているんだという
現実を待ち望んでいる

笑う時に口元へ運ばれていく手の動きが
猫によく似た眼差しが
切ったばかりだという短い髪が
とても尊くて
私は恋をしている人と同じ時を過ごしていたということにさえ
気づかなかった

なんて愚かで鈍いんだろう
もっと話したいことがあったというのに

今も大切だということを
ちゃんと伝えればよかったのに

私は本当にバカである


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