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贔屓は国をもダメにする「女王陛下のお気に入り」
公 開:2019年
監 督:ヨルゴス・ランティモス
上映時間:120分
ジャンル:コメディ/スリラー
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人間社会を生きていますと、自分の好みの人というのはでてくるものでして、そんな中でも、お気に入りというのは発生してしまうものだったりします。
しかし、その立場が一国の命運を決める人であったならば、そのお気に入りの存在が、どれだけ大きな影響を与えてしまうか。
配偶者を見つけることができなければ動物にされてしまうというSF恋愛映画「ロブスター」をつくったヨルゴス・ランティモス監督による映画「女王陛下のお気に入り」は、特殊な話では全然なく、むしろ、国を決める重大な事柄を、女王の取り合いによって行われてしまうところを描いた作品になっています。
俳優陣も豪華で、「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーンや、「女王陛下のお気に入り」でアカデミー賞主演女優賞をとったオリヴィア・コールマン等の演技派女優がいかんなく実力を発揮しています。
男がみんな情けない
「聖なる鹿殺し」でも雰囲気はでていましたが、「女王陛下のお気に入り」では、でてくる男はだいたいが情けなくて、ダメな人間ばかりです。
食料も少なくて国民が大変だと言っているのに、裸の男にトマトを投げつける遊びに興じていたり、エマ・ストーン演じるアビゲイルが、ちょっとテクニックをつかったら、もうメロメロになってしまう貴族の男。
この作品は、とにかく男が弱く、女はしたたかであることを前提に、女王が国のトップに立つイングランド王国(グレートブリテン王国)であるというところも含めて、人間の本質的なころを描いています。
そして、国のことを決めている一大事なのにも関わらず、結局は、女性同士の三角関係を描きつつ、孤独な女性の虚無感を見事に描いているのです。
下がるサラと、上がるアビゲイル
他国との戦争が、とか、宮廷での権力闘争みたいなのは、全部放っておいてかまいません。
「女王陛下のお気に入り」は、オリヴィア・コールマン演じるアン王女と、その大親友であるサラ、そして、サラからアン女王を奪い取り、没落した身分から、貴族に返り咲こうとするアビゲイルの三角関係を描いたものとなっています。
特に、没落した貴族であるアビゲイルは、とにかく、どん底からスタートしています。
父親に売られ、娼館でひどい目にあいそうになりながら切り抜けてきたアビゲイルが成り上がる話である一方、アン女王の親友として、国政を実質取り仕切っていた身分から、かつてのアビゲイル同様に、娼館で働かされそうになります。
見るポイントによって印象は変わると思いますが、女王の取りあいによるパワーバランスで、彼女たちの立場は変わっていきます。
孤独な女王
2人を対称的に描いていく一方で、アン女王は、痛風になっては足を揉んで欲しいといったり、国政に興味がなく、子供のようにかわいがっているウサギと過ごしていたりします。
サラに全てをゆだねている女王ですが、サラが別の人間と踊っていると嫉妬したのか、自分自分の弱い部分に気づかされるようにで嫌になったのか、急にパーティーを抜け出したりしますし、精神状態はかなり不安定です。
だからこそ、政治的に利用されるわけですが、アビゲイルは、女王のお気に入りになることによって、どんどん地位をあげていきますし、サラは、国政が忙しくなるほどに、女王へのあしらいが雑になっていってしまったりしもします。
分かりやすい愛、わかりづらい愛
しかし、愛情というのは実にわかりづらいものです。
「その化粧、似合ってないわ」
と言う人間に愛情があるとは、なかなか思えないものですし、嘘であったとしても、「ウサギを大切にしているんですね」と言われて、すり寄ってくる人間を、悪者だと断定するのは難しかったりもするでしょう。
寂しかったから、という理由で、自分のことを本当に大切に思ってくれる人を追放してみたりと、まぁ、人間というのは、つくづく難しいものだと思ったりさせられます。
物語の最後には、いつまでも映し出されるオリヴィア・コールマンの表情と、うさぎ、と庭が、ああ、やってしまったな、という空虚さを見事に表現してくれているところもまた見ものです。
ヨルゴス・ランティモス監督は、かなり癖の強い内容をつくる監督というイメージですが、本作については、非常にわかりやすい内容となっています。
内容的に派手なものはありませんが、テンポの良さといい構図の面白さといい、まったく飽きることのない作品を生み出す監督となっています。