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バンやろ

 「ファミコン」の回で書いたが、中学を卒業したのちゲーム持ち込み禁止の全寮制の学校へ進学したため、それまでの生活のほとんどを占めていたゲームに関連する趣味ができなくなってしまった。

 当然、周囲の同級生たちも同じ状況だったのだが、お金持ちかつズル賢い奴は小さなTVとゲーム機をこっそり持ち込んでいたりした(ちなみに先生に見つかって没収されていた)。不思議とゲームボーイなどの携帯型ゲーム機は見かけなかった気がする。今ならnintendo switchあたりか。ちなみに当時はたまごっちが流行っていた。

 学校から近い家の子は毎週末家に帰っていたのだが、ぼくは「帰れなくはないけどちょっと遠いし金がかかる」微妙な距離だったので「たまに帰らない」という程度の生活を送っていた。

 成績は下の方だったし時間はたっぷりあるから今思えば勉強をすればいいんだがそんなことするわけがない。
 高校以降の学校というのは中学と違って、いろんな地域から多様なキャラの人間が集まる。ぼくのいた中学は比較的のんびりした学校で、割とオタクっぽい子が多かった。ところが寮に入ると今まで知らなかったキャラと遭遇するようになった。

 寮では1年生の間、2人または3人部屋で1年間過ごすことになっており、ぼくは2人部屋に配置された。同室の子がどういう子なのか心配だったが、その時の出会いがその後のぼくの趣味に大きな影響を与えた。

 いわゆる「ヤンキー」っぽい子だったのである。というよりは、年相応におしゃれとかに気を使ってたりしてカッコつけてるだけで、別に氣志團みたいな格好をしているわけではない。
 カッコつけてて、見た目も悪くないんだけど、話し言葉がとても訛っていたのがアンバランスでおかしかったのを覚えている。

 話合うのかなーと思っていたが、割と気さくな子だったのですぐに打ち解けることはできた。お互い、毛色の違いが新鮮な感じだった。
 彼はサッカー部に所属していて、たまにサッカー部の先輩が夜中に部屋へ忍び込み、寝ている間にイタズラをしていた。そのせいでぼくもイタズラの巻き添えを何度か食らったことがある(足に運動靴のロゴを油性マジックで描かれたりとか)。体育会系のノリとは無縁だったぼくとしては、そういう経験に巻き込まれてそれなりに楽しかった。
 そんなある日、その子が部屋でCDを聴いていた。BOØWYだった。全く知らなかった世界に触れた気がした。

 それまでも親が聴いていた影響で布袋寅泰とかCOMPLEXとか、多少は聴いていたんだけれどそれほど意識して聴いてはおらず、メインはドラクエやFFの曲だった。
 あとはこれまた親の影響で坂本龍一、さらにぼくがゲームの音楽を好きなのを知って勧められたYMO。受験勉強していた頃はYMOの「TECHNODON」をヘビロテで聴いていた。勉強中に日本語の歌詞がついているものを聞くと、頭がそっちに向いちゃって集中できなかったというのもある。

 布袋寅泰は知っていたので「このバンドはあの人のいたバンドだったのか」「え、COMPLEXもそうなんだ」「BOØWYのボーカルの人って氷室京介なのかー」といった感じでいろんなつながりがわかって面白かった。
 ぼくはYMOのCDを寮に置いていたのだが、授業が終わって帰ってきたら同室の子がいつのまにかぼくの机から取り出して聴いていたことがあった。「これ結構いいねー」と言ってくれて、全然方向性も違うしどこか分かり合えない気がしていたぼくとしては、なんか嬉しい気持ちになったのを覚えている。勝手に人の引き出し開けてんじゃねーよ、とは思ったが。

 他の友人と話す内容もいろんなバンドの話が増えていく。寮にギターやキーボードなどの楽器を持ち込む子も増えていった。今思えば楽器がOKならゲーム機もOKなんじゃないかという気がしなくもない。
 夜の自習時間が終わり、自由時間になるとあちこちの部屋からアンプに繋いでいないエレキギターの音が聞こえるようになっていた。
 バンドブーム、それもいわゆるV系は真っ盛りの時代だった。X JAPAN、BUCK-TICK、GLAY、イエモン、黒夢、ラルク、LUNA SEA、ジュディマリなどなど...

 今で言う「推し」のバンドがみんなにあって、ぼくは当時それが「黒夢」だった。清春の歌い方自体はそれほど好きでもないんだけど、歌詞の世界観や言葉遣いが面白くてよく聴いていた。それからベースの音も好きだった。何となく他のバンドに比べて強く聴こえる気がしていた。実際、ボーカルとベース2人のバンドなので音源としても目立ってたんだと思う。
 初めて聴いたのが「迷える百合達」で、そのあと「feminism」「亡骸を...」「FAKE STAR」などなどを中古CD店を自転車で駆け回って入手して聴いていた。
 ビジュアルはアルバムごとにバラバラで、曲調もバンドっぽかったり打ち込みポップになったり果てはパンクに。時には自分たちの過去を全否定するような曲も出てくる黒夢に、友人達は「あの頃はいいけど今のは...」と言った感じで割と変化に否定的な感じだったが、ぼくとしては「1つのバンドがどんどん変化している」というのはごく自然な感じがしていた。たぶんずっと同じことやってたら飽きるだろうなと思うし、こっちとしては一粒で何度もおいしい。
 「ロックの定型通りの曲である」ということよりは「期待を期待通りにやらない」というスタンス自体の方にロックを感じていた気がする。
 もしかするとYMOもそういう「あまのじゃく」で、アルバムが全部方向性バラバラだったのが原体験にあるから、それがより自然に感じたのかもしれない。

 布袋寅泰も好きだった。インタビュー記事などを読んでいる中で、YMOに影響を受けているというのを読んで、ギタリズムシリーズであったり、独特のキッチリした感じのギター、COMPLEXの曲作りの感じはそういう影響なんだなと納得したり。
 ぼくがギターを好きだと思えるバンドはあんまりなくて、好きになるかならないかの境目とか違いというのが自分であまり説明ができない。あまりギター自体には興味ないのかもしれない。「この曲のここのキュイーンってのかっこいいな」とかいうのは一応あるんだけれど言語化しにくい。

 X JAPANはキラキラしたイメージ。YOSHIKIの趣味なんだろうけどクラシック的な構成・要素があったり、何だか豪華絢爛って感じで他のバンドとは別格という気がしていた。実際ちょっと先輩だし。
 そんな中に異質なビジュアルのhideの存在はすごく不思議だった。ソロでのめちゃくちゃポップな曲とふざけたような声のボーカルはX JAPAN自体のイメージとはかけ離れていた。でもX JAPANのすごさはそういう異質なものを内包できる懐の広さなのかもしれない。結構、メロディーだけ聴くと歌謡曲のようにメロディアスだし。

 GLAYは当時、もう飽きるほど巷で聴いていたのでわざわざ買ってまでは聴いてなかった。決して嫌いではなかったんだけれども、それほど大好きでもなかった。
TAKUROの作る曲はいい曲だなとは思うものの、ぼくとしてはちょっとひねくれた曲の方が好きだったりするので、そういう意味ではJIROであったり HISASHIの作る、シングル表題曲に「ならない」曲が好きだった。
 元々、ゲーム音楽やYMOなどの電子楽器を使った音楽から入っている身としては、HISASHIの作るデジロックな曲はすごく刺さりまくっていた。
 GLAYには「rare collective」という、アルバムに収録されていないシングルのカップリング曲を集めたシリーズがあって、カップリングにHISASHIの曲が多かった都合上、当時ベスト盤や普通のアルバムは買わなかったがこれだけは買っていた。周囲からはかなり変な買い方だと思われていたと思う。

 LUNA SEAは結構好きだった。聴き始めた頃ちょうどLUNA SEAは充電期間として各自ソロ活動を始めており、ぼくはSUGIZOのアルバムをよく聴いていた。坂本龍一やYMOのファンを公言しているだけあって、そういう影響であったり当時流行っていたドラムンベースなど取り入れたいわゆるロックというよりテクノに近い曲はすごく刺さった。
 真矢のソロアルバムも好きだった。ドラムの人がソロで何やるのかと思ったらまさかの歌モノで、しかもアルバム名は「No Sticks」。タイトルからしてふざけてるのかと思ったら結構曲が良くて真面目にやっている(なんと秋元康プロデュース)。これもよく聴いてた。
 RYUICHI、というか河村隆一のソロはあまり聴いていなかった。これはGLAYと同じで聴かなくても周囲でよく流れていたから。当時は歌い方がちょっとねちっこくてあんまり好きでなかった。ただどこかクセになる歌い方で嫌いにはなれない。
 J、INORANのソロは聴いていない。こうやって見ると、ロックロックしたロックはあまり好きでないのかもしれない。

 SUGIZOファンの友人がいて、その子からLUNA SEAやSUGIZOのアルバムを借りていたのだが、彼は坂本龍一やYMOに興味があったのでぼくはその辺のアルバムを貸していた。
 そんなある日、彼がKing CrimsonのTHRAKというアルバムを貸してくれた。これがまたカッコよくて、ぼくの方がKing Crimsonにハマってしまう。
 「ドラムが2人てどういうこと?」「曲が長い!切れ目がない!」「これは...なんだ?」
 J-Rockばかり聴いていたぼくにプログレッシブロックというジャンルはとても新鮮で、以降Emerson, Lake & ParmerやPink Floydあたりも聴くように。結局、貸してくれた友人以上にプログレ界隈に詳しくなってしまった。

 以降、キリがないのでこの辺にしておくが、基本的に今でも好きな音楽はこの頃に接した音楽がベースになっている気がする。他にもぼく的に重要なバンドや、書いておきたいことはあるんだけど、それはまた次の機会に。

 まとめると、
「年代やアルバムごとにコンセプトがコロコロ変わる」
「バンド内に変な人がいる、または変な人しかいない」
「エレキギターかっこいいだろ系ではない」
「スーツ着てるか、変な衣装を着てそう。少なくともタンクトップで汗臭そうな感じではない」
「表現手法としてバンドサウンドである、ということにこだわっていなさそう」
 こんな雰囲気を感じるバンドやグループの曲が好きみたいだ。

 好きなバンドの話なのに音楽自体についての条件がほぼないのは、ロックってのは「気持ち」の問題だから、と言ってみる。

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