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『逆光』監督・主演 須藤蓮さん&脚本 渡辺あやさんインタビュー(前編)

こんにちは!
映画チア部大阪支部の(かんな・なつめ)です。

4月16日から大阪・九条のシネ・ヌーヴォにて『逆光』の上映が始まります。
この映画は1970年代の尾道を舞台にした自主制作映画であり、須藤蓮さん初監督作品です。

東京から全国に広がっていくという従来の日本映画の配給形態とは異なり、舞台である尾道から上映が始まり全国に広がっていった『逆光』が、ついに大阪に上陸!ということで、監督であり主演を務められた須藤蓮さんと脚本の渡辺あやさんにインタビューをさせていただきました!

沢山お話ししてくださったので、前編と後編に分けてお届けします!
『逆光』を観る前でも観た後でも是非両方読んでいただけると幸いです!

前編では『逆光』以前のお二人やお二人の関係性に迫っています!

(聞き手:かんな・なつめ)

チア部:お二人の出会いについて教えてください。

渡辺さん:3年前に放送されたNHK京都局制作ドラマ『ワンダーウォール』の脚本を書いたんですけど、それに出てくる学生5人のキャストをオーディションで決めることになり、そのオーディションに来ていたのが須藤くんでした。3,000人ぐらい応募があって、1日100人ペースで300人の最終面接をして、最終的に残った5人のうちの1人という。

須藤さん:そう、最初はそれで知り合ったんですよね。

僕は元々渡辺あやさんのことを知っていたわけではなくて、ただ作品が面白そうだったのでオーディションに行ったんですよ。でも、企画書の中で脚本家の名前が押されていることは、不思議に思いました。『火の魚』(2009)がイタリアで賞を獲ったと書いてあったのを覚えてます。どんな人なんだろうなぁって思ってました。

『ワンダーウォール 劇場版』(2019)


チア部:どうして一緒に自主制作映画を作ることになったのですか?

須藤さん:そうですね~話すとめちゃくちゃ長くなりそうなんですけど、何がきっかけですかね?

渡辺さん:『ワンダーウォール』が実在する古い学生寮の存廃問題をモチーフにしているだけに、ドラマを書いて「はい、終わり」みたいには気持ちが離れなくて、なんとか寮が残るように応援できないかと制作者側は考え続けてました。

その後ドラマは劇場版になって、そのタイミングでインタビューをしてもらうことで話題にしてもらったりより色々な人に知ってもらえるかな、少しでも力になれたらなと思ったりしていました。

ドラマが終わった後は制作者側も転勤とかでバラバラになっていたんですけど、私が出張で東京に行くタイミングで集まって色々話をするっていうのがドラマの後も割とありました。それで、その話し合いに毎回(須藤さんが)いるんですよ(笑)
俳優さんっていうのは1つの作品が終わったらまた次の現場が始まるので普通だったらいないはずなのに、なんかいるなって思って。彼は学生寮に対する気持ちがあったみたいで参加したい!っていつも話し合いの中にいるので、自然と顔をあわせる機会も多くなりました。

そうこうしているうちに、実は脚本を書いてるんだとか自主映画を撮ったことがあるんだとかぼそぼそ言い出して。それで、ですかね。脚本を見て欲しいって言われて、スマホでぺぺって書いたような適当なのが送られてきて、なんだこれはって厳しいことも返していくうちに、何となく脚本のようなものができあがりました。それでこれから監督を探すんだって言ってるから、自分で撮ればいいじゃないって言ったことがきっかけですね。

須藤さん:なんともまとまった素晴らしい話ですね(笑)

渡辺さん:それで、俺撮るわって。
でもそのときの私は(須藤さんの)映画監督としての才能は知らないので、本人がやりたいって言ってるし、自主映画でお金も自分たちで出すわけだから誰に迷惑をかけるわけでもないし、まあやってみればいいかなって。失敗したら失敗したで、失敗したね~って言えばいいだけのことかなって。
それで撮ってみたら案外良いのが撮れたから、意外と才能があったんだ!って、多分私が一番びっくりしてます(笑)最初は全く信用してなかったんですよね。

須藤さん:うん。でもまあ、現場入るまでは自分も自分のこと信用してなかったですからね。

渡辺さん:そう。自分で信用してないから。任せてくれみたいなことも言わないし…。

須藤さん:僕は徹底的に自分を信用してないんですよね。

渡辺さん:うん。自分に自信がない人だから。

須藤さん:25年生きてきて自分にもできることはないか色々試してみた結果、ほとんどできないってことがわかってきました(笑)

そんな中でも自分にやれることは、何かを実現させること、役者さんの芝居を見ること、適材適所人を配置すること。そのやれることを『逆光』ではやりました。周りの関わっている人たちに才能があったので、それがすごく良い形で出たのが『逆光』だったかなと思います。

チア部:最初に脚本を出した段階で、既に『逆光』のような感じだったのですか?

須藤さん:最初は、「大学生が自転車で旅して、何もなく帰ってくる」みたいなめっちゃつまらない脚本を書いて見せました。
そしたら「こうすれば」とか「ここがだめ」とか、脚本の中身については明確なことすら言ってもらえず、作り手としての心構えに関して叱責されました。

スマホで3日くらいで書いたようなものだったことを自慢げに話して、痛い目を見たんです(笑)

3日で書こうが1年かけて書こうが、その中身にしか議論の余地はないと今でこそわかるんですけど、当時は3日で書いたことに価値を置いていました。そういうことぐらいしか想像がつかなかったんです。創作においてちゃんと怒られて、ちゃんとへこんだ初めての経験でした。

でも、それも一応撮って完成はさせてるんですよ。監督ではなくて、出演しながら撮るみたいなのをやってて。それは『オンリー・ユー』っていう映画で、ぴあの一次選考にも通らなかったんですけど、一応作って見せてはいたんですよね。

その前に、今回『逆光』の撮影監督やってくれてる人と組んでその人に監督をしてもらって、自主映画を7本くらい撮ってたんだけど、その頃からものを作ることは好きでした。

あやさんの手を最初に借りたのは『逆光』とは全然違う『blue rondo』という映画でした。その作品は撮影に向けて準備していたんですけど、コロナで撮れなくなっちゃって。それでコロナ禍でも撮影可能な他の企画を立ち上げようと、書いてもらったのが『逆光』でした。


チア部:お互いの第一印象と今の印象を教えてください。

渡辺さん:私はオーディションで初めて彼を見たんですけど、そのときの芝居をすごく覚えてます。
ドラマの中のキューピーとマサラっていう2人の登場人物がこたつのある部屋で会話をするっていうシーンをオーディションで使ってそれぞれ芝居をしてもらったんですけど、彼が先にこたつで寝ている方をやるときのこたつでの寝方が印象的でした。それは私もそうだったし、ディレクターもそうだったと思います。本当にその場に居ようとしている人の居方っていうか。

オーディションで1日100人くらいの芝居を見ていると、型でやろうとする人とか台詞をはっきり言うことが大事って思ってる人とか、いかに自分の個性を出すか頑張ってる人とかが多いんですよ。
だけど彼のそのこたつの寝方を見たときに、ああ彼は本当にこたつで寝ているこの役の気持ちになろうとしているんだって、見ててわかりました。そういうことを大事にしている人なんだなって思いました。オーディションで選んだ人たちはみんなそうだったんですけど。

どういう役者の芝居が好きかっていうのは人によって違うので、もっと台詞をはっきり言う方が良いって言う制作者もいっぱいいるんですけど、私と『ワンダーウォール』のチームは割とそうではなく、自然な方が好きだったっていう。NHKチームは普段ドラマではなくドキュメンタリーをやっている人たちだったので、あまり芝居芝居しているよりもリアリティを大事にしたかったと思うんですよ。
だから割と満場一致で、芝居の上手い下手ではなくて、リアリティを求めている姿勢をみんな好きになったっていう感じですね。

須藤さん:懐かしいですね~。

今でこそ芝居が下手なのがばれてるのであまり言わないようにしているんですけど、あの頃芝居をすごく勉強してて、本気で芝居をしていた時期でした。そういう芝居って日本だとできる場がないってことに気がついて、それで今場を作る方に回ってるみたいなところがあるんですけど、求められてないんですよね。でも『ワンダーウォール』では最初からそういう芝居を求めてくれる人たちに出会えた場所っていうイメージがありました。

芝居と演技って全然違うんですよ。芝居は「居る」って書くように、そこにただ存在しているのが芝居で、演技は「技術」的なもので。だから、芝居ができれば、芝居さえできれば良いって思うくらい、「居る」ということは難しくて。

オーディションの時は、寝っ転がりながら自分の家にある絨毯の毛を想像することで体が馴染む、自分にとって安心する場を立ち上げるっていうメソッドを使ってました。そういうことを目指していました、当時は。ただ、それがいかに日本の現場でできないか、求められていないかっていうことをいつの間にか痛感してしまい、気づけば忘れてましたね。そういえば。

あやさんの第一印象は、紅一点だったのもあって、存在感がすごかったですね。ちょっと神秘的な空気感がありました。なんか道着っぽい服を着ていて、すごい印象に残ってます。台本には渡辺あやさんの名前がはっきり書いてあったから、誰が誰かすぐにわかって、へえこの人が脚本を書いてるんだって。どういう風に芝居を見てるのかを見てました。

渡辺さん:へえ~。
あ、なんか笑ってたよね?

須藤さん:はい。僕全然人の演技は見てなくて、反応を見てました。あ~見てんなぁって思いながら見てました。

渡辺さん:5人くらいがいっぺんに入ってきて、端から順番に出てきてもらってそれぞれの役をやってもらうんですけど、普通だったら脚本を見たり他の人の演技を見たりしているのに、彼は1人でクスクス笑ってるんですよ(笑)
すごい変な人、面白い子だなって。

須藤さん:初めてちゃんと芝居ができる人ばっかりいるオーディションに行ったから、目の前でやってる芝居も今まで見てきたものとは違いました。まあ脚本が面白いから芝居のクオリティーも必然的に上がるんですけど。それを見てるのがまず楽しかったし、それを見てる作り手の表情が真剣そのもので、でも別に無駄な緊張感はない、すごい良い雰囲気のオーディションでした。この人たちは何を求めて見てるんだろうなっていうのを見てましたね。もうその時点で、向こう側に座ってる人たちのことは好きでした。後にも先にもそんなことはなかなかないです。「この人たちと仕事がしたい」っていう気持ちになりました。キャラがみんな立ってて、面白かったですよ。

今の印象は、初めて会ったときとは変わらないですね。

渡辺さん:最初の印象というか一緒に現場をやってた印象は、すごく強いエネルギーが、出所がなくて体の中で暴れてるっていう感じでした。そのエネルギーが正しく出てきたら、とんでもないところまで行くんじゃないかっていう予感があったんですよ。でも、どこからそのエネルギーが出てきてどこへ行くのかは全くわからない、ただ何となくそんな感じがあったので、色々な方向からつついてみてました。

映画監督をやるって自分で見つけてきたときに、道がピタッと整ってそこにエネルギーが出ていったんだろうなあと、この3年間彼を見てきて感じますね。だからすごく納得してるというか、あああのとき彼に感じていた渦巻きのようなものはこれだったのかと思ってます。

須藤さん:印象の変化というと...。めちゃくちゃ生意気なことを言ってもいいですか?

渡辺さん:どうぞどうぞ。

須藤さん:最初に出会ったときは、やっぱり自分は作り手でもないし向こうは大御所なので憧れるじゃないですか。書いた作品全部面白いし周りの大人からも尊敬されてるし、こういう作り方をしたいなっていう純粋さも保ってるし。

だから、どういう魔法を使えばこうなるんだっていうことを3年かけて勉強しようとしていたと思うんですよ。

最初は言ってることすら理解できなかったし何の話をしているのかもわからなかったのが、話していることがわかるようになって、遊んでそうなってるわけじゃないってこともわかるようになって。

鵜呑みにする以外の学び方がないところから、変化はしました。変化しようとしてます、今。
ただ真似するだけじゃなくて、自分なりを探そうとしてます。

2年間くらいは、この人が正しいと思ったらずっと正しいだったんですけど、そうじゃなくなってきました。

それはでも別に尊敬しなくなったとかではなくて、過度な憧憬みたいなものが正しい尊敬になったというか。実際に一緒にものを作るってなると、過度な憧憬を抱いていると無理が出てくるんですよ。そこを乗り越えねばという感じです。

だから、印象は変わってないですかね。ずっと(渡辺さんは)すごいし。自分が変化しなきゃなって。

渡辺さん:昔面白い話を聞いたことがあるんですけど。絵をどう描いていいかわからない子ども、絵を描くのが嫌いなこどもに、例えばゴッホの絵を丸々描き写させてみると、1つ言葉を覚えるみたいな、表現の1つを覚えるみたいな感じで、どんどん表現ができるようになっていくらしいんです。1回型を学んでから、やっとオリジナルを作れるようになるという。

そんな感じで彼は本能的に、それまで彼の周りに1人もいなかったクリエイターという人たちに『ワンダーウォール』で出会って、まずはとりあえず作り手の在り方のようなものの完コピしようとしたと思うんですよ。

そんな期間が1年くらいあって。でもそれだけだとただ真似をしているだけの人になってしまうとわかったから、じゃあ自分はその型を持って何をやろうかと考え出してやり出したのかなって気がします。

須藤さん:そうですね。うん、本当にそうだと思います。


チア部:そうすると、お二人の関係性は変わってきましたか?

須藤さん:関係性はやっぱり変わってきますね。一緒にものを作るってなると。

渡辺さん:そうだね。最近はどんどん何でも自分で決めていっちゃうし。これからもっともっとそうなっていくと思います。

須藤さん:聞かないと安心できなかったんですよ。自分の決断に自信を持てなかったというか。

でもある時期から、本当は自分で決められるのに聞くようになって。それは多分わからないんじゃなくて、安心したくて聞くようになってたんですよね。そこからそれがすごくストレスになってしまって、もうそのやり方が体に合わなくなったんだなと。

本当にわからなくて純粋に聞いていた時期と、癖みたいに安心するために聞いていた時期って全然違くて。ここ1年くらいはその時期を抜け出さなきゃなと思って、ようやく抜けてきたかなって感じです。

渡辺さん:聞かれるから意見を言うのに、自分が思ってるのと違ってると怒ったりするんですよ(笑)知らんし!自分で決めればいいじゃん!みたいな(笑)で、もう聞かなくなりましたね。

私はやりたいようにやってほしいんですよ。私の考えてることより彼の考えてることの方が断然面白い可能性だってあるわけだし、私は私の見えている範囲のことしか答えられないから。

須藤さん:先生って、絶対答えを知ってると思い込んでるじゃないですか。だけど先生もわからないことをやり出したっていう感じかな。

今までは先生のわかることをやって答えを聞いて、それを会得していけば良かったけど、ある日から先生もわからないけど何となくそうかもしれないぐらいの難易度のことをやらなきゃいけなくなってきて、そうなってくると、自分の感覚以外に結論を出せなくなってしまって。しかも自分は監督だし。そうすると、聞くというのがただの甘えになってきてしまって。

そこが一番変わったところですかね。

だけど今でも、「優れた感覚を持った人」という意味で、やはり意見はたくさん聞きます。
あやさんって、自分が普段面白くないと切り捨てているところにある可能性を見つけてくれるんですよ。

だからいったん意見を聞いて、「え~なんかそれ微妙」って思っても、やってみたら全然微妙じゃなかったこととか結構沢山あって。

それこそ恵文社のイベント(注記:3月21日に京都の恵文社一乗寺店で開催された「一日限りの『逆光』展」)も最初はあまり良いと思えなかったんですけど、年齢も性別も違うあやさんの意見を頼りにやってみたら上手くいったので、見えてるものが違うんだなあと改めて思って…勉強ですね。

だから、関係性は日々変化しているって感じです。

ものを作ってる時と配給活動をしてる時も違いますよ。
ものを作ってる時の方が怖いって思ってます。映画作ってる時の方が緊張してます。

緊張してた方が、良いんですよ。

写真右が須藤蓮さん、左が渡辺あやさん


インタビューは(後編)に続きます!
後編はこちらから👇



『逆光』
2021年/日本/62分
監督・出演:須藤蓮
脚本:渡辺あや
撮影:須藤しぐま
音楽:大友良英
出演:中崎敏、富山えり子、木越明、SO-RI、三村和敬、衣緒菜、河本清順、松寺千恵美

4月16日(土)から大阪・九条のシネ・ヌーヴォにて公開!

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