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【小説】全知くんと全能ちゃん 2.班活動

第2話です

↑第1話


「それでは、机をくっつけて話し合ってー」

先生がみんなに指示を出す。
今日の5時間目は道徳、正直やる意味があるのか分からない科目だと、
僕は思っている。

道徳の時間は大体いつも同じ授業の流れ。
あるテーマについての話が書かれた教科書を先生が読み、
近くの人と班を組んでテーマについて話し合い、
最後に各班ごとに発表をする。

先生が毎回班のメンバーを決めるけど、基本的には
席が近い人と班を組む。

「よろしくお願いしまーす!」

僕の前にはゼンノウちゃんがいる。今回は一緒の班だ。

「よろしくお願いします」

僕の隣にはシャカくん

「よろしく~あっ、あんまり話さない人ばっかだ」

そして、僕の斜め前には泡露出照(アフロディテ)さん。
みんなからは「アフロちゃん」と呼ばれてる。
ちなみに、髪型はアフロではない。

このアフロさん、いわゆるクラスのマドンナのような存在だ。
クラスの男子はみんな少なからず好意を持っている。
この人気にも実はアフロさんの能力が関わってることも
僕は知っている。もちろんアフロさんの性格の良さも人気の
要因だろうけど。


正直、僕もアフロさんのことはめちゃめちゃ可愛いと思う。
なんというか、可愛さと美しさを兼ね備えてるというか、
中学生の子どもっぽさもありながら大人の魅力も持ち合わせてる
というか、中学生とは思えない魅力がある。とても活発というわけ
ではないけど、必ずクラスの中心にいるし、どの角度からどの表情を
切り取っても絵になる。そして、人気の大きな要因になってるのが
その身体だ。単純に”発育がいい”のだ。良すぎる。中学生の身体では
ない。テレビや雑誌に出てるモデルさんのような体型だ。
その体型を作るためにとてつもない努力をしたわけでなく、自然と
その身体になっているのだ。小学生の頃から出るところは出ている。
そして、太っているわけではないが程よい肉付きで締まるべきところ
はしっかりと締まっている。その中学生離れした抜群のプロポーションが
人を魅了する。そんな彼女の体重とスリーサイズはっ…………


いや、流石にこれ以上考えるのはやめておこう。
僕は不可抗力で彼女の全てを知っているけど、故意的に
考えるのは失礼な気がする。

とにかく、このように無意識に彼女のことを色々と考えてしまうほど
魅力的なのだ。僕はゼンノウちゃんの方が好きだけど。

僕がそんなことを考えてる間に他の3人はお互いの机をくっつけ、
教科書を開いている。僕も急いで教科書とメモ帳を取り出した。

今回の授業のテーマは、
『生きるとはなにか』

何とも抽象的なテーマだ、答えなんてものはないだろう。

「じゃあ、みんな準備できたみたいだし、話し合う?」

ゼンノウちゃんがみんなを見て話し始める。
ゼンノウちゃんは人と話す時、必ずその人の目を見て話す。
相手が複数であれば、それぞれの目を交互に見て話す。

意識的にやってることかは分からないが、僕が好きな
ゼンノウちゃんの所作の一つだ。僕は恥ずかしいから
すぐ目線を逸らす。

「話し合いたいけど、結構難しいテーマだよね」
「そうですね……はっきりとした答えを出すのは難しそうです」

アフロちゃんとシャカくんが答える。

「そうだよねー私もよく分かんない、ゼンチくんは?」

ゼンノウちゃんが僕の目を見てくる、やっぱり好きだ。

「うーん、大まかに言えばこうやって話したり授業を受けることも
”生きる”ってことだと思うけど、中々難しい」

無難なことを答えてみる。

「確かに、”ただそこにいる”ってだけでも生きるって言えるね」

シャカくんが賛同してくれる。シャカくんは大人しいタイプだけど
こういう場ではしっかりと協力してくれる。ありがたい。

「そうかぁ、でも、なんか分からないけどそういうことじゃない気が
するんだよなぁ、もっと深いことを考えなきゃいけないというか」

ゼンノウちゃんは頭を悩ませている。

その通りだ、これは道徳の授業であって無難なことを言う場ではない。
しっかりとテーマに向き合うゼンノウちゃんが正しい。

しっかり考えなきゃいけない場でしっかりと考える。
これもゼンノウちゃんの魅力の一つだと僕は思っている。

正直、中学生で全ての授業にしっかりと取り組んでいる生徒なんて
一握りだ。いくら勉強ができる生徒でも道徳とか音楽の授業は
テキトーに済ませていることが多々ある。それが典型的な中学生だ。

でも、ゼンノウちゃんは違う。数学も国語も体育も道徳も全てに
全力で取り組んでいる。全てを真剣に考え、向き合っている。
その真剣さが、僕は好きだ。

「心臓が動いてるとか、喋ってるとかそういうことじゃダメかな」

アフロさんも無難なことを言う。何も考えてないような、とりあえず
目の前の問題を解決しようしているような、こういう発言が典型的な
中学生の発言だと思う。

実際、アフロさんはそこまで真剣に考えてないし、考えを持ってない。
僕は知ってる。アフロさんはそういう人だし、そういう考えの持ち主だ。

ゼンノウちゃんも、今のところは考えを持っていない。
真剣に考えてはいる。僕は知ってる。
きっとそのうち自分なりの考えを見つけるだろう。

この班の中だと、唯一シャカくんが”生きる”ということに対して
考えを持っている。僕は知ってる。

「なんというか、そういう表面的なことじゃないんじゃないかな。
もっと考え方というか、価値観というか……」

シャカくんは考えを持ってるのに、はっきりとは言わない。
ただアフロさんの発言に対しての返答ををするだけだ。

『自分の考えがあったとしても言いにくい』という気持ちは
分かる。数学とか理科みたいにはっきりとした答えがある時と
違って、道徳の時間に自分の意見を言うのはなんだか恥ずかしい。

ちょっとイキってるように見られるんじゃないかとか、
イタイ奴だと思われるんじゃないかとか思って、はっきりとした
意見は言えない。実際は誰もそんなこと思わないんだろうけど、
僕がシャカくんと同じ立場だったら同じ選択をするだろう。

シャカくんとは気が合いそうだ。

「”生きる”っていうのは”挑戦する”ってことなんじゃないかな」

悩んでたゼンノウちゃんが口を開く。さっきまであんなに
悩んでたのにもう答えを見つけたのか、凄い。

僕は相手のことを知ることはできるけど、未来のことを知ることは
できないっぽい。『相手の考え』は知ってるけど『相手が何を発言するか』
は知らないという感じだ、大人になると未来も知ることになるのかも。

それにしても、”挑戦する”か、とても彼女らしい答えだと思う。
何に対しても全力投球の彼女らしい、良い答えだ。

ゼンノウちゃんはシャカくんと違って自分の考えをちゃんと言える。
『恥ずかしい』とか『変に思われるかも』とかそういう考えが一切
ないらしい。僕はそんなところも好きだ。大人だと思う。

「挑戦かぁ……」

アフロさんがよく分かってないように呟く。

「いいね、挑戦。良いことだと思います」

シャカくんはゼンノウちゃんに賛同する。
やっぱり最後まで自分の意見は言わないつもりらしい。

「でも、それだと挑戦してない時は生きてないってことに
なっちゃいそうですよね」

シャカくんが反対意見?のようなものを言う。

「うーん、そうかなぁ、でも、みんなそれぞれの挑戦はいつも
してるっていうか、なんて言うんだろう……」

ゼンノウちゃんは自分の考えを言葉にするのが苦手みたいだ。

「例えば、ただ授業を受けてるときとか、こうやって班で話し合ってる
時間は特に挑戦はしてない気がするんですよね」

シャカくんとゼンノウちゃんの議論が始まった、頑張れゼンノウちゃん。
2人の議論が始まってからは僕とアフロさんは完全に蚊帳の外だ。

「なんというか、ただ生きてるだけでもみんな頑張ってるから、
授業の中でもみんな頑張ってて、その”頑張る”ってこと自体が”生きる”
ってことになるのかなって……」

少し自信なさげだけど、ゼンノウちゃんはとても良いことを言っている。
確かにゼンノウちゃんの性格や行動にはその考えが出てるな、と思う。

「でも、それって誰にでもどんなことにも当てはまっちゃうことで、
喋ってるとか、心臓が動いてると同じでとても表面的なことなんじゃ
ないかな、表面的なことっていうのは他の動物もやってるわけで、
もっと自分たちならではのことがあると思うんですよね」

「そうか、確かにそうかも、うーん、でもなぁ……」

シャカくんは一歩も引かない、これは困ったな。
シャカくんは自分の考えをちゃんと持ってる上に相手を導く、
悪く言えば言いくるめることが得意だ。このままだとゼンノウ
ちゃんが言いくるめられてしまう。

僕は時計を見る。話し合いの時間は残り3分程度だ。このままでは
ゼンノウちゃんがモヤモヤしたまま話し合いが終わってしまう。

なんとなく、『ゼンノウちゃんを助けたい』と思う。

「”挑戦する”っていうのはただ頑張るってことじゃなくて、もっと
広い意味なんじゃないかな」

僕は意を決して口を開く。ゼンノウちゃん、シャカくん、アフロさんが
僕の方を見る。少し緊張するが、ゼンノウちゃんのためだ。頑張ろう。

「挑戦って、例えば受験を受けるとか、部活で大会に出るとか、そういう
大きなことだけじゃないと思うんだ。実際、ただの授業の中でもいつも
小さい挑戦をしてると思うんだよね。数学の授業で問題を一つ解こうと
するのも挑戦だし、こうやって班活動で発言して議論しようとするのも
挑戦だと思う。あ、あと、みんな班活動でも休み時間でも誰かと話したり
遊んだりするでしょ? そうやって人と関わるのもごく小さな挑戦で
成り立ってることなんじゃないかな」

僕は少し早口になりながら意見を述べる。喋り終えてからみんなを見ると
シャカくんとアフロさんは少し驚いたような目を、ゼンノウちゃんは、
何故かキラキラした目をしていた。

「そうそう! そういうことなんだよ! みんなどんな時でもどんなことでも小っちゃくても挑戦はしてる。それが生きてるってことだよ」

「なるほどね、挑戦って大きいことばっかだと思ってたけど、
そういうわけじゃないのか、急にしっくりきたよ」

僕の説明でシャカくんも納得してくれる。ゼンノウちゃんも
嬉しそうだし、良かった。

でも、僕は自分の意見を言ったわけじゃなくてゼンノウちゃんの
考えを代弁しただけだ。ゼンノウちゃんの考えを知っていたから
それを言葉にしただけ。本当に凄いのはしっかりと考えてる
ゼンノウちゃんだ。

ちなみに、シャカくんの考えは
『生きるとは、人と関わること』
大人しいけど友達が多いシャカくんらしい考えだ。

その考えを知ってたからこそシャカくんも納得するような意見を
言うことが出来た。僕はただの代弁者でまとめ役だ。

その後は、まとまった意見を誰が発表するかという話になり、
じゃんけんの結果、アフロさんが発表することになった。

話し合いでは発言が少なかったアフロさんだけど、しっかりと
意見をまとめた発表をしてくれた。発表の最中はクラス中から
アフロさんに熱い視線が注がれていた気がする。

全ての班の発表が終わり、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、
各々机を元の位置に戻す作業に取り掛かる。僕も机を引きずりながら
移動を開始した。

「さっきはありがとね、私、話し合いとか苦手で」

移動を開始した直後、ゼンノウちゃんが声をかけてきた。

驚きすぎて言葉が出ない。さっきまでは普通に話してたのに、
好きな人が急に目の前に現れたことで僕は一瞬フリーズしてしまう。

「……っあ、うん、大丈夫だよ、言いたいことなんとなく分かったから」
よく分からない返答をしてしまう。最悪だ。

ゼンノウちゃんは少し不思議そうな顔、頭の上に小さい『?』が
浮かんでそうな顔で少しニコッとして自分の席に戻った。

僕は机を戻した後、椅子に座り、後悔する。
僕みたいな日陰者、いわゆる陰キャと呼ばれるような
中学生あるあるだと思うが、急に話しかけられた時に対応できない。
変に思われただろうか。ゼンノウちゃん仲良くなるにはああいうところで
会話を続けなければならないはずなのに、それができない。

ゼンノウちゃんが考えてることは分かってもゼンノウちゃんと
落ち着いて話すことができない。なんて情けない男なんだ、僕は。

その日は家に帰ってからも布団に入ってからも、一日中そのことを
後悔していた。

ゼンノウちゃんは僕のことをただのクラスメイトだと思っている。



後書き
第2話!
なんかダラダラと長く書いてしまった気がするけど、
他の文章が思いついたら修正しようと思います。
とりあえず書くことを目標に!3話以降も書くぞ!


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