ブダペスト2 エレガントにそしてアクティブに
ウィーンから2時間40分ほどで、列車はブダペスト東駅、ケレティに到着する。慣れない駅に降り立つ時は、いつだって緊張する。でも、慣れない駅だからこそ、未知なるストーリーへの期待に溢れる。そう、このSMBCモビットのCMに登場する竹中直人が、ブダペストの東駅に降り立った時のように。
優雅にバイオリンを奏でる女性、「すごい才能に出会ったよ」と言う高揚した気持ち。そんな情景を想像し、このバイオリンの音色の余韻に浸りながら、ブダペストの町の散策を始めよう。
ブダペストには地下鉄が走っている。東駅からもアクセスできて、便利だ。観光地を巡るときに便利なのは、1号線。ヨーロッパでロンドンの次に古い地下鉄と言われており、黄色いレトロな雰囲気が漂う短い路線。そして、タイル張りの壁に書かれた駅名が、可愛い雑貨屋さんを訪れたような気持ちにさせてくれる。
早速町の中心地、ヴェレシュマルティ広場から英雄広場まで行ってみよう。
地下鉄は美しい大通りアンドラーシ通りの地下を走り、北端の英雄広場最寄り駅に到着する。地下から階段を上がると、前方に広大な広場が見える。高く聳える建国1000年記念碑が中央に建つ。
記念碑だけなら他の場所でも目にすることがあるような光景だが、この英雄広場には、さらに左右それぞれ7体づつ、ハンガリーの歴代英雄たちの像が弧を描くように並んでいるのが圧巻だ。
広場の裏手には、広大な市民公園が広がっている。その名の通り、市民たちの憩いの場として賑わっている。ここには、動物園や遊園地、そしてサーカスまである。英雄たちの後ろ側は、平和に市民が集う場が守られているのだ。天気が良い日は、この公園の中を歩いてみるのも良いだろう。
下記写真は動物園の入り口。
さて、再び地下鉄1号線に乗り、今度はまた町中へ戻る。終点のヴェレシュマルティ広場で地下鉄を降りて地上に出る。そこからはブダペストで一番賑わっている通り、ヴァーツィ通りが伸びる。英雄広場と比較すれば、小さく庶民的な雰囲気のあるその広場は、安らぎが感じられる。広場の一角にある、白くエレガントな佇まいのカフェ、ジェルボー。
1858年創業という歴史を誇り、ハプスブルク家の支配下にあった当時、あの私が大好きな皇妃エリザベート、ハンガリーの呼び方ではエルジェベート、も訪れていたそうだ。華やかなカフェ文化を誇るウィーンのカフェのような雰囲気を持ち、店内もシャンデリアが印象的な煌びやかな雰囲気が漂っている。是非ともここで名物ドボシュトルテを堪能したい。薄い何層ものスポンジの間にチョコクリームを挟み、一番上はカラメルで覆われている。甘いものをいただいている時に感じる至福のひとときを味わおう。
休憩を終えたら、賑やかなヴァーツィ通りを歩いてみる。洋服屋、本屋など一般商店からカフェ、レストランなどが並んでいる。ハンガリー名物を売るお土産屋さんもある。ウィンドウショッピングもまた楽しい。この通りを突き当たると、ドナウ川沿いに出る。ドナウ川沿いの遊歩道は、ブダペスト市民が好んで散歩をするところなのだ、と仕事上でお付き合いのあったハンガリー人の女性が語っていた。
地下鉄を使って、自分のペースでのんびり散策も良いが、もっと効率よく見どころを回りたいという場合は、観光バスを利用するのもまた良い。好きな場所で乗り降り自由な観光バス、Hop on Hop offを利用するとなかなか便利だ。地下ではなくアンドラーシ通りもちゃんと堪能できる。また特に、ブダ側の観光スポットは丘の上にあり、電車も通っていないため、観光バスを利用すると手際良く観光地を訪れることができる。
ブダ側の見所は、王宮の丘。王宮は13世紀半ば、ハンガリー王ベーラ4世によって建立された。15世紀にはハンガリールネッサンス文化の中心地として栄えた。しかしその後、16世紀にはトルコ軍により破壊され、トルコの支配から解放したハプスブルク家が17世紀からハンガリーを支配下に置き、バロック様式の宮殿として生まれ変わった。それから、火災や戦争の打撃により王宮はその後も形を変え、20世紀半ばにようやく今の形に整えられた。現在は、国立美術館や博物館として使用されている。
王宮の丘で押さえておきたいところはあと2つ。まずはマーチャーシュ教会。王宮と同じく、13世紀ベーラ4世の命により建てられ、15世紀にマーチャーシュ王により建て替えられ、現在見られる高い塔が完成した。しかし、ここでもまた、同じ運命をたどる。トルコに占領された当時、教会内部はモスクに改装されてしまった。そして、およそ150年後、ハプスブルク帝国の時代になると、カトリック教会に戻された。ハンガリーは後にハプスブルクからの独立を望んで戦い、オーストリア=ハンガリー二重帝国が誕生する。そして、ハプスブルク家のフランツヨーゼフ皇帝と、王妃エリザベートは、ハンガリーの王と王妃も兼ねるという意味で新たな戴冠式が行われたのがこのマーチャーシュ教会だ。今でも内部は、ステンドグラスの宗教画などカトリックの雰囲気の中、壁の文様などにトルコのビザンチン文化の名残が感じられるという独特な教会となっている。
王宮の丘で一段と人目を引く白い尖塔と回廊がある。それが漁夫の砦だ。
川沿いとは言え、川からはだいぶ離れているのに、なぜ漁夫という名が次いているのか。それは、かつて魚の市が立っていたこと、そしてこの地を守る役目が与えられていたのがドナウの漁師組合だったということがこの名前に由来しているという。歴史に彩られた他の観光名所と違い、ここは真っ白なエキゾチックな趣が漂う不思議なところだ。ここからのドナウ川の眺めもまた素晴らしく、やはり、ブダペストに来たらここは外したくないスポットであろう。砦の南側にある、ハンガリー建国の父と言われる聖イシュトヴァーンの銅像もまた見逃せない。
さて、ブダペストの観光を満喫したところで、今度は水着に着替えよう。えっ? 海があるわけでもないのに、なぜ? と思われる方もおられるでしょう。ブダペストに来たら、海ではなく、温泉に入るのだ。そう、水着を着て。
ブダペストでの温泉とは、いわゆる温泉プールだ。室内温泉と屋外温泉のプールを水着を着て楽しむことができる。温泉プールが併設された温泉ホテルもあり、ゲッレールト温泉やマルギット島にあるマルギットシゲットなどが有名だ。そして、もちろん温泉プールだけ利用できるところもある。はじめに訪れた英雄広場裏手の市民公園に隣接している、セーチェニー温泉が、観光客も行きやすくお勧めだ。
温泉プールというと、ぬくぬくとお風呂に入っているように温まるイメージをお持ちかもしれないが、水温はそれほど高くない。38度くらいの少し温かめのところもあるが、それ以外は、普通のプールと変わらないくらいで少々寒い。それでも、この温泉プールは年中営業しており、とても賑わっている。ここにはなんとプールの中にチェスの台が設置してあり、温泉に入りながらチェスを楽しむハンガリーのおじいちゃんやおじさんたちを見ることができるから驚きだ。
ブダペストのこの温泉、これはさらに飲むこともできる。せっかくなので、飲む方も体験してみた。いや… なんというか、美味しくない! カルシウムやマグネシウムなどが含まれており、入浴のように効能があるということ。私は苦手だったが、普通に飲める方もいらっしゃるようなので、是非お試しを。
ハンガリーの温泉といえば、他にも行ってみたいところがある。ブダペストの南西部に、広大な面積を誇るバラトン湖。ここは夏場は海岸リゾート地のように賑わうところなのだが、この湖にも温泉で有名なところがある。かつてウィーンに駐在していた上司は、よく家族と訪れていたようで、楽しそうに休暇の様子を話してくれたものだ。
こうしてブダペストを訪れた時のことを振り返り、ふと思う。私の中でのハンガリーは、素朴な温かみがある場所だということ。くさり橋のライトアップされた夜景にしても、ギラギラと人工的な明るい光を放つのではなく、素朴な温かい光を放っている。ブダの丘も、ペストの街も、温泉も、それぞれ市民が日常生活を送り、のどかなひとときを過ごせる場所がある。そんな温もりが感じられるハンガリー、久しぶりにまた訪れてみたくなった。
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