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【小説】全知くんと全能ちゃん 1.ゼンチとゼンノウ

【あらすじ】
ここにいるクラスメイトはみんな不思議な力を持っている。
活発なあの子も大人しいあの子もグラマラスなあの子も……。
でも、それを知ってるのは僕一人。僕だけ全部知っている。
僕が好きなあの子の好みも、あの子の考えも、あの子の思いも……。
知ってるのに想いを伝えられない、知ってるから伝えられない?
そんな複雑な中学生の恋愛を切り取った物語。


朝7時50分、みんながいつも通り登校し、1つの教室に集まる。
いつもと変わらない面々、いつもと変わらない景色だ。

「ゼンチくん、おっはよ~!」

元気溌剌な同級生女子が僕に挨拶してくる、これもいつもと変わらない。
彼女の名前は全能(ゼンノウ)ちゃん。私立シンドウ中学校2-C組で
間違いなく一番元気な中学生だ。

彼女は毎朝たくさんの人に挨拶をしている、どういった基準で挨拶する人を
選んでいるのか分からないけど、恐らく『視界に入った人』とかだろう。

彼女と席が近い僕は必ず視界に入るので必ず挨拶される。

自分で言うのもなんだが、僕、私立シンドウ中学校2-C、
全知(ゼンチ)は、クラスの中だとかなり地味な方だ。

休み時間は自分の席で本を読み、移動教室は1人で移動する。そんな
典型的な地味生徒だ。

でも、地味生徒は地味生徒なりに色々考えや想いををもっている。
生きてるのだから当たり前。

僕は、ゼンノウちゃんのことが好きだ。

『どこが好き?』
と聞かれると少し困る。とにかく全部好きだ。

毎朝挨拶してくれるところも好きだし、どんな人とも明るく
話してくれるところも好きだ。僕とも、たまにだけど話してくれる。

『唯一相手してくれる異性だから好きなんだろう』
と言われたらそれまでだが、そこまで軽い気持ちでは
ないとは自分で思ってる。

でも、告白とか、想いを伝えるなんてことはしない、できない。
勇気が無い、っていうのもあるけどそれ以上に

ゼンノウちゃんは僕のことを好きじゃないことを僕は知っている

だから、想いは伝えない。

『好きじゃない』とは言っても嫌われているわけじゃない。
『ただのクラスメイト』程度の印象しか持たれてないということだ。

本人に聞いたわけじゃないけど、分かる。
僕は知っている、知ることができる。


この学校に通うみんなはそれぞれ不思議な力を持っている。
みんな違う、みんな特別な能力だ。それは練習するわけでも、
貰うわけでもなくて生まれた時から持ってるものだ。

「シャカくん、おはよ~!」
「あっゼンノウちゃん、おはようございます」

今ゼンノウちゃんが話しかけたクラスメイト、写果(シャカ)くんも
特別な力を持ってる。シャカくんは動物と話したり、相手の悩みを解決
する? 導く? ことができるっぽい。実際には見たことないけど。

「みなさん、今日までの数学の課題を前に提出してください」

教室の前でみんなに声をかけるのは2-Cの学級委員の阿令須(アレス)
くん。彼はめちゃめちゃ強いらしい。”戦いに負けない”みたいな力を
持ってるっぽい。多分喧嘩しても誰も勝てないんだろう。
実際に見たことないけど。

みんな絶対持ってるけど、ここにいるほとんどの生徒は自分がどんな
能力を持ってるのか知らない。

『自分の力は大人になってから知る・使う』
というのがルールなのだ。法律で決まってるわけじゃないけど、
とにかく子供が使ったりしていいものじゃないから絶対に使うな、
知ろうとするなと小さい頃から口酸っぱく言われる。いわゆる
暗黙の了解というやつだと思う。

みんな小さい頃から親にこう言われる。
「不思議なことができても、しちゃだめだよ。カミナリが落ちるよ」
子供のしつけ界隈ではお決まりの文言なのだろう。

そして、自分の力を人に言うのは基本的には恥ずかしいこと。
お付き合いしたり、結婚した相手には言うみたいだけど、
他人に自分のことを言うことはほとんどない。

だから、みんな自分の力を知らないし、隣にいるクラスメイトの力も
知らない、僕を除いて。

僕の力は多分 ”全部知る” というものだと思う、全知なのだ。
何でも知ってる。まだ授業で習ってないことも、一度も
見たことないクラスメイトの力も、ゼンノウちゃんの気持ちも。

自分だけ自分のこともみんなのことも知ってるのはズルい気がする
けど、しょうがない。小さい頃からこうだったから。

使おうとしなくても勝手に使われちゃう能力なのだ。
しょうがないことは世の中いくらでもあるのだ。

自分の力のせいで、幸か不幸かゼンノウちゃんの気持ちを知ってるから
告白なんてできっこないのだ。

ちなみに、ゼンノウちゃんの力は ”全部できる” というものだ。
全能なのだ。もちろんゼンノウちゃんはその力を知らないけど。

何でもできるゼンノウちゃんと告白もできない僕。
何とも不釣り合いだ、ますます告白なんてできない。

どうにかしてゼンノウちゃんの気持ちを変えたいけど、
そんなことはできない、僕は全能じゃないから。

でも、出来るだけ彼女に近づきたい。
どうすればいいのか、分からないけど彼女の特別になりたい。




↑第2話

↑第3話

↑第4話

↑第5話

↑第6話


後書き
小説を書いてみました。藻野菜です。
まずは1話目! 最後まで読んでくださってありがとうございます!
なるべき素早く丁寧に書き続けるつもりなので、フォローやコメント
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