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スキを貫く難しさ。感想、映画「さかなのこ」
公 開:2022年
監 督:沖田修一
上映時間:139分
ジャンル:ドラマ
見どころ:タコの捕獲
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「男か女かは、どっちでもいい」
さかなクンの自伝的エッセイ本「さかなクンの一魚一会 まいにち夢中な人生!」を原作に作られた映画「さかなのこ」は、「あまちゃん」や「ホットロード」、「この世界の片隅に」の声優も務めたことでお馴染み、のんが主演となっています。
さかなクンが主人公の作品なので、本来であれば、演じる役者は男性であるべきなのでしょうが、物語の冒頭に
「男か女かは、どっちでもいい」
と示され、この言葉が、本作品の特異なキャスティングを肯定し、のんが演じていても、そういうものか、と余計な説明をとばして進められる魔法の言葉となっています。
そして、のんを当て書きして作られたという本作品は、まさに、のんという個性的な女優なしにはつくれなかったことがわかる作品でもあります。
さかなクン
さかなクンは、テレビで見たことのない人の方が少ないと思います。
「ギョギョ」という特徴的な語尾や言い回しが特徴であり、頭にのせたハコフグを模した帽子は、一度みたら忘れられないと思います。
今であれば、〇〇芸人みたいなくくりになってしまいそうではありますが、知識が豊富な素人が活躍するテレビ番組「TVチャンピオン」に出演し、驚異の五連覇を達成した人物、そして、テレビの傍ら、東京海洋大学の客員准教授を務めるなど、魚関係の活躍は目を見張る人物です。
ただし、「さかなのこ」は、事実を使いながら、驚くほどにファンタジーな作品となっていますので、みる際には心構えが必要なところもあったりします。
のん
本作品は、まさに「のん」以外に演じることが難しい作品といえる内容となっています。
さかなクンという実在の人物の時点で、すでに個性的すぎる上、今現在も生きている人物です。
男性が演じてもいいでしょうが、強すぎる個性は、時に作品を見るときにたんなる違和感になってしまいがちです。
その点、演技力とキャラクター性をもつ、のんが演じることによって、違和感が違和感ではなくなる見事なキャスティングが冴えるところです。
演じているのは女性である「のん」ですが、作中においては、男性として扱われています。
本来であれば、色々と設定や演出を邪推して物語に集中できなくなりがちなところを、冒頭の言葉によって、手短に、且つ、説得力をもって物語に没入できる力技は、他の作品でも転用していい方法なのではないかと思ってしまいます。
やさしい世界
物語の内容に入っていきますが、本作品は、魚が大好きな男の子が、自分のスキを貫きとおす物語になっています。
多くの場合、その想いは誰かの心ない言葉によって打ち消されてしまい、いつのまにか、自分の人生の色合いが失われていくものです。
さかなクンのまわりの人たちは、さかなクンに感化されたりしながら、彼の想いを助けているところがポイントです。
さかなクンの母親は、さかなクンの為に、最大限のことを行いますし、先生に対しても、勉強なんてできなくてもいい、といって擁護します。
ただし、本作品は、好きを貫くことの大変さは、それほど強く描かれていません。
柳楽優弥演じる男が、島崎遥香演じる恋人を紹介するのですが、「おさかな博士」を目指しているというさかなクンをバカにしたように笑います。
実際のさかなクンは、何度となくそんな言葉を投げかけられたかもしれませんが、作中においては、そのあたりのキツイセリフはほとんどありません。
さかなクンのお仕事事情
本作品で面白いのは、劇中のさかなクンが、自分の衝動と社会生活にうまく折り合いをつけることができないでいることです。
魚が好きだから水族館に勤めようとしても、好きなこと以外では集中力が続きませんし、好きなものがあったら、子供のようにそちらに走り寄ってしまう。
好きだから、魚関係がなんでもうまくいくわけではない、というところが描かれていて、ハラハラします。
ただし、冒頭でも、すでにテレビクルーにかこまれているさかなクンが描かれていますので、観客である我々は、さかなクンの成功がわかっているからこそ、ある程度安心してみていられるということもあります。
登場する本物
一昔前の、少し田舎の町だと、一人か二人ぐらいは、有名なおじさん・おばさんというのが存在しているものでした。
「さかなのこ」においては、ギョギョおじさんという人物がでてきて、観客を混乱させてくれます。
本物のさかなクンが演じる、魚が大好きな人物。
ただ、好きなものを貫くには、社会的にも、金銭的にも難しいことを暗に示してくれる人物です。
ちょっと、寂しい退場の仕方を本編ではするのですが、その意思を継ぐ形で、さかなのこの主人公である、ミー防に意志が継がれ、やがて、さかなクンの想いが、受け継がれていく、という流れで物語は進みます。
本作の見方
概要をなんとなく書いてきましたが、本作品は、ある種のファンタジーであり、さかなクンという視点で描かれた物語ということを意識してみないと、感情移入が難しくなるかもしれません。
ギョギョおじさんではなく、さかなクンという人物に成る事ができたミー防は、町でも人気ものになります。
子供たちは、彼を見つけると付いてきて、何かのテレビ番組でもやっているかのように、次から次へと子供たちが集まってきます。
それはさながら、自分の中の妄想と現実が入り乱れたような世界のようにも見えるのです。
しかし、悪い人間がいない世界でもあり、結果としてやさしい世界が描かれている作品になっているのです。
船から落下したさかなクンが見た一瞬の夢と、過去のパラレルワールドが描かれているような作りになっているので、非現実的に思えるところは気にしなくてもいいように思いまが、不良たちが、本気なのかじゃれているのかよくわからない戦いとかも含めて、そのような世界なのだ、と思うと物語に集中できるようにい思います。
「さかなのこ」は、たんなる自伝を映像化したものではなく、ファンタジーと現実を交差させることで、入り組んだ作品となってる珍しい作品となっています。