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神は与え、惜しみなく奪う。映画「ドリーム・シナリオ」。

公  開:2024年
監  督:クリストファー・ボルグリ
上映時間:102分
ジャンル:コメディ/ホラー


夢の中に、突然、ニコラス・ケイジがでてきたら、思わず誰かに話したくなってしまうかもしれません。

しかも、話した相手もまた、同じくニコラス・ケイジの夢をみていたとしたら、それは、偶然で済ませるにはあまりに怖いことです。

映画「ドリーム・シナリオ」は、ある日突然、様々な人がニコラス・ケイジ演じる冴えない大学教授ポールの夢をみるようになることで、翻弄される姿を描く作品となっています。

SNS界隈において、人や発言等が人気になったりすることを、バズるといいますが、バズる方法も様々です。

何かの発言や行動がきっかけで、その画像や言動が独り歩きをして、ネット上で流行ったりすることがあります。

「ドリーム・シナリオ」においても語られますが、いわゆるミーム化するというものです。

芸人として活躍し、様々な場面で活躍するようになった「春とヒコーキ」のぐんぴぃさんも、街頭インタビューがきっかけでネットミームとなり、今では、そのミームを逆手にとった戦略で、一躍人気の芸能人へと駆け上っていたりします。

映画「ドント・ルック・アップ」なんかでも、隕石が落ちてくることを訴える学生が、ミーム化してしまって、主人公が悩むというシーンもあったりして、一般人であったとしても、ひとたび注目されてしまうと、意図しない形で社会生活に影響がでてしまうこともないわけではありません。

群れのシマウマでいるべきか。

「ドリーム・シナリオ」において、ニコラス・ケイジ演じる主人公のポールは、シマウマの生存戦略について講義をしています。

シマウマは、特徴的な模様で目立ちますが、群れとして考えた場合には、自分が狙われる可能性が低くなるということを話します。

ポールもまた、本を出したいという夢はもっていますが、元来、気が強い方ではないため、目立たないように人生を生きてきた男となっています。

奥さんを愛しているし家族も愛しているのですが、決して威厳があるわけではありません。

ですが、大学の教授というポジションにおり、家庭内も明らかに上級な部類に属しているのがわかります。

家には、洒落た絵が飾られていますし、家族で劇をみにいったりと、教養と文化とお金のある家で生活しているのです。

曲がりなりにも、終身教授として学校に所属していることからも、ただの冴えないおじさんというだけではありません。

少なくとも、彼は、恵まれていない生活を送っている人物ではなく、ただただ、シマウマの群れのように、目立たないように生きていれば十分な男だったはずなのですが、ある日、色々な他人の夢に、自分が存在している、ということを知るにつれて、人生が狂っていくのです。

何もしない男

ニコラス・ケイジ演じるポールは、人々の夢の中に登場しますが、決して何もしません。

困っている人がいても、何もしないで、立っていたり、去っていってしまうのです。

やがて、彼が夢に出てくる人物だというのが広がるにつれて、夢に出てくる男とは何者なのか、ということで話題となり、ポールの存在は、目立ってきてしまうのです。

本作品が恐ろしいのは、今まで誰にも見向きもされなかったような男が、偶然にも、有名になってしまったことで起きる悲劇を描ているのですが、彼を利用する人物たちが、やがて、彼自身の無力感や怒りに火をつけてしまうのも、恐ろしいところです。

利用する人々

「あなたが夢にでてくること、記事に書いてもいいかしら」

昔付き合っていた女性に偶然声をかけられたポールは、浮足立ってしまいます。

特にモテたことがあるわけでもなく、奥さんだけを愛していた男です。

とはいえ、悪い気がしないのも、男の悪い性といえるでしょう。
でも、彼に声をかけてくる女性たちは、ポールを人ではなく、自分の都合のいいものとしてしか利用してきません。

広告代理店のようなことをしているエージェントの、若くてキレイな女性に、一緒に飲みに誘われるニコラス・ケイジ。

戸惑いながらも彼女の家についていく彼は、女性にとあることを要求されます。

戸惑うポールですが、据え膳喰わねばなんとやら、で断れない雰囲気が発生してしまいます。

ですが、思わぬ失態をしてしまいます。

そもそも、悪いことができるような男ではないのです。

しかし、そこから彼の人生は再び一転します。

自分を利用する人間への怒りなのか、最大のチャンスをものにできない不甲斐ない自分自身に対しての怒りなのかはわかりませんが、突然、持ち上げて落としていく世間などへの強烈な怒りを覚えるのです。

有名税は、昔よりも増税メェ~

おじさんの暴力

ポール自身のせいかはどうかははっきりわかりませんが、夢の中で、ただ何もしなかったポールは、夢の中で狂暴化します。

夢の中の出来事であり、ポール自身が何かしたわけでもないのに、今までちやほやしていた人たちは、あっという間に彼の元から去っていき、やがて、攻撃を始めてくるのは、SNSの発達した現代社会の闇そのものといえるでしょう。

彼の家に侵入してきて、包丁をつきつけてくるものもいれば、生徒たちは、彼の授業をボイコット。

しまいには、彼が店で食事をしているだけで、店員から「不安になるお客様がいるので、帰ってもらえませんか」といわれる始末。

自分からは何もしていないはずのポールが人気ものから一転して、恐怖の対象となってしまうのです。

勿論、本人は何もしていません。

意味もわからず有名になり、勝手に突き落とされるのです。

しかし、一度目立ってしまったシマウマは、当然、群れの中に戻ることはできません。

キャンセルカルチャーの恐ろしさ

近年においては、キャンセルカルチャーが当たり前となってしまっています。

現在の倫理観からはずれたことが公になってしまったとき、一瞬にして、有名人はその地位から引き下ろされてしまいます。

勿論、やってはいけないことをやっていたからこそではあるのですが、その影響があらゆるものに及ぶというのが、キャンセルカルチャーの恐ろしい側面だったりします。

一度有名になってしまったポールは、一度は、オバマ元大統領にも会えるかもしれないというところまで話を出されながら、簡単に見放されてしまいます。

一応、彼の夢は最終的に叶うことにはなるのですが、今までの生き方はできなくなってしまいます。

映画「ドリーム・シナリオ」は、たんなる面白くて不思議な話かと思いきや、場合によっては、誰しもがそのようになってしまうかもしれない恐怖を内在している作品だからこそ、鑑賞後には、どこか、もやもやが残ってしまう作品となっています。


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