2分間ループは短すぎる。映画「リバー、流れないでよ」
公 開:2023年
監 督:山口 惇太
上映時間:86分
ジャンル:ループ/コメディ
いわゆるループものの作品は数多く存在していますが、そのループする長さというのはまちまちです。
死ぬとループするものもあれば、特定の日時になるとループするものもありますし、一定時間になると問答無用で戻ってしまうものもありますね。
1日単位でループするなんていうのは非常にわかりやすい例ですが、映画「リバー、流れないでよ」は、なんと2分間をループする作品となっています。
13時56分から58分の2分間をひたすら繰り返すのですが、あまりに短すぎるので、登場人物たちは混乱しているのが面白いです。
「熱燗が鍋の中に戻っちゃうんです。熱くもなくて」
設定を知っている観客からすればい、それはそうだろう、っていうところがまず笑えます。
ただ、あまりに短いループなので、登場人物たちは、自分がループしていることになかなか気づきません。
「頭を洗っても洗っても、泡が残るんだよ」
お風呂で頭を洗ってる人なんて悲惨です。
物語の前半戦は、そんな感じで、雑炊がいつまでも減らない人とか、ループがなかなか理解できない料理長とか、そんなコメディ感を楽しむことができます。
ループ×複数人
本作品の内容として斬新なのは、ループしている人間の意識が、複数人で継続している、という点でしょうか。
たいていは、主人公や一部の人だけで記憶が継続し、まわりとの時間のズレに絶望し、時にそれを事件解決のために利用する、なんていうところがループものの醍醐味でもあります。
しかし、「リバー、流れないでよ」は、京都の貴船という非常に限られた地域の人たちが、全員ループするという体裁をとっています。
集団でループしていたら、それは、たんに空間に閉じ込められているだけな気もするのですが、繰り返し続ける時間の檻から、どのようにして逃げるのか、というのが、面白い点だったりします。
「時間がループしても、僕らの意識は継続しているということです。ケンカでもしてしまうと、その感情はあとのループまで、ずーっと残ってしまいます」
集団で監禁されるような作品だとわかりやすいですが、とにかく、もめごとを起こしたり、自分勝手な行動をしたりする人物がいると、困るわけですが、ループとなると、超常現象過ぎるので、いよいよ収拾がつかなくなってきます。
にもかかわらず、ケンカは始まるし、痴話げんかははじまるしで、あとになるほどぐしゃぐしゃになっていきます。
ループ×旅館
ループものの多くは、個人的なものが大半です。
どういうことかといいますと、自分または、自分の仲間だけが、ループから脱出すればいいのであって、まわりのことはさほど気にする必要はありません。
ですが、「リバー、流れないでよ」は、旅館の従業員が主役となっているので、状況が異なります。
そう、お店の人は、まず、お客さんの安全を第一に考えなければならないのです。
ホテルで火災が起きた時とかでも、ホテルマンはまずお客さんを優先して逃がしてくれるでしょうし、飛行機でもなんでも、まずはお客さんです。
ですが、ループしてしまっていたら、これはどう対応するのがいいのでしょうか。
「お客さんが混乱されているから、落ち着かせてあげて」
自分達だって意味がわからないのに、やはり、お客様を第一にする。
まさに、日本的です。
この日本的な対応も、含めて、コメディ的な面白さがあります。
ループ×コメディ
ループとコメディ、というのは、思った以上に相性がいいことを本作は教えてくれます。
ちなみに、同じようなコメディ×ループものでいいますと、「MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」は、圧倒的に面白い作品となっています。
あまりに仕事が大変で、毎週同じように仕事に追われているせいで、一週間単位でループしているのにまず、登場人物が気づきません。
とある動作を印象づけることによって、自分がループしていることにようやく気付いてゆき、っていうところが始まりとなっています。
どうすればループから抜けられるのか、という点が、個人的な問題にフォーカスしたときに面白さがこれでもかと描かれています。
「リバー、流れないでよ」を気に入った方で、まだご覧になっていない方は、必ず気に入る作品だと思います。
また、バカリズムが脚本をしている「ブラッシュアップライフ」もまた、ループものとコメディの作品として白眉の出来となっています。
「ブラッシュアップライフ」は、生まれたときから人生をやり直すというのが面白い点になっていまして、正確には、いわゆるSF的なループものというわけではないのですが、生まれ変わったらオオアリクイになるのが嫌で、同じ人生をやり直す、というものになっています。
ループものというのは、戻り方の時間の幅によっても、その表現の仕方が変わってくる、という点でも、様々なアプローチがあることを教えてくれます。
ループ×俗な人たち
あと、「リバー、流れないでよ」にでてくる登場人物は、良くも悪くも俗な人たち、というのも面白い点です。
ループもので有名、且つ古典的な作品の一つとして「恋はデ・ジャヴ」なんかがありますけれど、ビル・マーレイ演じる主人公は、非常に嫌みな男でしたが、ループを繰り返すたびに、いい奴になっていたりします。
それ以外のループものだと、「パーム・スプリングス」では、登場人物が気が遠くなるくらい長い時間ループする中で、唯一継続できる知識を積み重ねていき、最後には、ループからの脱出方法を自分で編み出す、というのも胸があつくなる展開でした。
本作品においても、それぞれ、ループしているような日常生活の中で、ぼんやりと生きてきた登場人物たちが、自分の中にあるものを吐き出すことで、一致団結していくのですが、基本的に、彼らは、ループによって、超人のような精神になったりはしません。
2分で戻るんだからと、障子のふすまに穴をあけてみたり、人を刺してみたりしてどんどんおかしくなっていき、しまいには、「ループの原因わたしのせいかも」と始まります。
彼らはループによって、少しだけ前向きになれたかもしれませんが、基本的には、俗なところがいいのです。
彼らは特別な人間ではなくて、いたって普通の人たちなのです。
ループが終わっても人生は続きますし、ましてや、仕事は終わりません。
これからも彼らの日常や、我々の日常はループしているみたいに進むかもしれませんが、そんな中でも、悪いことばかりではないことを教えてくれるからこそ、憎めない面白さがあるのかもしれません。
また、低予算な映画なのだろうということが伝わってくるのですが、工夫と勢いでそれをあまり感じさせない演出や脚本もいい感じです。
ループものだから天気は変わらないはずなのに、ロケの最中に雪が降ってきたんだな、という苦労が垣間見えるところだったりします。
(世界線が云々と言っていますが、どういうループなんだろうか、とつっこみを入れたくなります。でも、そこも良いのです)
ちなみに、乃木坂48がお好きな方がいると申し訳ないのですが、とあるキャラクターが、ループのキーパーソンとなるのですが、実に小憎らしくて素晴らしい演技をしてくれています。
浮世離れしている感じが実によくでているので、それが最後に、めちゃくちゃ手作りのものに乗っていくところも含めて、色々つっこみを入れたくなるものの、貴船にいってみたいな、と思わせてくれるのが「リバー、流れないでよ」という作品になっています。