Review-#003 『Heart Of Gold』
SING LIKE TALKINGにとって、"30周年"の持つ意味とは?
以前、「はじまりは『DISCOVERY』」という記事をアップしたとき閲覧数が1週間であっという間に伸びてびっくりした。いやまぁ、それでも他人に比べると少ないとは思うんだけれどね。全然周知していないから当たり前だけど。ただ過去最高の閲覧数だったので、ああやっぱりSING LIKE TALKINGのファンってネット上にはたくさんいるんだなぁと実感します。…でもnoteって、自分が後々見返しただけでもカウントされるんだよね。
さて、本記事ではSING LIKE TALKINGの最新アルバム『Heart Of Gold』を1曲1曲じっくりと聴いてレビューしますよ。ちなみに私は初回限定のCD+DVD盤を購入。DVDには2017年に中野サンプラザで開催された "SING LIKE TALKING Premium Live 29/30 -SING LIKE POP'N ROCK & MELLOW-" の "Rock of the day"から4曲分の映像と本アルバム収録曲のPV映像が収録されている。でも今回はあくまでもCDの方の評価なので気になる人は購入するか、いずれ発売されるであろうライブ映像の円盤を待ちましょう。
で、一通り聴いた後の感想としては、
デビュー30周年という、彼らにとっての"通過点"
このアルバムがそういう位置づけなのではないかと思う。
『Heart Of Gold』、和訳すれば「思いやりのある心」。本アルバムはやさしく、ピュアなサウンドながらそれぞれに独特のアクセントやカラーを出している作品だと言えるだろう。
どういうことかは「はじまりは『DISCOVERY』」と一緒に読んでみると、ちょっとは分かるかもしれない。
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Heart Of Gold (ユニバーサル ミュージックジャパン・2018年1月17日発売)
アーティスト名:SING LIKE TALKING
定価:通常盤【CD】 3,200円+税
初回限定盤【CD+DVD】 4,000円+税
完全受注生産盤【アナログ】 4,200円+税
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※このレビュー記事では私が特におすすめする曲に☆印をつけています。ぜひ注目して聴いてみて。
【Track 1】Prologue
"Heart Of Gold"、本アルバムのタイトルコーラスが入るイントロ。アコースティックギターメインの落ち着いた雰囲気はテーマに一致している。コーヒーかお茶を淹れて飲みたくなる気分にさせる。
【Track 2】風が吹いた日 ☆
2016年はホーンセクションをフィーチャーした年として位置づけられている。とはいってもこの曲はホーンが前面にゴリッゴリに押し出されているわけではなく、メロディアスなポップにファンクのエッセンスを混ぜ込んだ作品。曲の展開もSING LIKE TALKINGとしては割と珍しい。涼やかな風が吹いている感覚は本物だ。
【Track 3】Closer ~寒空のaurora~
SING LIKE TALKINGにおいて、ハーモニカが入る曲はどれも印象深い。その代表が『離れずに暖めて』なわけだが、本作は至って落ち着いた雰囲気、この曲も本作のテーマに近い曲調である。
【Track 4】6月の青い空
前作『Befriend』の『89番目の星座』みたいな曲だな、とはいっても曲調じゃなくて本アルバムにおける立ち位置がそう思える…のは私だけだろうか。シンセメイン、初めは静かに、だんだんと盛り上がっていく本作はやはりライブで映える曲かなーと。色々別の楽器を混ぜるとより厚みの出てくる曲に聴こえることだろう。
SING LIKE TALKINGを題材にした劇場作品『Music Of My Life』主題歌。こっちは観ていませんが、うーん…。興味がないわけではないのだがファンのエピソードを眺めているだけで楽しめるのかなぁ、と二の足を踏んでしまっている自分がいます。
【Track 5】Be Nice To Me ☆
本アルバムにおいてファンク色ナンバーワンの1曲。竹善氏が力強く唸る。今年で御年55歳になるというのにパワーが溢れてますなぁ。『Welcome To Another World』の『Forever』以来の衝撃でしたよ。
【Track 6】闇に咲く花 ~The Catastrophe~ feat. サラ・オレイン (Album Mix)
歌声のアロマセラピーなどと評されたサラ・オレイン女史とのコラボレーション。本曲で流れるヴァイオリンも彼女によるものです。
ドラマ『ブラックリベンジ』主題歌。ドラマとのタイアップって久しぶりじゃない? 本アルバムにはアルバムとシングルの2バージョンが収録されていますが、このアルバムバージョンは出だしの20秒をカットしただけ。あれ、それだけなの? とちょっと肩透かしを喰らった気分。
【Track 7】Hysterical Parade
『風が吹いた日』のカップリング曲。シンセ主体の電子的メロディとジャズが混ざった、本アルバムの異色作。混ざったといっても間奏とアウトロでジャズに切り替わるというだけなんだけれどね。涼やかなシンセの音色に、切なさがほんのりと映る。歌詞はちょっと苦手。
【Track 8】Longing ~雨のRegret~ ☆
2015年、この年はストリングスをフィーチャーした年。近年は従来ではあまり見られなかった曲の展開が多くてそこが何よりも新鮮だと思います。
暖かなメロディ、だけれど切なさが滲む曲調。雨の日にかける曲としては間違いないでしょう。空白の改行が一切入れられていない歌詞は3分で歌いきります。
【Track 9】Sweet Cat Home
以前に比べれば1曲あたりの演奏時間が短くなったとはいえ、2分半で終わるボーカル曲というのも久しぶりです。タイトル通りの曲。ストリングスとアコギ、本作のテーマに沿った曲調ですね。
唐突な自分語り失礼しますが、かつて私も実家で猫を飼っていました。現在この曲をいっしょに聴けないという事実が、寂しいやらなんとやら。
【Track 10】The Ruins ~未来へ~
『Longing ~雨のRegret~』カップリング曲。サブタイトルが付いている曲が多いね、本アルバムは。これは展開も曲調も昔なら考えもしなかった。サビに入ってからの不思議な感覚。一瞬QUEENの『You're My Best Friend』にも聴こえた。でも竹善氏はQUEENにも影響されたわけだし、あり得ないことではなかったりして。
【Track 11】Holy White Night ☆
失恋曲。前作の『Forget-Me-Nots(In Idleness)』ほど歌詞が重くはないけれど、こういう風に締めくくるのかと思うと切なさが更にこみあげてくるというもの。ハープの音色が冬景色の幻想感を漂わせている。
【Track 12】闇に咲く花 ~The Catastrophe~ feat. サラ・オレイン (Single Version) ☆
こちらが先行シングル曲としてリリースされたバージョン。本アルバムのボーナストラック。カラオケで唄うとしたら間違いなくSING LIKE TALKINGの楽曲の中でも難易度が高い部類でしょう。いやいや高い高い。サラ・オレイン女史パートが。
アルバムミックスではカットされてしまったイントロはJ.S.バッハのロ短調ミサ(BWV232)より、『主よ憐れみたまえ』。夫を死に追いやった週刊誌に復讐する女記者の物語だし、歌詞もそうしたストーリーに沿っている。大胆にキリエをイントロに取り入れたことで、先の展開に興味と一抹の不安を抱かせるのに一役買っている。
うむ、アルバムミックスと分けて収録しなくても、これを素直に入れとけば良かったんじゃね? と思ってしまう。12曲合わせても総収録時間は約46分と短めな所為もあるのかもしれないけれど、どうも差別化が足りてない気がする。サビの抜かれた鮨を食べているようなそんな気分。抜かされたのはサビじゃないのに。
…構成の不満はさておき、曲自体の評価に戻ろう。本曲はサラ・オレイン女史の手によるヴァイオリン演奏を織り交ぜつつ、シンセの音色が主体となっている。ダークな曲調、歌詞、まさに『ブラックリベンジ』の雰囲気に合わせたトラックに仕上がっているのではないかと。結局ドラマ観てないなぁ。もっとも、SING LIKE TALKINGが主題歌を担当するというニュースを聞いて知ったというのもあるんだけれどね。
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【総括】SING LIKE TALKINGはまだまだ終わらない、それを強く感じさせるアルバム
前作『Befriend』から4年半ぶりのアルバムということもあって、シングルからの収録曲が12曲中6曲(+1曲)と多めになっている。もっと新曲が聴きたかったなぁ、とも思ってしまうのは贅沢な注文だろうか。
それはこの際置いといて、『Heart Of Gold』が非常にバラエティ豊かな作品になったことは間違いない。
1曲1曲のサウンドは、まるで同じアーティストが作ったようには思えない仕上がり。統一性が無いじゃないか、というのはこの場合安直な意見だろう。ある一定のジャンルに留まらない音楽性の広さは、以前の記事にも書いたようにSING LIKE TALKINGの大きな特徴でもある。
あるときはシンセ色の強いポップナンバー、またあるときはブラスを取り入れたファンクナンバー、またあるときはストリングスの音色が映えるバラードナンバー。私ではとても表現しきれない曲もたくさんある。このよりどりみどりさは、彼らが30年間の中で貪欲に吸収し続けた結果なのだ。
デビュー30周年は確かに記念すべき節目の年ではあるが、そこでリリースされたアルバムというものは決してSING LIKE TALKINGの集大成とも言える作品…ではないという風に感じた。ベスト・アルバムならばそう言えるかもしれないが、個々を切り取ってみた時はその枠に収まらないのである。
新作アルバムが集大成作品と呼ばれる時、それは多分SING LIKE TALKINGが今度こそ活動を停止するときなんじゃないかと思う。もしその日が来たならば、きっと彼らはそれまでの全てを惜しみなく費やして一つの芸術に仕立て上げるのだろう。
だが、まだSING LIKE TALKINGは終わらない。冒頭でも述べたように30周年というポイントは、それでも彼らにとっての「通過点」に過ぎないのだ。
SING LIKE TALKINGは2004年に一旦活動を休止して2010年に活動再開した。今後、3人がいつまで続けられるのかは私には、恐らくは本人たちにも分からないことである。いちファンとしてはできる限り続けていってもらいたいと思うし、現在も彼らは精力的に活動している。
これからのサウンドは一体、どんな風になるのだろう。この4年間の変化を辿りながら未来への新たなる期待を抱かせる本アルバム、しかし飾り気のない気持ちでこの評価を贈りたい。
GREAT。幾度の変遷を経ながらも、一貫として高いクオリティを誇るSING LIKE TALKINGにとって『Heart Of Gold』は極めて重要な作品となったことだろう。
はー、ライブ行きたいなぁ。これを聴いて興味が沸いた人は、時間が取れたら行ってみるといいですよ。ただでさえ完成度の高いサウンドにプラスアルファを仕掛けてくるので。ズルいよ、良い意味で…。
《了》