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ジョージア、天国に一番近い国(6)人生のベストはいくつになっても更新できる【ムツヘタ、トビリシ】

 12月31日、5日目。大晦日(全然実感ない)。この日は、ムツヘタに行くことにしていた。ムツヘタは、トビリシから一番近い世界遺産の街で、日本でいえば京都みたいな位置づけだ。Didube駅からマルシュが頻発しており、15ラリ程度で行ける。一方、ムツヘタ近郊に2か所ほど大きい教会があり、これらにアクセスする場合はタクシーを使う必要があった。

 Didube駅に到着して、ムツヘタ行きのマルシュの場所を問い合わせると、すぐにタクシーのドライバーたちの強烈な営業を受けることとなった。ムツヘタの往復と、2スポットの立ち寄りで、ドライバーは150ラリを主張した。通常ムツヘタへのマルシュは15ラリと格安で、ムツヘタから2か所の協会に向かうタクシーの相場が良くわからないものの、150ラリはかなり高額なことはすぐわかった。渋っていると、どんどん値段は下がっていき、最終的には70ラリに。3500円で一日観光できるならよいかと承諾。(今思えばちょっと高かったかも)

 今回のドライバーは、価格交渉した男性から紹介された人で、英語はほとんど話せないようだった。翻訳アプリでコミュニケーションをとりながら(名前はマムカというらしい。ジョージア人には多い名前だ)、タクシーに乗ってムツヘタの市内へ向かった。

 余談だが、価格交渉相手の男性にえらく気に入られ、教えてしまったWhat‘s appに鬼電&日本語翻訳機能を使ったと思われる愛のメッセージが延々と届くというトラブルがあった。モロッコ人は、泊まった宿のほとんどのオーナーに口説かれるくらい積極的な男性が多い国民性で、ジョージア人はもう少し控えめな国民性という印象だったのだが、どうやら強烈な人はどこにでもいるらしい。

パートナーがいるといってかわそうとしてもこのプッシュ ふつうに怖い


 さて、ムツヘタ市内に到着。この日の朝ごはんは、卵の乗ったハチャプリである「アジャルリ・ハチャプリ」にすると決めていた。マムカ(ドライバー)から、アジャルリが食べられるお店を聞き出し、徒歩での散策を開始した(マムカは車で待機だ)。
 早速アジャルリを食べるため、教えてもらった店に行ったところ、あっさりと「アジャルリは出していない」と言われた。いや、普通に嘘じゃん。
仕方なく、「スヴェティツホヴェリ大聖堂」に向かう。この教会は、町の中心部にたたずむジョージア最古の教会であり、ムツヘタのメインの観光スポットだ。
 ところが、年末のお祈りの時間にちょうどバッティングしてしまっていたようで、13時からでないと入れないと断られた。ついてない。

 さて、どうするか。
 マムカとは、教会を見て、アジャルリを食べたらすぐに車に戻るという話だったのだが、そうなると後ろの工程上、ムツヘタの街歩きをする時間はないだろう。そこで、せっかくなので周辺を散歩することにした。

 日本だったら、事前にすり合わせた工程を連絡なく変えるなんて絶対にしないし、とんでもない迷惑行為だと思うけれど、海外においては自由かつ我儘なスタイルでいていいと感じる。海外においてはいくらでもそういう国民性を持つ人がいるからだ(深夜に大声で電話するインド人なんてその代表格である)。そういう意味では、日本よりも海外の方がずっと自由で、居心地がよいなと思ったりする。
 もっと言うと、日本にいるときはやっぱり少しでも「きれいだな」「かわいいな」と思われたくて見た目に気を使っているのだが、海外においては、ちょっと目の上に色がついたからって、欧米人のような白く彫り深い顔立ちにも、東南アジア人のようなゴリゴリに濃い顔にもなることはなく、どこまでいっても「日本人」というカテゴリーになる。欧米人の中でどんな顔がきれいだとかかわいいだとか、少なくとも私はあまり思わないので、海外では「まあいいか、ありのままで」と思えるのだ。キレイ・かわいいの価値基準が多様であると認識しているのだと思う。ありのままの見た目でいることへの心理的抵抗がない海外という空間は、私にとってとても居心地がいい。

 話がそれたが、そういうわけで、私はムツヘタの街中をのんびりと散策した。不自然なほどかわいらしい装飾の露店や、これ見よがしな看板、お土産物たち。久しぶりに観光地感がすごいところだった。適当に目についたお店でアジャルリを食すことにする。
 ヒンカリに並ぶジョージア料理のアイコニックなメニューで、大いに期待していたのだが、私が食べたアジャルリはびっくりするほどしょっぱくて、とてもじゃないがワイン無しでは食べきれなかった。相変わらずおなかの調子が悪かったので一応控えていたのだが、背に腹は代えられぬと赤ワインをオーダーする。ああ、うまいな。
 うまいけど、やっぱりお腹が下ってしまい、どうしても食べきれなかった。悔しい。
 食べている間にマムカからどこにいるのかとメッセージが来たので、悪びれることなくアジャルリを食べていることを伝え、食べ終わったら車に戻るといっておいた。早々にお店を出て、再び街なかを散策する。

 いよいよマムカから電話が来たので、しょうがなく車に戻った。そのまま、ムツヘタ近郊の教会であるシオ・ムグヴィメリとジワリ大聖堂に向かう。
 シオ・ムグヴィメリの良さは写真ではなかなか伝わらないかもしれないが、もしあなたがムツヘタに行くようなことがあったら、本当にぜひ訪れて欲しい場所の一つだ。
 山奥にあるその教会は、そびえたつ岸壁に囲まれており、教会の敷地内がまさにRPGのような世界になっている。岸壁にはところどころ洞窟のような穴が開いている。これはかつての洞窟住居なのだ。古代の人々の暮らしを想像するとわくわくが止まらない。

シオ・ムグヴィメリ
溢れ出るRPG
うしろの岩壁が洞窟になってる
中も結構シックでいい
フレスコが見事
こちらがジワリ大聖堂
ムツヘタが一望できる
真ん中左寄りの教会がスヴェティツホヴェリ
中には薔薇の花が
カッコイイ犬
のんびりする犬
スヴェティツホヴェリの中


 大満足でムツヘタを離れ、トビリシに向かう車中、マムカは私の次の日の予定を聞いてきた。次の日、つまり1月1日は、トビリシから西側にある町である「ゴリ」に立ち寄ってから、そのまま西部最大の都市であるクタイシに宿泊するつもりだった。すると彼は、「このままゴリに行こうか」と営業を始めた。値段を一応聞くと、忘れてしまったけど相当高くて、丁重にお断り。このように、ジョージアではタクシーが完全に交渉できるので、うまくすれば自分で行きたいようにツアーをアレンジできるのもいいところだ。

 トビリシに到着したのは14時頃だった。
 さすがにお腹の調子がずっと悪いのが気になって、勇気を出して薬を買ってみることにした。Didube駅にある薬局に立ち寄り、症状を伝える。その薬局は、薬を勝手に選ぶのではなく、カウンターにいる店員(おそらくは薬剤師)が薬を持ってきてくれるスタイルだった(こちらからすると大変ありがたいシステム)。薬剤師らしき女性はすぐに薬を持ってきてくれて、「何カプセル欲しい?」と聞いてきた。どうやら1カプセルいくらという単位らしい。これも驚きだった。
 食後に1錠飲むらしいので、よくわからないが3日分(9カプセル)購入した。早速1錠飲む。
 現地の薬を飲むのは初めてだったので、どうなることかと思ったのだが、結論を先に伝えておくとこの薬の効果は実に驚異的で、1錠飲んだだけで全ての症状が改善した。一応そのあと2錠ほど飲んだが、多分なくても大丈夫だったと思う(なお、私の場合は効果てきめんで結果オーライだっただけなので決しておすすめはしません)。

 この日はもうトビリシにいるほかなかったので、大晦日に盛り上がっていそうなところにいくことにした。市場である。どの国に行っても市場は楽しくて大好きだ。
 年末のジョージアの市場は人がいっぱいで、みんなとっておきの家畜を持ち込んでいるのか、とにかくゴージャスだった。あちこちに鶏や七面鳥や豚の首が容赦なくぶら下がっていてなかなかの迫力だった。野菜がおいしそうに昼下がりの日差しに光っていた。あんまりまじまじと写真を撮るのもよくないかと思い、こっそりと写真を撮る。

※写真は一応閲覧注意かも?(豚の首とかが写っています)

バザールに向かう道 トビリシ駅をまたぐ
人がたくさん
チュルチヘラというジョージアのお菓子
おしり


 市場を散策していると、ふと、先日のUZU HOUSEで食べたラーメンのお金を払い忘れたことに気づいた。慌てて、その場にいたメンバーの一人、ノゾミさんにメッセージを送る。今日もUZU HOUSEにいるから、支払いついでに遊びにおいで、と言ってくれた。期せずしてソロ年越しは回避できそうである。
 ノゾミさんに教えてもらったお店で夕食をとり、宿に戻って少しだけ仮眠してから、UZU HOUSEに再び向かった。あの錚々たる扉も、2回目となれば慣れた気持ちだ。

ジョージアサラダ
オーストリ
なんかサービスで出てきたアイス

 この日は、特にイベントはなかったので、UZU HOUSEの屋内部分(居住エリア)にいれてもらった。それほど大きいスペースではなかったが、なんと男4人で暮らしているらしい。このときにいたのは、ノゾミさんと、アルメニアに住んでいるラジさんの二人だった。
 3人でジョージアのお酒を飲み、久しぶりにタバコをもらう。小さな部屋で酒盛りをしていると、大学生になった気分だった。時差の関係で、日本の方が年越しの時間が早いので、私はまだ全然2023年にいてべろべろに酔っぱらっているというのに、友人たちから「あけましておめでとう!」などとメッセージが来るのがひどく愉快だった。
 料理上手のラジさんが、年越しだからと鰻を焼いてくれて、なぜかチーズケーキが出てきて、いったいここがどこなのか、酔った頭では到底判断できそうになかった。

なかなかの空間
大学生の宅飲みの最終地点みたいな組み合わせのご飯(美味しかった)

 ジョージアの年越しは、みんなが街なかや自分たちの家から死ぬほど花火をぶち上げることで有名(?)だ。その光景を一番楽しめるのは、実は街なかではなくて、2日目に訪れたナリカラ要塞なのである。年越しの瞬間をめがけて、ノゾミさんが運転する車に乗って、みんなで山の上に登った。ナリカラ要塞に向かう道は、同じようなことを考える車で大渋滞になっていた。

 年越しの15分前に到着。もう町中か花火だらけになっていた。とんでもない騒がしさだった。みんな花火を買い込みすぎるので、年越しの前から上げ始めて、明け方までずっと上げ続けるのだそうだ。
 年越しの瞬間も、ひときわ大きい花火があがるとかは全くなかったので、「あれ?年越してね?」という感じだった。なんておめでたい国なんだ。
 私はジョージアのことがいっぺんに大好きになってしまった。
(※酔っ払いすぎて写真はありません、動画載せられないのが残念)

 車で宿まで送ってもらい、ぐるぐるする頭を抱えながらベッドに入る。
 今日も長い1日だった。そして人生で一番面白い年越しだった。30歳になっても、まだまだ「人生最高」って更新されるもんなんだと、小さな感動と希望を感じていた。

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