『ソーリー・エンジェル』レビュー【未確認映画解放同盟】7/10-7/16出町座で上映!
7/10-7/16出町座にて、「未確認映画開放同盟」第1弾として『ナイフ・プラス・ハート』『ライト・オブ・マイライフ』『ソーリー・エンジェル』の3作品が上映されます!
映画チア部が紹介する3作品目はこちらです!
『ソーリー・エンジェル』
2018年/フランス/R15+/132分
英題:Sorry Angel 原題:Plaire, Aimer et Courir vite
監督・脚本:クリストフ・オノレ
出演:ヴァンサン・ラコスト、ピエール・ドゥラドンシャン、ドゥニ・ポダリデス
あらすじ
1993年、パリに住む35歳の作家ジャックはエイズを患っており、まだ40歳にもなっていなかったが、人生最良の時は既に過ぎ去ってしまったと感じていた。そんな中、ジャックは仕事でブルターニュ地方の小さな町、レンヌを訪れる。そこで映画館に入ったジャックは、野心家で知的な22歳の学生アルチュールと出会い、彼らは互いに惹かれ合うが、アルチュールはナディーヌという女子学生とも関係を持っていた。パリに戻ったジャックの元には、エイズで衰弱していた元恋人マルコの訃報が届き、またジャックの容態も徐々に悪化していた。
イントロダクション
第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品。
「カイエ・デュ・シネマ」誌をはじめとする様々な雑誌に批評を寄せながら、カンヌ国際映画祭で好評を博した『パリの中で』(2006)、『愛のうた、パリ』(2007)などを手がけたクリストフ・オノレによる注目作。
90年代初頭のエイズ危機を背景とした本作の主演を務めたのは、『湖の見知らぬ男』(2013)のピエール・ドゥラドンシャンと、『アマンダと僕』(2018)の好演が記憶に新しいヴァンサン・ラコスト。
フランスのみならず、ポーランドやロシア、チェチェンなど世界的に強まるホモフォビアの波を受け制作された本作は、カンヌ国際映画祭のみならず、多くの映画祭での評価を得ている。
オノレの最新作『今宵、212号室で』(2019)は6/19より全国公開中。
レビュー
この映画を観終わって最初に抱いた感想は「なんだか暗くて憂鬱」だった。メインビジュアルはジャックとアルチュールが笑いながら楽しそうに踊っているシーンだが、これは2時間弱ある映画の中でもっともハッピーな瞬間が切り取られたものである。フランスでは1980年代に同性愛者間におけるエイズの猛威が報告され、同性愛者たちは「ゲイ・キャンサー」や「ホモ病」などと呼ばれていた。差別を恐れた同性愛者たちは、感染を無視したり隠蔽せざるをえなかったという。1990年代に入ると、ロバン・カンピヨ監督『BPM』の題材としても扱われた、エイズを政治的社会問題であると訴える「アクト・アップ」のムーブメントが起こる。カンピヨ監督は『BPM』制作にあたり「HIVに感染した孤独な男の話ではなく、アクティビストグループの集団の力に焦点を当てたかった」と述べている。一方で、クリストフ・オノレ監督の『ソーリー・エンジェル』は、カンピヨ監督の言葉を引用すると「一人の男の孤独」に焦点が当てられた作品だと私は思っている。ジャックの周りを取り巻く主な登場人物は、バイセクシュアルのアルチュールや、ゲイの友人マチュー、息子のルル、ルルの母親のイザベルといったように、セクシャル・マイノリティの当事者と家族である。彼らは同性愛者で、エイズ感染者であるジャックに対する理解があり、また作中においてジャックやアルチュールに差別的な発言をする他者は描かれていない。(アルチュールの恋人だったナディーヌも、事実上浮気されていたにも関わらず、彼のセクシュアリティを理解し、受け入れようとしている)しかし友人や家族といった親密で狭い人間関係しか描かれていないことでかえって、そのほかの他者、社会からは彼が疎外されていることが暗に示されている。また視覚的効果として、一貫した青白いトーンの色彩が、ジャックにまとわりつく孤独で憂鬱な雰囲気や、彼の悲愴感漂う表情を際立たせている。
『ソーリー・エンジェル』の中で私が印象に残っているのは、映画館で隣の席に座ったジャックとアルチュールの横顔が、スクリーンに映る青を背景にして後ろから撮影されているシーンである。画質も昔の映画みたいになっていて(気のせいかもしれない)、特にアルチュールのパチパチと瞬きをするたびに上下するまつげに釘付けになった。この二人の横顔のクローズアップは、ジャックの容態を心配したアルチュールがパリを訪れる劇中後半において、今度はセーヌ川の青をバックに同じ構図で撮られている。スクリーンに映る青や、セーヌ川の青、バスルームのタイルの青など、やはりこの映画では青色が象徴的に用いられている気がする。また彼らが初めて会った日の晩、二人は劇場の前で落ち合う約束をし、図らずもアルチュールはジャックの後をつけることになるが、二人がパリで再会するときは、逆にジャックがアルチュールの後をひっそりとつけていたという反復も面白い。
アルチュールを演じたヴァンサン・ラコストは「1990年代エイズは本当にタブー視されていて、同性愛は汚れたものだと思われていた。ゆえにエイズ感染者を尊重するようになるまでの道のりは長かった」とインタビューで述べている。『ソーリー・エンジェル』はオノレ監督自身の経験を下敷きとした作品であり、彼が若い頃に恋したゲイのアーティストを含む、90年代にエイズで亡くなったすべての人々へのトリビュートである。(丘澤)
『ソーリー・エンジェル』上映スケジュール@出町座 2020/7/10(金)〜7/16(木) 7/10(金)~7/11(土)19:00(~21:15終)
7/12(日)20:05(~22:20終)
7/13(月)~7/16(木)15:00(~17:15終)
*7/16(木)で終映。
https://demachiza.com/movies/6869
あらすじ:丘澤絢音
イントロ:阿部真佑
レビュー:丘澤絢音