#026 はじまりは『DISCOVERY』
前々から地味~に言及していた話題をついに解禁するというのは、ドキドキすると同時にちょっと勿体ないかなぁとも思うのであって。
だがそんなことは大した問題ではない。このタイミングで出す理由はちゃんとある。こないだ届いたのである、待望のニューアルバムが。
『Heart Of Gold』。今年、デビュー30周年を迎えるSING LIKE TALKING(シングライクトーキング)の4年半ぶりのアルバムだ。
以前からCDを予約しただの買っただのちょこちょこ触れていたのは、このアーティストの作品である。え、全然覚えていない? うん、まぁそうだわな。ドキドキするほどでもなかったかもしれん。でも作品そのものに対しては毎回ドキドキした心境で聴いている。途中休止期間をはさみつつも30年という長い彼らのバイオグラフィは、今からではひとつひとつ追うのも振り返るのもとても大変だ。この記事では自分の手の届く範囲で、この30年間の自分なりの感想を綴っていこうかと思う。
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SING LIKE TALKINGは1986年にヤングジャンプ・サウンド・コンテストでグランプリを獲得、1988年に今は亡きファンハウスから1stシングル『Dancin' With Your Lies』でデビューを飾っている。
デビューから一貫して青森同郷の3人組で活動しており(デビュー前は6人組だったが、プロデューサーの意向で3人がスタジオミュージシャンとして活動することになったのだそうだ)、
・佐藤竹善 (リードボーカル・キーボード・ギター)
・藤田千章 (シンセサイザー・バッキングボーカル)
・西村智彦 (ギター・バッキングボーカル)
SING LIKE TALKINGというバンド名が分からなくても(ファンとしてはちょっと寂しい気持ちにはなるが)、個人名を挙げるとそれなりにピンと来るかもしれない。
佐藤竹善氏はデビュー当時(厳密には修業期間)から凄い歌を歌っていたりする。このCM。
今はめっきり聴かなくなってしまったコカ・コーラのCMソング「I feel Coke」。さわやかテイスティなんていうキャッチコピーも随分と過去のものになってしまったが、何にせよさわやかさをアピールした曲には竹善氏のさわやかなボーカルが良く似合う。上田正樹氏など様々なアーティストが歌ったバージョンが制作され続けていたが、やはり私としては竹善氏がベストであると推したい。それにしてもこの映像は時代を感じるね。今じゃローラーブレードなんてめったに見なくなったし(公共の場でやっているところなんてもっと見たことない)、縦長の缶も瓶詰めもメインではなくなったし。流行も様式も変化するには30年という期間は十分すぎるんだなぁ…
藤田千章氏は『サモンライド』…じゃねぇ、『サモンナイト』シリーズの主題歌の作詞作曲を担当していたことでお馴染みだ。『サモンナイト6』は別の作詞・作曲家が担当したけれどね。
西村智彦氏…に関わらず、この3人はソロ活動が活発である。西村氏は甲斐よしひろ氏や尾崎亜美女史などのバッキングやプロデュース・楽曲提供を行っている。
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Wikipediaを見ると「長寿バンドなのに大きなシングルヒット曲が無い」と、特異なポイントとして挙げるにはあんまりな書かれようをされている。でも実際そういう所があるから否定できないのもまた事実であって。売り上げについて私は詳しくないが、シングルで10万枚を超えた作品は無い…らしい。だがアルバムは過去に2回オリコン1位という記録を残している。つまりファンが個々のシングルはあまり購入せずにアルバムが出た時に購入するという、奇妙な売れ方をしているのである。確かに各シングルのカップリングを見てみると、アルバムにも収録されているか、既存曲のアレンジバージョンまたはライブ収録曲であるものが多い。「どうせアルバムに収録されるだろうしそれがリリースされるまで待ってもいいでしょ」ということなんだろうか。
周囲に「SING LIKE TALKINGっていうアーティスト知ってる?」と訊いても首を縦に振ってくれる人はあまり多くない。1988年にデビューし今なお活動を続けているアーティストと言えばB'zやエレファントカシマシがひとえに有名だ。そちらは分かっても同期のこちらは認知度が低い、成程大きなシングルヒットがないことが少なからず影響しているのだろう。
人気になり過ぎてもアンチが増えるから…という冗談はさておき、SING LIKE TALKINGが生み出した作品は「隠れた名曲」というレッテルを貼るには惜しいサウンドが構築されている。私としては色んな人にこのアーティストの良さを知って是非聴いてみてほしいなと思うから、発信力はともかくこの場を借りて紹介する次第である。
ふーん、じゃあこのアーティストってどんな音楽なの? ジャンルは?
と、訊かれると一言では言い表せない。本当に多様過ぎて、30年間とは言えここまで変遷が激しいものなのかと私も驚くぐらいである。
私はSING LIKE TALKINGには5つのピリオド(区切り)があると考えている。順を追って説明しよう。
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【1988-1989】 全面に押し出された若さと洋楽アーティストの影響
竹善氏は幼少期はバリバリの演歌好きだったが、ビートルズの赤盤(『ザ・ビートルズ 1962年~1967年』)を境に洋楽に傾倒したのだそうだ。メンバーの3人は高校から音楽活動をしているが、竹善氏と西村氏が組んでいたバンド「リファイナー」ではカーペンターズ、クイーンなど、洋楽アーティストの影響があった。
特にAOR界の大物であるクリストファー・クロスが重要人物であろう。ノンジャンルとも呼ばれるSING LIKE TALKINGのCDをタワーレコードなどで探そうとする時、ジャンルが「大人のロック」に分類されることがある。大人のロックすなわち Adult Oriented Rockということだ。サザンオールスターズなどもここに入れられているようで、「ただ活動歴の長いアーティストを一緒くたに入れているだけなんじゃないか…」とも思ってしまうが、 サウンドを重視し落ち着いたボーカルの曲はSING LIKE TALKINGのテイストと一致している。
1988年に1stアルバム『TRY AND TRY AGAIN』がリリースされたとき、CDの帯にTOTOのドラマー、ジェフ・ポーカロが「凄いバンド」と称賛の文を寄せている。「是非一緒にライブをしたい」とも書かれており、実際に渋谷クラブ・クワトロでデビューライブを行った際にはジェフ・ポーカロとネイザン・イーストが参加していた。
だがデビューライブに集まった観客の99.9%がTOTOファンで「完全アウェー」の気分だったらしい。この後もSING LIKE TALKINGは鳴かず飛ばずな状況がしばらく続くことになるが、それでもライブやラジオを通じてファンを少しずつ獲得していくことになる。
デビューアルバム『TRY AND TRY AGAIN』と、2ndアルバム『CITY ON MY MIND』の2枚は洋楽アーティストの影響の強さがよく現れている。メロディもとてもキャッチーであり、口ずさみやすい曲が多い。
千章氏が手掛けるリリックも、他の年代と比べると個性的である。歌詞の途中で横文字を混ぜるスタイルは、後年になるほどあまり見られなくなっていく。『METABOLISM』は別格だけど。特に『EVENING IN BYZANTIUM』にJessie(ジェシー)という人名が入る曲は非常に珍しい。
この2枚から私がおすすめするのはコレ。
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『TRY AND TRY AGAIN』: 言わずもがな表題曲。サウンドはいかにも80年代ではあるが、この時点でSING LIKE TALKINGとしての「それらしさ」を押さえている。一番凄いのが、先述したヤングジャンプ・サウンド・コンテストにてこの曲を演奏してグランプリを獲得したこと。そりゃあ納得ですわ。
『DANCIN' WITH YOUR LIES』: デビュー曲。5分以上のデビューナンバーって少数派だと思う。ギターのカッティングが格好いい。歌詞も若さに満ち溢れている。
『11月の記憶 ~RAINING BLUES~』: SING LIKE TALKINGのバラードナンバーはどれも魅力のある曲になっているが、初期作ならばやはりこれを推したい。RAINING BLUESなので雨の日に聴くと、何度もリピートしたくなるような作品。
『On The Crazy Street』: ここから『CITY ON MY MIND』。映画『もっともあぶない刑事』の挿入歌にもなっている(英歌詞バージョン)この曲、本アルバムの主題となっている「都会」が曲・歌詞とともに一番体現しているんじゃないかと思う。
『Friend』 : ハーモニカが印象的。他の曲に比べるとサウンドがポップ寄りであり、Friendらしく親しみやすさもある。
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【1990-1993】 ロッド・アントゥーンとポップに洗練されたサウンド
ロッド・アントゥーンをプロデューサーに迎え入れてから大きく変化したものはやはりサウンド。3rdアルバム『III』と4thアルバム『0[l∧V]』を聴き比べると、テイストの違いが表れているのがよく分かる。あと竹善氏のボーカルも心なしか深みが増したように思える。
ファンク色が強くなっただけでなく、『La La La』などのこれまでにはなかった曲調のナンバーが増加。全体的には前の2枚と比較すると、割と万人にとっつきやすいポップなサウンドになっていると思う。
あと、ここからSING LIKE TALKINGに大きく関わることになるドラマー、沼澤尚氏が参加。最近はあまりレコーディングに参加していないみたいだけれど、また演奏してくれないかなあ。
『0[l∧V]』からの曲が知名度が高く、どうしても『III』以前の曲が地味だと思われがち(個人調べ)なのだが、良い曲揃いなのでやはり聴いてほしい。興味のある人は『REUNION』を購入しよう。セレクション・アルバムという扱いではあるが、何気にライブ限定曲やアルバム未収録曲が入っているので要チェック。
4枚のアルバムがリリースされているが、どのアルバムにも共通して言えるのが冒頭・中盤に挟まれるインスト曲の存在。各アルバムに3,4曲収録されおり、全体の印象付けを担っている。
サウンドの変遷の中で6thアルバム『ENCOUNTER』が特に異色を放っている。5thアルバムの『Humanity』までは、ポップな変化こそあってもAORという元々のSING LIKE TALKINGが持っていたサウンドを広げていったイメージがある。『Humanity』はAORの到達点だという印象が強い。だが、それから1年後にリリースされた『ENCOUNTER』は『III』と『0[l∧V]』以上に変化が見て取れるのだ。キーボード・シンセサイザーという電子的な音色からアコースティックな音色が主体となっている傾向にある。ひとえに様々なジャンルのサウンドを貪欲に取り入れていることの表れと言えよう。
おすすめ曲はこちら。4枚あるので結構多い。
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『Livin' For The Beat』: 『III』を一から聴いてまず本作の印象を付ける曲。
『CITY ON MY MIND』以前のサウンドを取り入れつつ、ファンク色が増した
感じ。
『Find It ~初夏の印象~』: 曲の展開が好き。ちなみに印象と書いて「イメージ」と呼びます。アップテンポでポップなメロディが気持ちいい。
『Time Of Love』: 完全非公認だが私は「なんとか Of Love」シリーズの第1曲目と位置付けている。茶化しているのではなく、このシリーズの曲はどれも印象的。まとまりのあるサウンドが純粋に響く。
『Is It You』: サビのファルセットが美しい名バラード。スロウなメロディと歌詞が胸を打つ曲。
『さよならが云える時』: 失恋曲。サウンドが明るく、それだけにこの曲のどことない切なさが強調される。2016年の日比谷のライブで歌っていたのがハイライト。『III』以前の曲は近年はあまり歌わないという先入観があったからかしら…。
『Steps Of Love』: ここから『0[l∧V]』収録曲。「なんとか Of Love」シリーズ第2弾。キーボードリフが特徴のポップなナンバー。終盤から入るサックスもGOOD。
『La La La』: 「世界ふしぎ発見!」のエンディング・テーマに使用されたことで有名。ここから知った人もいるんじゃないかなぁ。地球環境問題にフォーカスを当てたアフリカン・サウンドの曲だが、レコーディング中に湾岸戦争が勃発したことにより制作されたPVを含めてさらにテーマ性が強くなったと思う。
『嵐の最中 ~Reintroduction~』: 「最中」の読み方は「なか」。「さいちゅう」でも「もなか」でもない。それはさておき、この曲の歌詞は別れた後にもう一度やり直す、いわゆる「遠距離モノ」。西村氏のギターが「嵐」を感じさせる。
『Hold On』: 『Humanity』収録曲。このPVを観て「あー、竹善氏って煙草吸うんだ」という感想を抱きました。じゃなくて、TBS系ドラマ「素敵な恋がしてみたい」や「ねるとん紅鯨団」のエンディング・テーマに採用されたこともあってこれまで以上にポップさが際立つナンバー。終盤で転調と共にアカペラになる部分がとても印象的。
『With You』: ギターの力強さが非常に表れているラブ・バラード。コーラスも美しく、ストレートな歌詞から満ち溢れるエネルギーが5分という時間を短いものにする。
『Rise』: SING LIKE TALKINGの屈指の人気曲。元はラジオ番組の企画で、シェリル・リンの『Got to be real』からどこまで名曲に仕上げられるか、DREAMS COME TRUEの中村正人氏と勝負して作られたものである。DREAMS COME TRUE側はこの企画で『決戦は金曜日』を制作、結果としてミリオンヒットとなった。さすがドリカム。グルーヴ感とアシッドジャズの魅力に詰まったこのナンバーは、現在でもライブの終盤を盛り上げる存在。
『It's City Life』: SING LIKE TALKINGが『Humanity』でシティ・ポップの曲を書くとこうなるんだろうな、というイメージドンピシャの作品。90年代のポップシーンを取り入れつつSING LIKE TALKINGの持つテイストが見事にマッチングしている。
『心のEvergreen』: この時期の曲として入れるのは大間違いなのだが、『REUNION』に収録されているのでこのタイミングで挙げておく。リリースされたのは1989年、しかし翌年の『III』に収録されなかった幻のシングル曲。日本武道館のライブでは『Spirit Of Love』を差し置いて大トリを飾っている。メロディが美しく、何故これがアルバムに収録されなかったのかが今でも不思議。『Anthology』にも収録されていないからなぁ…うぅむ……。
『My Desire ~冬を越えて~』: 『ENCOUNTER』収録曲。1992年8月5日、ジェフ・ポーカロが心筋梗塞により急死。麻薬中毒による動脈硬化が死因であるという説もあるが、とにかくこの人物の死がSING LIKE TALKINGにとってショッキングな出来事であったことは、デビュー当時の関わりから見ても明らかである。追悼曲であるこの曲、ドラマーはSING LIKE TALKINGの元メンバーである佐藤誠吾氏であるがそのドラムセットはジェフ・ポーカロがデビューライブで使用したもの。ポップな曲調の裏にある背景を知ると、よりこのナンバーが重要な存在に思えることだろう。
『離れずに暖めて』: TBS系バラエティー番組『ムーヴ』の月替わりエンディング・テーマでお馴染みの曲。中盤から流れるハーモニカのソロが印象的(2回目)。ライブではキーを2段階下げて歌われることが多いが、実はこっちの方がお気に入りだったりする。
『Restless ~君の許へ~』: アコースティックギターが前面に出されたサウンドは、今でこそ珍しくないが当時のSING LIKE TALKINGとしては結構異質。カントリーっぽいメロディが個人的にすごく好き。クレジットにKnife(ナイフ)があり、「ナイフって楽器になるんだ」と初めて知った曲でもあります。
『止まらぬ想い』:『ENCOUNTER』もバラード曲が多いが、この曲が随一。サックスとストリングス(レコーディングに参加したのはロッド・アントゥーンのご友人だそうな)の音色が美しい。先述したように『ENCOUNTER』はこれまで以上にアコースティックなサウンドがフィーチャーされているのだが、この曲が一つ飛び抜けていると思う。
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【1994-1998】鬼才、キャット・グレイとホーンセクション
1993年を最後にロッド・アントゥーンはプロデューサーから離れ、1994年に沼澤氏が参加している13CATSのメンバー、キャット・グレイにバトンタッチ。7thアルバム『togetherness』のクレジットには沼澤氏がスペシャルサンクスとなっている。「彼無しにこのアルバムは完成しなかった」というのは、キャット・グレイの存在がそれだけSING LIKE TALKINGに大きな影響を与えたことの証左である。
キャット・グレイがプロデューサーになってからの特徴はホーンセクション。ファンクの要素を持つSING LIKE TALKINGにとって、ホーンの相性は非常に良い。それと同時にサウンドがよりポップな方向へ、完成度と親しみやすさが高まっていると言える。
私がSING LIKE TALKINGに出逢ったのもこのタイミング。本ブログ記事のタイトルにもなっている8thアルバム『DISCOVERY』はSING LIKE TALKING史上最も売れた作品である。『togetherness』がホーンを全面に出して60's~70'sのサウンドを彷彿とさせた曲が多いとするならば、『DISCOVERY』はそこに13CATSの好みを混ぜつつポップとの融合を果たした曲が多いアルバムである。
竹善氏はこの頃からソロ活動にも力を入れるようになり、オルケスタ・デ・ラ・ルスの塩谷哲氏とユニットSALT & SUGARを結成したり、オフコースの小田和正氏とユニットPLUS ONEを結成したり。メンバーの中でそれぞれやりたいことが増えてきたのである。
おすすめ曲が多すぎてどうしよう。初心者にはベスト・アルバム『SECOND REUNION』をおすすめする。『REUNION』が『III』までの曲を収録したのに対し、『SECOND REUNION』は『0[l∧V]』から9thアルバム『Welcome To The Another World』の曲、あと当時の最新シングル曲が収録されている。外れ無しの60分、これを聴けば間違いなくSING LIKE TALKINGが如何なアーティストなのかが大体分かる。
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『Together』: 『togetherness』表題曲。本アルバムにおいて完成度の高さはピカイチ。イントロから唐突にホーンが入るこの曲、ライブなどでは色々改変されていたりする(日比谷ではIt's Only a Paper Moon)ので気になる人は調べてみよう。キャット・グレイが楽曲制作に大きく関わっており『SECOND REUNION』の紹介文通り、三拍子揃った彼ならではの作品。
『Joy』: 『togetherness』では、これまで以上にポップなキーボードとシンセサイザー主体のナンバーも収録されているのが特徴であり、以前のSING LIKE TALKINGっぽさを残している。間奏からジャズギターも入り、気持ちのいいほど明るく快活なメロディがとても好き。
『My Eye's On You』: 一つ前の曲『風に抱かれて』と共に60's~70'sっぽさが表れている曲。アダルトなサウンドとSING LIKE TALKINGの楽曲の中でも一際目立つファルセットがこの曲のオシャレさを構成している。余談&この曲ではないが、本アルバムでは『Best of My love』で知られるコーラスグループThe Emotionsが『風に抱かれて』と『Between Us』に参加している。
『Standing』: 1993年にリリースされた曲なので、この時点ではまだキャット・グレイは参加していない。過渡期というところか。メロディに挟まれるアコーディオンの音色が心地よい。『togetherness』はファルセットの部分が多いが、この曲のサビも全面ファルセット。
『点し火のように』: キャット・グレイの時期で聴くことが多くなった楽器と言えば? という質問には3つ挙げられる。 ホーンセクション、フェンダー・ローズ、そしてストリングス。『Your Love』と同様にストリングスがフィーチャーされたこの作品、4分ほどの短い曲(90年代のSING LIKE TALKINGは5分超えの曲が多いので…)だが全面的にストリングスが出ている。何度も繰り返して聴きたくなる曲の一つ。ピアネットの音色も雰囲気作りに一役買っている。
『みつめる愛で』: 思い入れが強い『DISCOVERY』の収録曲はどれもおすすめしたい。マジで。だがそれだと何の紹介にもならないので、ね。塩谷氏が演奏するピアノに聞き惚れる一曲。
『Burnin' Love』: ライブの定番曲。どう聴いてもEarth, Wind & Fireの『Let's Groove』です、本当にありがとうございました。じゃなくて、ドラム・ホーンセクション共に『Let's Groove』を思い起こさせる、グルーヴ感に溢れている。ドラムも非常に目立っており、ノリノリにさせるナンバー。
『心の扉』: この曲なしにSING LIKE TALKINGには出逢えませんでした、そのぐらい私にとって重要なバラード曲。NHKの「衛星放送&Hi-Vision」イメージ・ソングで、Bメロから入るホーンセクションが印象的。展開も非常に好み。ええ、肩入れしまくってます。お気に入りですもの、いくらでも肩入れしてやりますよ。
『夏の彼方』: まずピアノのイントロが胸に響く。『DISCOVERY』において唯一6分越えしているバラード曲だが、最初から最後までサウンドの一つ一つが染みわたる。切ない歌詞もこの曲の魅力。
『Seasons Of Change』: 7分近くに及ぶ『Welcome To The World』の1曲目を飾るナンバー。とても迫力のある曲で、サウンドの厚みが半端ではない。中盤からの西村氏によるギターには圧倒の一言。
『Forever』: キャット・グレイが作詞に協力しているためか、全体の90%が英歌詞。韻をしっかりと踏んでおり、内容も恋愛を歌った曲が多いSING LIKE TALKINGにしては斬新。何よりホーンセクションをはじめとするサウンドの完成度が非常に高い。
『君の風』: これまで千章氏が作詞、竹善氏が作曲を担当しているスタイルが主流だった中、この曲は作詞・作曲どちらとも竹善氏が担当。歌詞も千章氏のと比べると結構な違いが見られる。メンバー内で物議を醸したそうだが、それはともかくストリングスを押し出したこの曲はとても爽やか。間奏からサックスも入り、豊かなサウンドになっている。
『Spirit Of Love』: これを入れずして何をいれるのか、というぐらいSING LIKE TALKINGを語るには外せない1曲。天才ジョッキー武豊氏が佐野量子女史と婚約するにあたって書き下ろされたこの曲、ゴスペルを意識したような曲をと頼まれたそうでレコーディングでは本格的なゴスペルクワイアを呼んでいる。もう圧巻。ライブのトリを飾る定番曲なのも頷ける。
『Firecracker』: 『SECOND REUNION』にも収録されている、「あぶない刑事 フォーエヴァー」主題歌。ポップとロックとファンクの3要素が綺麗に、そしてエネルギッシュに合わさったナンバー。
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【2000-2004】 ロック・マイ・ワールド
ソロ活動がメインになりつつあった2000年代も、2004年に活動を休止するまで2枚のアルバムが出されている。記念すべき10thアルバム『METABOLISM』は4年ぶりのアルバムということもあってファンとしても期待の新作だったのだが、そこで展開されたのは「何を血迷ったのか」と誤解されそうな、ロックを前面に押し出したサウンドであった。
私も正直、聴いて色々と困惑した。これまでとは変化の仕方が大きく違っている。特に『Hyper Overdrive ~不完全な個体~』など実験的過ぎる曲もあったりして、どことなくクセになるがクセが凄すぎるのもまた事実。
『0[l∧V]』や『togetherness』以上の変革、これはひょっとしたらSING LIKE TALKINGとしても大きな挑戦だったのかもしれない。4年の間にメンバーが得たものが、彼らがやりたかったこととしてこのアルバムに投影されたのだとしたら。色の異なる16曲が収録された本作は、間違いなくこれからも問題作としてSING LIKE TALKINGのディスコグラフィに名を残すことだろう。
だが、サウンドと同じぐらい変化が見られたのは歌詞。「ボク」や「キミ」、代名詞がカタカナになったのは序の口。初期に見られた歌詞の途中で挟まれる横文字も復活、『METABOLISM』では斜め上の使われ方をしている。
それ以上に、これまでの作品では見られなかった難しい言い回しをした表現が多くなった。個人的には『Firecracker』以前のストレートな歌詞が好みだけれどね。普段の会話に似たようなちょっとぎこちないような感じの歌詞というのが、2000年代に入ってからのSING LIKE TALKINGに見られる印象である。ただ、SING LIKE TALKINGの名前の由来は女優・李麗仙のテレビインタビューで出たテロップ「語るように歌う」から来ている。とすると、なるべくしてなった、当然の帰結なのかもしれない。
おすすめ曲は勿論ある。この時期の曲はファンの中でも賛否あるけれど、まずは聴いてみて。
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『The Law Of Contradiction』: イントロダクションの『Premonition(悪い予感)』からそのまま繋がる、本アルバムのインパクトを象徴する一曲。西村氏大活躍の巻。歌詞カードを見ても、もう終盤の方なにがなんだか。ただ一つだけ、「役不足」の使い方が間違ってるぞ千章氏…と言いたいところだけど計算されているかのようにも思える。なんせ「矛盾律」ですから。ここまでメタルメッタメタな曲なんて作れないんじゃないかなぁ。
『My True Colors』: クセがすごい『METABOLISM』の中でも、ロックではあるがストリングスなど従来のSING LIKE TALKINGっぽさを持ち合わせたナンバー。ロックなテイストは、それはそれでサウンドの重厚感を増させるのに充分だと思う。まぁファンクとかポップとか、そちらの方向に突き進んでいたSING LIKE TALKINGがそれを使ったというのが問題…ていうか驚きだったんだけれどね。
『One Day』: ギターを持った竹善氏というのは、私にとって『ニューヨーク78番街』を出したビリー・ジョエルが『グラス・ハウス』をリリースする以上の衝撃であって。この曲は『firecracker』以来の久しぶりのシングル曲。明るくシンプルに、それでもってストレートな歌詞がそれまでのSING LIKE TALKINGっぽさを思い起こさせる。
『回想の詩』: 7分を超える描写に富んだ作品。成程今までの歌詞の感じでは表現しにくかっただろうなぁ、と思いつつも最後のワンフレーズが本アルバムにおいて屈指のストレートさを持っていて、このために壮大な語りがあったんだなと感じずにはいられない。ストリングスの旋律が綺麗。
『摩天楼の羊』: 11thアルバム『RENASCENCE』は『METABOLISM』程のハードさはなく、むしろ『DISCOVERY』のようなポップとロックを融合させたようなテイストの曲が収録された作品と言えるだろう。この曲はスピード感のあるロックを前面に出しつつも、本作のライトなポップの色が見え隠れしているように思う。
『月への階段』: ピアノとストリングスをフィーチャーしたナンバー。全体的なサウンドは個人的に本アルバムで1,2を争うぐらいに完成度が高い。
『The Love We Make』: コブクロがカヴァーした曲として意外と知られていたりするんだろうか。ライブで出だしの音取りをミスっちゃってやり直した曲として意外と知られていたりするんだろうか。サビの歌詞とメロディが印象的。
『星降らない夜』: 『METABOLISM』ではサウンドや歌詞の変化だけでなく、楽曲制作の方針も大きく変わっている。竹善氏が作詞作曲を担当するだけでなく、千章氏も全面担当したり、西村氏が作曲を担当したり。西村氏が作曲した『星降らない夜』は『RENASCENCE』からの挑戦である女性歌手、この曲では『火の川』や『線路』で知られる小谷美紗子女史のフィーチャリングが特徴だ。明るく、それでいて落ち着きのあるメロディも西村氏の作風が表れている。本アルバムにはこの曲の他に、矢野まき女史をフィーチャリングした『Borderland』も収録されている。
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【2011-】 再発進、相も変わらず変貌し続けるサウンド
2009年のFM802 STILL 20 SPECIAL LIVE RADIO MAGICをきっかけに、長い休止期間にあったSING LIKE TALKINGが復活。2010年には情熱大陸 SPECIAL LIVE SUMMER TIME BONANZA'10にも参加、そして2011年には7年ぶりのニューアルバムである『Empowerment』を発表。
ここからSING LIKE TALKINGとしての活動が活発になり、ライブも再開。2016年には日比谷にて初の野外ライブを行うなど、メンバーの年齢が50歳を過ぎても、いやこの時期だからこそよりアクティブに色んな事ができるようになったというところか。まさに円熟期。
おすすめ曲はこちら。最新アルバム『Heart Of Gold』に収録されている楽曲はまた別の機会で触れられたらと思う。
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『Through The Night』: 先行シングル『Dearest』のカップリング曲で、12thアルバム『Empowerment』の1曲目でもある。イントロからして落ち着いた曲…と見せかけてからのファンクへの変化。『Together』みたい、と思ったのは私だけじゃないようで良かった。この曲はどちらかというとポップ寄りのファンク。個人的にはパーカッションとしてキャット・グレイが参加しているのが良いと思った。
『Wild Flowers』: チェロの重厚な音色が染みわたる。ボーカル曲のラストを飾るこの曲は、前の曲『Desert Rose(Ademium)』と同様、自分や愛する人を花に例えた歌詞が特徴である。
『The Great Escape』: デビュー25周年の13thアルバム『Befriend』は、まずこのホーンセクションをフィーチャーした曲から始まる。往年のファンクを思い起こさせつつ、2013年という世相を反映したようなサウンドはSING LIKE TALKINGならでは。
『89番目の星座』: 親しみやすいポップな曲調とストレートな恋の歌は、25周年の新作シングルという位置づけにふさわしいものとなっている。欲を言うともうちょっとサウンドに厚みがあっても良かった気もするけど、SING LIKE TALKINGはライブが魅力。CDで聴くのとは明らかに違うサウンド・アレンジが施されており、ライブに行く楽しみの一つにもなっているんだろうと思う。ライブでアレンジするとこの曲もより映えるものとなるだろう。
『Luz』: 東日本大震災の復興支援を目的に配信されていた楽曲。SING LIKE TALKINGとアフリカン・サウンドは『La La La』が一重に有名であるけれど、こちらも捨てがたい。パーカッションが全面的に・前面的に押し出されており壮大さを感じさせる一曲。
『Ordinary』: 2015年に発表されたセレクション・アルバム『Anthology』は『0[l∧V]』から『Befriend』までの楽曲がそれぞれ5~9曲ずつチョイスされて収録されている。ただ収録されているのではなく、リマスタリングがなされているので音質も向上している。本作は5枚組という特大ボリュームであるが、『Ordinary』はDisc 1の冒頭を飾る新曲。ポップとロックが融合した明るい曲とメッセージ性の強い歌詞が心を掴む。
『眩暈 ~Don't Blame It On The Summertime~』: 『Anthology』には4曲の新作が収録されており、これは4曲目。とにかくギターがいい仕事をしている。カッティングも非常にクール。ライブに参加している露崎春女女史とのデュエットもこの曲の特徴。
『Home Town』: 例によって、この時期の曲ではない。この曲がリリースされたのは1998年、すなわち青森市市政100周年を記念したイメージ・ソングである。だが『SECOND REUNION』には収録されておらず、しばらくアルバム未収録曲になっていた本曲が『Anthology』でめでたく収録。少なくとも竹善氏はこの曲の時点でギターを持っていた。まぁ『SECOND REUNION』にはちょっとカラーが合わなくてもロックの強い『METABOLISM』だったらいけたんでねぇの? と思う、やさしさと力強さを兼ね備えたミディアムテンポナンバー。
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それにしてもSING LIKE TALKINGをざっと振り返っても(と言ってもこれまでにない長文になってしまったが…)特定のサウンドが定位置についている時期が本当に、あまりない。「っぽさ」とか「らしさ」はあっても、「この曲調がSING LIKE TALKINGだ!」と定義することが非常に難しい。ポップでもロックでもファンクでも、あらゆるジャンルに手を出して取り入れてきたのが30年続く彼らのスタイル。当然、一筋縄ではいかない。
今なお、SING LIKE TALKINGの新曲を聴いていても以前聴いた曲を彷彿とさせるサウンドでありながらも、やっぱりテイストとか構成が違うというものになっている。1年経っただけ、というか少し時期が変わっただけでここまで変わるのか、と改めて音楽性の広さを実感させる。もうメンバーの3人も50代後半。しかし全然翳りも衰えも見せない、そのことはサウンドからひしひしと伝わってくる。
はぁー、もっとさっくりまとめるはずだったのについ熱を入れて書いて、結局こんぐらい長くなってしもうた。5時ぐらいからずぅっと書いてもう日跨いじまったよ。もう寝ろ。えぇ、もう〆ます。
今年はデビュー30周年。次は35周年を目指すんだろうか? とにかく、飽和することを知らないSING LIKE TALKINGにはこれからも続けられる限り続けていって、是非とも新曲をリリースしていただけたら、と。私自身も追い続けられる限り追い続けていきたいと思っている。