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ベルベルの心を備えよ(15)奇跡の高学歴ツアー【メクネス・フェズ】

 12/22、15日目。今日は、フェズの近郊にある古都、メクネスに向かう日だ。何時に出発するかは相変わらずわからなかったが、8時に朝食を食べ、ミントティーを飲ながらまったりしていると、突然「車が来た」とBossに言われ、慌てて準備してRiadを出発した。
 おそらく他のRiadでゲストを拾ってきたのだろう、少し大型の車の中には、先客が4人乗っていた。きゅっと細い目に刈り込まれた短髪の中華系の男性、きれいなブロンドのボブヘアーに柔和な表情を浮かべた初老の欧米女性、パキスタン人の夫とムスリムの妻という組み合わせだった。なんだかみんな頭よさそうだなとバカみたいな感想を想いながら、欧米女性の隣に座る。
 ところが、その感想は大当たりで、車内で話してみたところ、中華系の男性はケンブリッジ大卒、欧米人女性はケンブリッジ大の現役教授、パキスタンの男性はオックスフォード大卒だった。こんな偶然があるとは……。日本の試される大地大卒、英語ままならないマンの私としては、縮こまって窓の外を眺めるほかなかったのだった。

 車はのどかな田園風景をひた走り、まずはボルビリス遺跡にほど近い小さな街、Mouley Idrisにたどり着いた。遠くからみると、山間に小さな家たちが寄り添いあって建っている感じがなんともかわいらしく、素敵な街だった。
街の見た目はかわいらしいが、特段見る場所もない街なので、少し散策したのち、我々は早々にボルビリス遺跡に向けて出発した。

休憩で立ち寄ったビュースポット
かわいい……
ムーレイイドリス
まちなか
なんてことない路地裏とねこ
壁の色かわいいしねこもかわいい


 ボルビリス遺跡にいった感想を飾らない言葉でいうなら「めっちゃおすすめ」である。
 モロッコで楽しめる景観というと、雄大な砂漠や、パームツリーや、赤茶色の建物・遺跡、モスクといったところだろう。ここボルビリス遺跡では、無限に広がる草原の緑と、寄り添うように続く青い空という、どこまでも牧歌的な景観の中で、不自然なほどの存在感をもってぽつりぽつりと点在する、古代ローマの遺跡群を楽しむことができる。この景観は、少なくともモロッコの中ではなかなか見られないものだ。

このスケールよ
とりのす


 私たちは集合時間を告げられ、各自で見て回ることになった。流れで、ケンブリッジ大の現役教授である女性、ジェシーと一緒に散策することになった。彼女は、日本のチャラチャラしたガイドブックとは比べ物にならない密度で文章が書きこまれた分厚いガイドブックを持っていて、この遺跡について解説をしてくれた(まあ、ほとんど忘れちゃったけど)。彼女が学術的な出自であることもそうなのだろうが、海外の観光スタンスとの違いを感じたひと時であった。
 どの遺跡もどのパーツも、ずっしりと重厚感があり、どこか心に来るものがあった。

 散策を終え、私たちはメクネスに向かった。
 メクネスには多くのモスクがあるが、老朽化だかコロナだかで、ほとんどのモスクの見学が中止されており、がっかりだった。最大の見どころである霊廟、「ムーレイ・イスマイル廟」はなんとか見学できたので、同乗者たちは早速霊廟に向かっていった。ひねくれものの私は最後に行こうと決め、小さなスークを散策した。スークは散々見たので、今更ほしいものもないのだが、同じような品だったとしても、小さな路地に所狭しと店が並び立っている景観は、なかなか見ごたえがあるので、いくら歩いても楽しい。

遠くから見るメクネス
まちなか

 途中、テラスのあるレストランで昼食をとる。前日に美味しさで衝撃を受けたハリラスープを飲みたかったが、なんと売り切れだった。こんな名物を売り切らすなんてひどい、と思いながらタジンのメニューを眺める。その日のタジンはビーフプラムタジンをチョイスした。これまでは野菜とメインのタジンが中心だったので、試みに頼んでみたのだが、これが大当たり。もともと甘口が好きという性質もあるのだが、柔らかく煮込まれたお肉と甘酸っぱいプラムに、レモンやパクチーがさっぱりとした味わいを添えるバランス感覚が絶妙で、煮汁もとにかくおいしくて、私はひどく感心した。よくこんなにおいしいものが作れるなあ。

うますぎた

 おなかも満たされ、満足して散歩を続けていると、楽器博物館のようなものを発見したので試しに入ってみることに。様々な地域の楽器が展示されていて、細かやかな解説はなかなか読む気になれなかったけれど、眺めるだけでも十分楽しかった。なんてことない博物館の中庭が美しくて、うれしい気持ちになった。

こ、こ、こまかい

 メクネスの街を歩きつくしたところで、最後にいよいよムーレイ・イスマイル廟に向かう。
 モロッコのモスクやマドレセ、霊廟は、ムスリムでないと入れない場所もたくさんあるのだが、この霊廟は大変に寛容で、施設内のほとんどすべてを見ることができた。
 一番奥に、ムスリムたちが祈りをささげるための空間があり、靴を脱いで入る仕様になっていた。するりと滑り込み、繊細に織り込まれた絨毯の上に座った。
 人がいるのに、リモコンで音量をゼロにしたように静まり切ったその空間は、天井がどこまでも高く、そういう空なのかと思うほどだった。その天井には、気の遠くなるほどの時間をかけて描かれたのだろう、綿密な文様が刻み込まれている。あまりに細かく、じっとみているとそのまま動き出しそうなくらいだった。私はその模様にすっかりとらわれて、座り込んだまま動けなくなってしまった。どうして、祈りの空間というのは、こんなにも空気が澄み渡るのだろう。
 何人もの人が訪れては、その空間に座り、その模様を眺め、厳粛に祈り、時には笑い声をあげ、そして去っていった。入れ替わり立ち代わる人々を、その空間はただ静かに受入れていた。

 時間になったので、集合場所に戻った。誰一人遅れずに集合できるところに、ささやかな感動を覚える(なお、ドライバーはしっかり遅れてやってきた)。
 帰りのドライブは、みんな疲れていたのか、静かだった。少人数のツアーは、安心して居眠りができるところがいい。

 無事にRiadまで送り届けてもらう。出迎えてくれたBossと、フェズのラストナイトだ!といってテラスでビールを開けた。昨晩と同様、インド人夫婦(そういえば、名前はBobbyだった、今思い出した)も合流し、みんなで酒を飲み交わした。言葉はわからなかったけど、楽しい時間だった。

 部屋に戻り、荷造りをして、硬いベッドに寝転ぶ。明日は、砂漠に続くモロッコ旅のハイライト、そして最後の観光スポット、北部の街 シャウエンに向かう。「建物すべてが青い街」として、日本人を含む観光客に大人気な街だ。
 モロッコの旅も終わりが見えてきて、寂しい反面、そろそろ日本に帰りたい気持ちも高まってきていた。わたしは案外、長旅は向いていないようだ。そういうことが分かったことも、この旅をしてよかったことの一つだなと思った。何事も経験しないとわからないものだ。
 道路の喧騒に耳をそばだてながら、私は目を閉じた。


※この先、HDDの故障により写真が消えてしまったので、業者等にお願いして復元を試みるつもりです。。少しお時間ください。

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