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ベルベルの心を備えよ(18)まるでおひめさまになったみたいに【シェフシャウエン】

 12/25、18日目。シャウエン三日目だ。朝食は宿の屋上のテラスで食べる。スタッフの騒がしさには閉口するが、屋上のテラスの景観の良さはさすがに素晴らしかった。

 まずは荷物をパッキングする。というのも、その日の夜はホテルを変更することにしたのだ。最終日はシャウエンからカサブランカにバスで移動するのだが、出発時間が7時と早朝で、タクシーの入ってきにくい旧市街に宿泊するメリットがないのである(それほど気に入ってはいなかったのもあるが)。新市街方面で比較的評判がよいホテルを確保していた。
 ここのところ数日体調が悪い日が続いていたが、朝は元気だった。私は宿のスタッフにお礼を言ってチェックアウトし、手荷物を預けて快晴のシャウエンの散策を始めた。

 シャウエンは小さな町なので、さすがに三日目ともなると全部の地理がわかってきて、何がどうあっても帰れる安心感がすごかった。私は旧市街を外れ、新市街にあるこぎれいな噴水を散策したり、気まぐれに土産物屋を物色したりした。
 大寝坊をかましていたので、すぐにお昼の時間だった。昨日と同じ、テラスがきれいなメディナのレストランに入り、タジンを食べる。この日は初めてのヤギ肉タジンだった。スパイスが効いていて臭みもほとんどなく、羊と同じような味。そしてなぜか、またもハリラスープは売り切れだった。こんなにないことある?国民食じゃなかったのか。
 長かったモロッコも残り数日で、タジンをあと何回食べられるのだろうと思うと悲しかった。タジンを初めて食べてから約2週間毎日食べたが、不思議なくらい飽きがこない。

 シャウエンの街なかにはひときわ猫が多く、そこらじゅうの猫を追いかけて写真を撮っているだけで、時間はあっという間に経った。カメラを抱えて同じ街をぐるぐる歩く。時間がたつほど、体の怠さが増してきて、いよいよコロったかもしれないと戦々恐々だった。そのせいなのか、どの写真もあまり奮わない感じがした。

机の下から子猫
また出てきた
オープン前
洗濯物が
食い散らかし
きれいな顎だわね
おまんじゅうたち

 そんなこんなで夕方が近づき、いよいよ前日予約したハマムのあるホテル、「リナ ホテルスパ」に向かう。前回述べた通り、初めてのプライベートハマムだ。私は少しばかり緊張しながら、ハマムのあるホテルの扉を開いた。
 モロッコでは宿代をケチってろくなホテルに泊まってこなかったので、「ちょっといいホテル」の醸し出すエントランスのきらびやかさに後ずさりしそうだった。こんな薄汚い女が迷い込んでいい場所ではない……と思ったが、予約は予約。フロントで名前を告げ、案内された先はなんと個室だった。モロッコ滞在5日目くらいに行った、マラケシュの公衆浴場的な格安ハマムに比べると、本当に雲泥の差だった。その個室には、こじんまりとしているが凝った刺繍のソファがおいてあり、フリーのお水も2本置いてあった。薄明りの中、独特のアラビアンな香りが漂い、なんともいえないムーディーさ。ちょっとしたセレブになった気分だ。

これはフロント横のソファの方 以降はさすがに撮影せず


 服を脱ぎ、おいてあった紙ショーツを履いて、隣の部屋の扉を開ける。隣室は、青く細かなタイル張りで見事に装飾された壁に囲まれたコンパクトな作りで、中心には噴水を模した美しいシャワー台があり、その上には等間隔に置かれた数々のかわいらしい小瓶たちが並んでいた。二人までなら同時に施術ができるのかもしれない、メルヘンなシャワー台の両側に、大理石のベッドのようなものがどどんと設置されていた。
 担当してくれる方なのだろう、実に優しそうな、お姉さんというには少し大人で、おばさんというにはあまりに美しい女性が後ろから入ってきて、私に大理石のベッドへ座るよう促した。いわれるがまま座ると、彼女はシャワーを手に取り、きっと羊水の温度ってこのくらいなんだろうなと思ってしまうくらい気持ちいい温度のお湯で私の体を流してくれた。
 彼女は、実は自分が由緒正しい王族のお姫様だったのかもと錯覚してしまうほど恭しい手つきで、足の指の先から耳の裏までボディーソープで磨いてくれた。次に、ハマム用のグローブ、ケッサを手にはめて、あかすりを始めた。
 マラケシュで初めて行ったときは、もうすべての皮膚を引っぺがしてやろうという固い決意を予感してしまうほどの強さでやられたものだが(その壮絶さは、記事を読んでくれればお分かりいただけると思う)、こちらはさすがというべきか、まったく痛くないのに、しっかりと垢がとれる程度の絶妙な強さで、本当に気持ちよかった。
 一通りあかすりを終えると、彼女は葉っぱが混ざった茶色い泥のようなもの(後から調べると、ガスールというもののようだ)で全身をパックしてくれた。そのまま待つように指示されたので、わたしは温かなお湯が流れる石のベッドでうとうとしかけながら待った。緩めのサウナのような温度感だった。
 10分くらい経った頃、女性が戻ってきて、パックを洗い流し、髪を洗ってくれた。指一本、自分の意志で動かさなくても、全身を洗い上げてくれるその高級感。まさにお姫様気分である。
最初の個室に戻り、ふかふかのタオルに包まれる。ローズウォーターが置いてあり、保湿もばっちりだった。これで300dhsは相当安い。シャウエンに訪れる際には心からお勧めする。

 すっきりすると少し元気が出た。一方で、やっぱりどことなく本調子ではない。今日はもう無理しないようにしよう。宿に戻ることにした。
 今日のホテルは、バスターミナルのアクセスが良い新市街のホテルに変更していた。新しいホテルは思っていたより距離が遠かったが、騒々しい旧市街から川を渡ったエリアに位置しており、どことなく落ち着きがあった。地球の歩き方にも載っているような有名な宿で、フロントも大変感じが良かった。
 明日のバスは7:00に出発するから、5:00には起きていたいな。重い体を引きずり、かろうじて目覚ましをセットして歯磨きをした。まだ18:00くらいだったが、横になっていると少し楽だった。上澄みのような眠りの中を漂っているうちに、いつしか私は深い眠りに沈んでいた。

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