憧れ
小学校
それは初めての社会
小学校
それは初めて自分が見えてくる機会
小学校
それは大きめの四角めの建物
そんな小学校に転校生が来た
みんなわくわくしている。
教室の扉が開く
先生が連れてきたのは1人の男の子
ランドセルは持たずに、コンビニ袋に教科書を全部入れて持っていた
尖ってる
先生「今日からみんなのお友達になります。武田鋭(エイ)くんです。」
鋭「おれは田中だいすけ。この名前は自分でつけた。名前は自分でつけるものだと思う。」
尖ってる
かっこいい。
それから田中くんは尖りすぎてカッコ良すぎてみんなの憧れとなった。
みんな田中くんの真似をした。
授業中ノートは開いて無地の下敷きを挟むけど一文字も取らない
給食は落ち着いて静かに食べ
掃除では一番最初に水拭きをしてその後掃き掃除、最後に椅子を机の上に上げて前に移動させて後ろに移動させる。
そんなある日、尿検査の提出日がやってきた
みんなそわそわしていた
いくらかっこよすぎる田中くんでもさすがにおしっこはかっこわるいはずだ
田中くんのそんなところ見たくないとも思いつつ、しかし一方で、田中くんの弱いところ、みんなと同じところ、かっこ悪いところを知りたくもあった。
不完璧な一面を知ることで距離を縮めたい。
田中くんはいつも遅れてくるので、みんなのおしっこ容器を入れるための穴が空いている白い土台は、16番の穴だけが埋まっていない。
田中くんがきた。
みんな顔を手で覆いつつも指の隙間から、16番の穴を見つめる。
きた
視界の端から容器が穴に向かってくる
かしゃっ
16番の穴が埋まった。
みんないっせいに16番のおしっこに近づく
透明だ。
ほんの少しの黄色味も無い。
完全なる透き通った透明。
クラス全員の心は奪われた
みんなの心が熱くなった
しばらくその場を動けなかった者、涙を流す者、自分のおしっこより黄色かったら慰めてやろうと考えていた自分を恥じる者
それぞれ燃えた
今頃何をしているのだろう
お別れ会当日欠席してまた転校してしまったので誰も連絡先を知らない。