Review-#012 『やがて君になる』

「特別」って、めんどくさい


 毎日更新(予定)の「アニメを観たので感想を書く」コーナー、3発目は『やがて君になる』です。ここから3日間、いわゆる「百合系」アニメが続きます。一部怪しいのもあるけれど。いえ、百合です。紛うことなき百合ものです。今のうちに宣言しておきます。

 今まで観なかったんですけれどね、こういった作品は。別に同性愛ものに抵抗感があるとかそういうのではなく、単純に観たい作品が他にあったからという感じでしょうか。まぁレビューするにあたって、色んなものを観るようになったというのが大きいのかもしれません。結局観るものが偏っているようにも見えますが…。

 ちなみに『やがて君になる』、略して『やが君』の原作は冒頭をちょこっと読んだぐらい。最初の出逢いは知っているのですが、そこから先は殆ど知りません。そんな(またしても)ほぼ新規勢の感想となります、よろしければこのままお進みくださいませ。

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<今回紹介する2018年秋アニメ一覧>
SSSS.GRIDMAN
青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない
やがて君になる ←いまここ
となりの吸血鬼さん
うちのメイドがウザすぎる!
抱かれたい男1位に脅されています。
宇宙戦艦ティラミスⅡ
ゾンビランドサガ

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やがて君になる (2018年10月-12月)

アニメーション制作:TROYCA
監督:加藤誠
シリーズ構成・脚本:花田十輝

<TVアニメプロモーション映像>

<☟原作コミックもどうぞ>
やがて君になる (月刊コミック電撃大王連載・2015年6月~)

作:仲谷鳰

<☟スピンオフのノベライズ版にも注目!>
やがて君になる 佐伯沙弥香について (電撃文庫・2018年11月10日)

作:入間人間
イラスト:仲谷鳰

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【ストーリー】自分の気持ちって何なんだろう

 高校1年生の小糸侑(こいと ゆう)は、人を好きになるという特別な気持ちが分からず、中学校のクラスメイトからの告白に頭を悩ませていた。
 部活動決めの際に、教師の勧めで生徒会に向かった侑は途中で先輩である七海燈子(ななみ とうこ)と出逢う。彼女もまた、特別な気持ちが分からずに、何度も他人からの告白を断っていたのだ。

 共通した思いを抱える二人。だが侑は燈子から意外な言葉が告げられる。

 「君のこと、好きになりそう」


 こんな感じで始まる1話。ラブ・ストーリーは突然に。

 この作品は間違いなく恋愛ものなんだけれど、主人公格の侑と燈子がそうであるように、「人を好きになる」とはどういうことなのかというテーマがあります。少なくとも恋愛漫画の王道を征くようなストーリーとは、ちょっと違う。

 で、記事冒頭で「めんどくさい」という書き方をしたのですが、うむ。観たらきっとわかります。実際めんどくさい関係なんだこれが。
 何がどうめんどくさいのか、ということをどのように書き表せば良いのか、非常に悩むところです。何故かと言えばこの作品の魅力がそうした彼女たちの心理描写にあるからです。下手に紹介したら観る面白さが半減しちゃいそうでね…そのぐらい繊細で複雑な心の内を描いているんです、『やが君』は。

 ちょっとだけ明かすとするなら、一番めんどくさいのが七海先輩。まず第1話からして「何を言っているか分からない」と侑も困惑の告白ですからね。それまでどきどきしたことも無かったはずの先輩からの突然のラブコール。

 でも、これは言ってみれば七海先輩のわがままでもあるんです。
 「誰のことも特別に思わない?」
 「…はい。きっと、誰も」
 これから視聴する際はここのやり取りを覚えておくといいと思います。ここから「君のこと、好きになりそう」という流れになりますからね。

 サブキャラクターもそれぞれの恋愛観を持って、この作品に登場しています。ライバルキャラクター…とは言い切れないけれど、七海先輩の親友でもある佐伯沙弥香は彼女のことが好きであるものの、その想いを伝えることはせず、彼女を支えています。
 この作品のストーリーは基本的には侑と七海先輩にフォーカスが当てられていますが、佐伯先輩からの視点で描かれているエピソードもあります。
 皆知れば知るほど愛着が湧いてくるキャラクターばかりなんだけれど、知ったときに一番辛いのが、多分佐伯先輩。まぁ、OP映像からして…ねぇ。
 彼女に興味が出たらノベライズ版に手を出してみるのも良いかと。

 あ、あと槙くん。侑と七海先輩の関係性を知る数少ない人物の1人です。焚きつけ役とも言う。自分があまりこの界隈の作品を知らないっていうのもあるんだけれど、「そう来たか」と思わせられるキャラです。でも彼の言い分も何となく分かる。ちなみに生徒会メンバーに堂島くんという男性キャラが居ますが、残念ながら彼とは付き合いません。残念ながら。


 ストーリーでは中盤から「生徒会劇」について触れられます。七海先輩の過去や、そこから生じた彼女自身の複雑さを知れる重要なエピソードになっています。劇ということで「台本」の存在もこれまた重要で。こよみ凄ぇ。
 七海先輩の「めんどくささ」は、その言葉で片付けられるのであればまだ可愛い方だったかもしれませんね。ですが実際には「めんどくささ」が残酷な側面を生み出している。後述する演出の妙もあって、それが嫌と言うほどに突き刺さります。七海先輩自身もわがままについては自覚しているんですよね。だけど彼女自身を知ると「ズルいなぁ」と思うことはあれど、嫌いにはなれないというか。
 各々、自分にとって一番良いと思える方へ、精一杯のことをしているだけなんだよね。だからこそ切ない。くどいけど特に佐伯先輩が。

 恋愛を題材にしたヒューマンドラマの体を成しているようにも見える本作、でもちゃんと二人はイチャついています。傍から見ればね。
 キスもしますし、手も繋ぎますし、七海先輩は侑を下の名前で呼びますし、家に誘いますし、ここまでキャッキャウフフしているというのに…。
 ウソみたいだろ。付き合ってないんだぜ。これで…
 
それと佐伯先輩も可愛い所を見せます。でもこうしたシーンも、事情を知ると何処か切ない気分になって。くどいけど特に佐伯(以下略)


 この難易度マニアックな恋愛の行く先が果たしてどうなるのか、リアルタイムで観ていた時は気になって仕方がなかったですね。以前言ったように秋アニメは全体的にクオリティが高かったという印象がありましたが、引き込ませる強さで言えばその中でも上位に挙げられそうな気がします。

 最終話を観終えて、「あれ? ここで終わり?」と思うかもしれません。ネタバレになりますが生徒会劇の幕は上がりません、その前で終了です。原作だとアニメの最終話から本番までの間であと2,3話あるらしいので、全13話じゃあ入りきらないわな。ただ下手にアニオリ展開にしてねじ込むぐらいなら、こういうエンディングにしてもらった方が満足度は上がるでしょうね。
 どうやら原作では、この1クール分の物語で折り返し地点に立つみたいです。つまり2期が来れば、アニメもめでたく完結できると。最後まで気にならせて終了、ということで続きが観たい方は是非応援しましょう。

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【作画・劇伴等】心を描く演出の妙

 アニメーション制作を担当したのはTROYCA(トロイカ)。過去には『アルドノア・ゼロ』(A-1 Picturesとの共同制作)や『櫻子さんの足元には死体が埋まっている』を手掛けています。ゲームだと『Fate/Grand Order』の第2部OPアニメーションを担当しています。

 綺麗な作画です。それ以上にこの作品で注目したいのは、丁寧な演出による心理描写
 何気ないように見えても、如何にもなシーンでも、それぞれの複雑さを描いた本作のストーリーにおいて、各話の演出が見事にマッチしています。

 色々語りたいところだけれど、ここでは第1話だけ。
 個人的な感想として、お気に入りなのが侑と侑の友人であるこよみ&朱里との昼食シーン。恋愛に関しての、友人に対してさえ出来てしまう距離感を表現していて、原作を読んでいた時も印象深い場面だったのですが、アニメ版では絵が動くということを活かしてそこにアニメとしての演出もプラスされています。
 それでいて、原作で描かれている「光と影の対比」という良さが失われていない。このシーンだけでなく『やが君』は日の当たる所とそうでない所で、そこに立つ人物が何を考えているのか、何を思っているのかを示唆している演出が特徴的です。空間内に置かれている「小物」もいい仕事をしています。

 キャラクターの動きや表情もまた、心の内を描くための要素になっていて、アニメとしてこの作品に触れる価値があると言えるでしょう。
 『劇場版 はいからさんが通る』でも紹介した、大島ミチル女史による落ち着いたBGMも素敵。この人は雰囲気に合わせるのが上手よね。

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【総括】13話で描く、もどかしいふたりの行方

 評価はAMAZING。2発目です。百合作品であるということに抵抗を持つ人はいるかもしれませんね。キスシーンをはじめ、恋愛ものなのでそういうのは勿論あるし。何にしても人それぞれだということで苦手な人に無理矢理薦めることはないにしても、抵抗が無いのであれば観てもらいたいなと思える作品です。要はアタリです。

 至って真面目な人間ドラマを、百合を題材にして展開しているっていう感じ。変わり者のキャラクター達の繊細で複雑な心を、動きや演出などと合わせて丁寧に描いていると思います。感情移入できるかどうかは人に依るかと思いますが、ストーリーの中で明かされた彼女たちの気持ちを拾っていくと、また見方も変わって来るのではないでしょうか。
 近いようで遠く、もどかしく切ない恋。距離感があるはずなのに「YOU付き合っちゃいなよ」と言わんばかりのイチャつきっぷり。毎回毎回先が気になる展開と言うこともあって見応え十分な一作です。


 さて、この後は『となりの吸血鬼さん』と『うちのメイドがウザすぎる!』ですか。素敵で綺麗な作品を紹介した後だと、なかなかにインパクトのある流れですね。ほのぼの&ドタバタ。うーん、凄いことになりそう。

〈了〉

©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会