SF入門。いつ帰れるのか。映画「月に囚われた男」
公 開:2009年
監 督: ダンカン・ジョーンズ
上映時間:97分
ジャンル:SF
宇宙ものの映画で有名な作品といえば、スタンリー・キューブリック監督「2001年宇宙の旅」が圧倒的な知名度といえるでしょう。
大予算を使い、コンピューターHALと人類の生き残りをかけた戦いが描かれます。
宇宙ものの作品というのは数多くありますが、えてして予算がかかってしまうものです。
ですが、「月に囚われた男」は、製作費500万ドルという低予算でつくられ、よくみるとセットが安っぽいところはありますが、低予算であるという点を感じさせない作品となっています。
月にあるヘリウム3を採掘するという仕事を与えられている主人公。
サム・ロックウェル演じる主人公が、実にいい演技をしています。
むしろ、サム・ロックウェルの一人芝居といってもいいほどです。
同じ役者であったとしても、演技や服装で全然印象が変わるのが驚きとなっていまして、ボサボサのサム・ロックウェルと、きりっとしたまじめなサムの二人を見ることができます。
本作品は、凝った脚本というわけではありませんが、その演出が面白い作品となっています。
「2001年宇宙の旅」であれば、コンピューターは敵として牙をむき出しにしてきますが、「月に囚われた男」にでてくる人口知能であるガーディは、敵ではなく、あくまで、登場人物をサポートしてくれる味方として活躍します。
物語のはじめこそ、何か悪いことをしてくるんじゃないかと思うところですが、小さな画面に顔が描かれているデザインが秀逸で、なんだか憎めないキャラクターとなっているのもポイントです。
最近では、猫の顔がついた給仕ロボットがいたりしますが、ロボットに画面をつけて表情を別のキャラクターで表現するというのは、案外にいいように思われます。
さて、月面で、3年契約という設定で、一人もくもくと仕事をする主人公。
家に帰ることもできず、家族の映像を見ている姿なんかは、映画「南極料理人」などで、長距離電話を楽しみにする隊員のようですらあります。
なにか隠していそうな人口知能のガーディと、気が狂いそうな日々を送るサム。
本作品は、唐突に事故が発生し、主人公が二人になるところから、物語が動き出します。
はたして、自分は何者なのか。
まるで、フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るのか」のデッカードのようでもあり、自分自身のアイデンティティが崩れていくように感じられるシーンも見られますし、映画「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」の清掃員のおじさんのような悲劇をみることになります。
SFを扱った作品の中で、一見ありそうな設定でありながら、どんどん物語が進むにつれて悲劇が明らかになっていき、生きるというのはどういうことなのか、をなんとなく示してくれます。
近年の作品ですと、「マーダーボットダイアリー」というSF作品が、企業でつかわれているロボットが逃げ出すという点で、「月に囚われた男」が気に入った人は見てみても面白いかもしれません。
本作品は、97分という短い作品でありながら、宇宙もののSFの風味がでた、非常に見やすい作品となっていますので、なんとなく、SF関係が苦手に感じられる方も、気軽にみてみてもらえればと思います。