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『北風だったり、太陽だったり』『プレイヤーズ・トーク』森岡龍監督へのインタビュー

映画チア部の(かず)です。
今回は、『北風だったり、太陽だったり』『プレイヤーズ・トーク』の森岡龍監督に取材をさせていただきました。

 
―『北風だったり、太陽だったり』の製作経緯を教えてください
 
個人的に一昨年の年末に結婚したのですが、コロナ禍でいろんな人に報告できなかったものですから、映画を通して結婚報告できたらいいなという思いがありました。あと、「結婚をする」という過程それ自体が結構ドラマチックだなと思っていて、結婚にまつわる物語を作れないだろうかという思いもありました。それで、結婚報告に行くロードムービーになりました。同時に、役者さんやミュージシャンのような仕事の方たちが、たった1つの失敗によって表舞台から退くような状況が昔からあると思うんですけど、近年それが、より厳しくなっている気がしています。もちろん、罪は償わなきゃいけないと思うんです。でも、僕自身も役者として活動していく上で、この問題は無縁じゃないし、「自分だったらどうしよう」とか、そういったことを考えることも少なくなく、このようなモヤモヤとした気持ちが作品につながりました。


―今回は、お笑い芸人の話だったのはなぜですか?

最初は自分の書きやすい「俳優」を考えたんですけど。やっぱりこう、結婚報告のために面会に行くところが一番エモーショナルになるので、コンビだったり、相方だったり、「お笑い芸人」のコンビにした方が、より劇的になるかなというところで「芸人」にしました。


―本編でコンビの解散のシーンがないことに理由はありますか?

活躍している時代を回想シーンで書こうかなとも思ったんですけど、人が思い出す瞬間って輝かしい頃より、実はうまくいかない汗水流してる1コマだったりするのかなと思っています。



―ストーリーの重要な場面で、大事なことを言い忘れるシーンがありますが狙いはありますか?

僕にとってそれは人生の真理っていうか、 意外と人生ってそういうもんじゃないかと思っています。例えば、重要な局面で寝坊しちゃったりとか。人間って結構そういうあっけないミスをしたり、それを1番重要なときにするんですよね。そういうものに真実味があると思っていて、僕は映画の中でそれが見たかったんです。どうしても行きたかったパーティーに、やっとたどり着いたんだけど、たどり着いた時には疲れ果てて寝てしまって、起きたらパーティーが終わってる、みたいなことを、僕は何度か経験しています。でも、そういう瞬間が映画で立ち上がったときこそ感動するんです。パーティーに行って楽しめた話じゃなくて、すごく行きたかったものや、欲しいものを得たのに、ポケットに穴が開いちゃってて失うみたいな瞬間の方が人生って感じがする。多分、「お葬式とかで悲しい顔をしなきゃいけない」とか、「集合写真で笑わなきゃいけない」といった、形式的だったり段取り的だったりする美しさが苦手なんですよね。なんでピースしなきゃいけないんだろう?とか思います。楽しいときに普通の顔しててもいいじゃないですか。つまんなさそうに写真に写ってるやつの方がよっぽど雄弁だったりすることがあるんですよね。そこに豊かさを感じるんですよ。


―『北風だったり、太陽だったり』のストーリーの中で、社会的な風刺を感じる場面をいくつか見つけたんですが何か意識されましたか?

はい、意識しました。みなさんもそうだと思うのですが、コロナ禍で僕も苦しかったし、政府の対応だとか、社会に対するフラストレーションみたいなものはどうしても感じていました。それがプロパガンダ的な映画になるのは独りよがりな気もしていて、あくまで映画はエンターテイメントなんだけど、その中に何か社会と繋がるものがあった方が良いなという思いはありました。なので、そういう成熟したものにトライしたい意識はありました。僕には子供がいるのですが、この先、この国で子育てをしていく不安とか、そういうリアルな感情を無視したくなかったんです。世の中には常に光と影みたいなものがあると思っていて、その暗い影の1つが政治的な問題です。『北風だったり、太陽だったり』では、金井が刑務所に入るきっかけになった事件については具体的に描いてないんです。それを描いてしまうと、金井が“良い人”か“悪い人”の2択に迫られてしまうと思ったので、事件の詳細は描かなかったです。



―『北風だったり、太陽だったり』の脚本できてから撮るまで1週間だったそうですね。

そうです。急遽決まって、本当に最初の一行目を書いてからクランクインまで1週間しかなくて、急ごしらえで書きました。刑務所の漫才のネタは、前日に書いて当日になってから俳優陣に配って、「こういうネタにしよう」って打ち合わせをしてやりました。ロケ地も急遽決まりました。最初の集合場所が決まったのは前日の夕方で、「明日ここ集合です」みたいな感じでした。だから、もう本当に撮りながら次の現場を探してっていうのをやっていました。撮影隊がロードムービーのような感じでした。刑務所のシーンの撮影は、刑務所のセットがあるスタジオを借りて撮りました。今回の撮影は基本的に脚本通りなんですが、銭湯のシーンはオリジナルの脚本にはなかったんです。最初は刑務所の前という設定だったのですが、良いロケ地が見つからず。なので、銭湯の脱衣所に変えました。スタジオの1階が銭湯で2階が刑務所になっていたので。なにしろ1週間しかなかったので、持てる武器を全部使っていこうという感じでした


―次は『プレイヤーズ・トーク』についてお聞きします。私が知らない芸能界のセクハラやパワハラなどの話が描かれていますが、森岡さんが聞いた話や、あるいは体験した話を参考にしたのですか?


それは両方です。風の噂で聞いたこともあれば、実際に同じ業界の仲間と話すこともありました。ニュースで見たことも参考にしています。例えば、ワークショップです。 僕はワークショップのことをあまり詳しくは知らなくて、若い役者さんは演技の勉強のために行くべきだと思うんですけど、一部ではワークショップ自体が変なお金稼ぎやセクハラの場になっているというのは聞いたことがあります。ワークショップがそのような構造になりやすいことにも危機感を持っています。あとは、日本のコンプライアンス研修とか、“女優”ではなく“役者”って呼ばなきゃいけない、みたいなことは、実際にニュースとかSNSで流れてくる中で、僕もどうしようっていうのは考えます。最近では、作品に入る前にコンプライアンス研修とか受けなきゃいけなくて、業界が変わりつつある今だからこそ、僕たちの身の振り方みたいなのを同業の仲間ともよく話します。なので、普段から話すようなことや、抱えている問題を作品にした感じです。3つ目の『Private Lesson』は、芸能界のオーディションとか、やっぱり政治的にキャスティングなどが決まっていくのを感じているころもあります。そういう風刺も入れたかったんです。4本目の『ART FOR THE FUTURE』は、とにかくぶちまけるみたいな感じでしたね。あれは全部セリフ通りに撮っています。作品を作る際に事務所から若い俳優さんの売り込みがあったりしますけど、連れてくる人が「ちょっとどうなんだろう?」って人もいたりする。こっちは真摯に取り組んでいる俳優を探しているのに、話を聞いてみると、何も作品を見てないし、ちゃんと考えてない人も中にはいるから。それをかなりデフォルメはしてますけどね。


― 『Private Lesson』では、年上の女優さんと若手の方が話してる中で、若手の方がフルネームで呼ばれている場面があるのですが、業界ではよく見られる光景ですか?

あの場面では、近くに映画監督がいる状況なので、女優さんが自分の後輩を売り込んであげようとフルネームで呼んでいます。下の名前だけだと、他の人にインプットされなかったりするかもしれない。つまり、自分たちの会話を他の席に敢えて聞かせているのです。こういうことは、業界の人が集う場とかだとたまにある光景です。同じ店で業界のお偉いさんと、若手俳優がそれぞれ別のテーブルについているんだけど、「どこかでうっすら意識してる」みたいな。映画では、フルネームでわざわざアピールして覚えてもらおうとしていますが、実際はあそこまでやる人は少ないかもしれません。ただ、この業界って正攻法がない。不意に道端で出会ったことが、次のキャスティングに繋がったり、仕事に繋がったりっていうことがある。だから、業界の人が集う場で、ああいう売り込み方をしている状況も、なきにしもあらずかなっていう感じはしますね。



―最後に学生に関する質問を2つさせていただきます。森岡さんが学生の時に影響を受けた作品や、学生におすすめの作品などをお聞きしたいです。

えっとー、いっぱいあるんですけど。学生時代は、ひたすら映画を見てました。監督に絞ってみたり、80年代や90年代など、1つの時代に絞ってみたり、闇雲にいろんな映画を見るんじゃなくて、その映画のルーツを考えながら見たりとか。時代背景や文脈を含めて映画を見ていくと、より知識が深まるとは思いますね。おすすめの映画はどうなんだろう。映画って130年ぐらいの歴史があるから、新作も見つつ旧作とかクラシックも見ていくといいと思います。今、劇場やってる新作映画も見ながら、成瀬巳喜男などのクラシック映画も見る。 新旧どっちも見ていく見方をするとすごく勉強になります。


―学生に対するメッセージをいただけますと嬉しいです

今はコロナを経て、日本に対してすごく不穏なムードを感じるんですよね。闇バイトのような強盗事件のニュースだとか、本当にここ日本ですか?みたいな事件が相次いでいて、多分すごく生きづらいんですよね。今は生きづらいんだけど、それはもうあなたのせいじゃないから。本当にここまで下がっちゃったら、もうあとは上がっていく一方だろうって思っています。その状況を脱するために、粘り強く耐え忍ぶしかないかなと思ってる。すごく重たいメッセージになっちゃったんですけど、好きなこと見つけたり、それが映画でもいいし、音楽でもいいんだけど。好きなものをちょっとでも見つけて、あんまり悲観的にならずに、日々穏やかに過ごしてくれればいいなとも思います。まあ、映画を見てもらえれば、その時間はやっぱり日常を忘れられたりもするから、映画館に飛び込んでみるのも良いと思います。日々の不満を映画にぶつけたり、現実逃避してみるのも1つの手かもしれません。


森岡龍監督

『北風だったり、太陽だったり』は結婚報告に向かうお笑い芸人のロードムービーで、『プレイヤーズ・トーク』は社会的な問題を風刺にした作品です。コロナ禍に溜まった鬱憤や、日頃の不満を劇場で笑いに変えるのはいかがでしょう。どちらの作品も面白いです。でも、どうも晴れない気持ちが残っています。どうすることもできない不安を突き付けられた気分です。他人の問題は関係ないことだと思っていても、どこかで関係しているかもしれません。ただ、気付かないとまずいかもしれません。

京阪神の公開情報は以下の通りです。

・元町映画館:8/4(金) (※1日のみのイベント上映
8/4は森岡龍監督の舞台挨拶があります。

・アップリンク京都:8/4(金)~
8/5は森岡龍監督と宮部純子さんの舞台挨拶があります。

・シアターセブン:8/5(土)~
8/5は森岡龍監督と東田頼雄さんの舞台挨拶があります。


◇上映時間などは、各映画館のホームページをご覧ください。


執筆:映画チア部神戸 (かず)

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