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堕ちる 3...2...1.....

先生、これがせいいっぱいです…。
女は震える唇で男の耳に囁いた

手が触れるだけで
水に溶けてしまうような
海に還るような心地よさ

触れているのは指先だけだというのに
身体の全てを飲み込まれてしまいそうな感覚に陥る

自分と相手の境界線が分からなくなってしまう
そんな危うさと高揚感が
とめどなく女の内側を溢れさせる

ここに私がいるのかさえ危ういほどの
だれかに溶けてしまう感覚

この幾重かの布の下に
蕩けてしまうような肌が隠されている

歳を重ねたからこそ
にじみ出てくる絹にもまさる滑らかさ
きっと触れてしまえば
戻ってこれなくなる

知っている、知っているじゃないか
止まらないと…

ふっと息を吹きかけられただけで
陥落してしまう崖っぷちに私は今立たされている

さっきから頬を赤く染めている体温は
脳髄まで熱してしまったのだろうか
肺からなんとか押し出される吐息で
喉を焼いてしまいそうだ

若い男が相手ならまだしも
ダメだ

この肌の持ち主が
先生であるということが
最も私にとって都合が悪い

だから私は
ガサついたアウター腰の先生の腕を掴み
その身をそっと離した

限界なのだ
本当に、これが

一歩踏み出してしまえば地獄が待っている
砂糖を煮詰めてもまだ足りない甘さで私を狂わせ
果てに待つ地獄
安っぽく言えば破滅だ、絶望だ

ほら、先生の向こう側で
手招きしているぞ

あぁ、手を伸ばしてしまえば
この身を滅ぼせられるのに

ぐらぐらする意識を
耐えるのに精一杯だ

一体どれだけの時間が流れただろう
手首から微かに聞こえてくる秒針の音が嫌にうるさい

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