Review-#038(FI) 『ルパン三世 PART6』「EPISODE 0 -時代-」
二度とパパと呼ぶな!
「ルパン、ここらが潮時じゃねぇのか…。引退しろよ、ルパン」
前作『PART5』の第23話「その時、古くからの相棒が言った」にて、窮地に追い込まれたルパン三世と再会を果たした次元の第一声。放映当時から印象深かった台詞を、今一度聞き直してみると重みが増してくる。
2021年9月7日、小林清志氏の勇退宣言。朝方からいきなり飛び込んできた大ニュースに、皆からの注目が集まった。
2018年にこのnoteで『PART5』を取り上げた際は、最後まで演じ続けて欲しいと思っていたし、実際そうなるものだと完全に信じ込んでいた。老いこそすれど、渋みのある次元の声をこれからも聴き続けられると。
しかしながら、それからの3年間で「時代は変わった」。コロナ禍によって、アニメーション業界、無論音響の現場ではやり方を変えざるを得なくなったとも聞く。心境の変化を齎すには十分な要因であろう。
「正直俺は、最近の世の中ってヤツについていけない所がある。
もっとシンプルなのが俺は好きなんだよ」
勇退と書いたが、苦渋の決断と言うべきか、さぞ悔しかったに違いない。「我儘を言えば90歳までやっていたかった」という本人のコメントからも無念さが伝わってくる。だが過去のインタビューで「ダメになったら俺からやめるよ」と仰っていたので、その点は貫けたと言ってよい。
今期から始まる『ルパン三世 PART6』の初回は、次元にフォーカスを当てたストーリーが展開される「EPISODE 0 -時代-」となっている。『PART5』から地続きなのか、本エピソードでもまた「時代」や「引退」というキーワードがピックアップされている。
それでもやはり、次元はどこまでいってもクラシックな男。TVシリーズ第1作から50年間、パイロットフィルム版から数えれば52年間を駆け抜けた小林清志氏は、『ルパン三世』における最後の晴れ舞台に変わらぬ"トルネイド"を巻き起こしたのだった。
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作品情報
ルパン三世 PART6 (2021年10月-)
制作:トムス・エンタテインメント
監督:菅沼栄治
シリーズ構成:大倉崇裕
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所感
「本当にお疲れさまでした」以外にない
次元はルパンと五ェ門と共に、檻の中に居た。AIを搭載したドローンに、プラスチック製の拳銃を手に握る警官の姿。モダンでヤワな時代の変化に失望し、これを機に足を洗おうとしているようにも見えた。
ルパンによって脱獄を果たした後、隠れ家で落ち合い宴を開く手筈になっていたが、次元は独りバーに佇んでいた。彼の選択は果たして…。
『PART5』ではSNS、そして「ヒトログ」といったデジタル化社会の脅威に辟易していた次元であったが、本作は張り合いの無さに幻滅しているようだ。デザートイーグルを「品のない」銃と評する彼にとって、プラスチックの安っぽい銃など以ての外、しかもそれを平然と使う警察は見るに堪えないだろう。
そして今回は小林氏の最後の出演作として、これでもかと言うほど次元と小林氏をダブらせに来ている。やり過ぎなぐらいにアテ書きのストーリーではあるが、それもそのはず。次元大介のイメージは小林氏が吹き替えを担当していたジェームズ・コバーン氏である。
三段論法とするにはやや無理があるかもしれないが、「次元大介=小林清志氏」であることは長年の積み重ねで認知されていたし、小林氏自身も「自分の分身」として次元を演じることへのプライドを度々語っていた。
2011年のTVSP版「血の刻印 ~永遠のMermaid~」でキャスト変更があった際に、次元役のオーディションに小林氏がやってきたという逸話もある。それは一体どこソースなんだろうか、噂が独り歩きしてないかと探ってみたものの、結局有力な情報源が見つからなかったのだが、そのぐらい次元への思い入れは並みならぬものがあったのだろう。
先日、初代から長らく『ドラゴンクエスト』シリーズの音楽に関わり続けてきたすぎやまこういち氏の訃報を聞き、改めて考えたのは「長期間携わることのできる存在」が如何に稀有であるか、ということだった。
「ルパンみたいな男と、これだけ長い間ずーっと一緒にいられる変人なんて…あなたぐらいのものよ」
そうだな。50年以上ずっと一緒にいるもんな。ルパン三世も、石川五ェ門も、峰不二子も、銭形警部も、少なくとも1回以上の声優交代があった中で、(『風魔一族の陰謀』という特殊ケースを除けば)唯一『ルパン三世』で次元大介を演じ続けてきた男。
小林氏は「引き際を見誤った」、そう考える人もいる。確かに老いは隠せないし、キャストを入れ替えてフレッシュになった他のメンバーと同じ舞台に上がっている時、それが引き立ってしまっていたのは否めない。かつてと比べれば、言い回しもスロウになっている。
それでも、渋くて、洒脱で、ハードボイルドな面と茶目っ気な面を合わせ持つ次元は、本作でもやはり次元のままなのだ。時代やテクノロジーが容赦なく突き放していったとしても、次元の持ち味に追い付けるかどうかは、文字通り別次元の話。
「ルパン、俺にも聞こえてきたぜ…。俺の、俺だけの音楽が」
終盤にて、次元は巧みなる銃捌きを存分に発揮する。バックに流れる音楽はもちろん、テーマ曲の「トルネイド(2015年版)」。一度は監獄へと送り込んだ小細工や玩具の類も、本気を出した彼の前には通用しない。『PART5』にてルパンがそうしたように、次元もまた逆手に取って相手を翻弄してみせたのだ。
派手な爆炎からゆっくりと、その場を後にする次元。「少々火薬が強すぎたか」と零すも、花道の演出としては十分であろう。その先には往年の相棒が待っている。1971年、奇しくも『TV第1シリーズ』と同年のバーボンを飲み交わすために。
「お疲れさまでした」、それ以外にない。
出会いと別れ、時代の変遷を見届けてきた小林氏の次元だからこそ感慨深い。寂しくもなるが、はじめて『ルパン三世』がテレビに参上してから50年経った現在も、彼らの冒険は続いていく。遠くから次元を見送りつつ、これからの新たな旅立ちを祝いたい。
…が、今回どうしても気になったのは、アニメとしてはしょっぱい出来だったというところ。ただ、経緯からして急ピッチで作られたのだろうという感じはする。
本エピソードのみ、『Part6』の主要スタッフとは異なる面子によって制作されている。監督は『TV第2シリーズ』で原画を務めた富沢信雄氏、脚本は『PART4』『LUPIN THE IIIRD』シリーズの高橋悠也氏、キャラクターデザインは『PART4』『PART5』の横堀久雄氏。どれも『ルパン三世』では馴染み深いスタッフである。
どれぐらいの制作期間があったかは分からないが、『PART4』や『PART5』と比較するとアニメーションは見劣りする。というよりは、こだわるには時間が足りなかったと推察できるか。今回テレコムはどのぐらい関わっているのだろうか。と気になって調べてみたら、来年向けに『シェンムー』のアニメ版と映画『ブルーサーマル』を作ってた。できることなら、制作協力という形で携わってくれると嬉しいけど…。
そういうことだったら、わざわざ『PART6』の放送開始に合わさないでも、きちんと詰めるだけ詰めて出して欲しかったかな。五ェ門・不二子・銭形警部の3者のキャストが変更された翌年の2012年に発売された『ルパン三世 Master File』では、旧キャストである井上真樹夫氏と増山江威子女史、納谷悟朗氏の3名が参加した短編アニメ『ルパン一家勢揃い』が収録されている。
こちらも最後の晴れ舞台がしっかりと用意されていた、ということだ。こうしてみると、当のルパン三世本人が不本意な形で声優交代となってしまったことが余計に惜しまれるが…。
とは言え「皆に観てもらう」という点においては、このタイミングが最善ではあるのだろう。『PART6』を一通りやってから「EPISODE 0」を…では違う気がするし、OVA版として制作するのも目的を果たせない、その上での判断なのだと思うことにする。
とりあえずは、最後の儀の場を形にしてくれたことがとても有難い。
本当にお疲れさまでした。
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「EPISODE 0」とあるように、『PART6』の物語はこれからが本番。後継者である大塚明夫氏にとっても、イチからのスタートということで。父の大塚周夫氏が『TV第1シリーズ』で色キチ侍…もとい五ェ門を演じていたこともあり、これまた感慨深いものがあります。
ちょっと声を聞いてみたけれど、違和感どうのこうのよりも、「いかに小林清志氏のイメージから変わって行けるか」という点が気になるかな。声色自体は近い系統。でも積み重ねは勿論のこと、他のルパンファミリーよりもデザインの差異が少ないキャラクターだからなぁ。慣れていくとは思うけれど、慣れの段階で留まって欲しくない気持ちもあります。
そう言えば『風魔一族の陰謀』では銀河万丈氏が演じていたんですよね。この2人を並べると、どうしても『メタルギア』を思い出す。…ゼロ少佐はイギリス生まれ、そして『PART6』の舞台はロンドン……ハッ!?
あと、後継を津田健次郎氏と予想していた奴。速やかに『PART5』を観るんだ。『PART6』でも登場するから。来週の金曜ロードショーにも登場するけど、イキナリ最終回を観てもチンプンカンプン(何かしらの補足が入るとは思うが…)だろうから、予習しておくんだ。今だったらアマプラで全部観返せるし。
次回予告では、シャーロック・ホームズと小さな相棒、リリーの姿が。そしてこの露骨な輪郭線の引き方…まさしくトムス製! どうなるか未知数なトコロはたくさんありますが、これから楽しんで観ていければと思います。
《了》
©モンキー・パンチ/TMS・NTV