リム・カーワイ監督『ディス・マジック・モーメント』1月6日(土)上映後舞台挨拶ルポ📝@シネ・ヌーヴォ
大阪を拠点に、香港、中国、バルカン半島などで映画を製作し、どこにも属さず彷徨う"シネマドリフター(映画流れ者)"を自称する映画監督リム・カーワイの劇場公開10作目の作品である『ディス・マジック・モーメント』は、全国22館のミニシアターを監督自身がインタビュアーとなって巡る、監督初のドキュメンタリー映画作品。
コロナ禍のミニシアターを行脚したロードムービー映画『あなたの微笑み』に出演するミニシアターをはじめ、本作では九州・沖縄から北海道まで地方のさまざまなミニシアターが登場します。
それぞれの映画館の来歴やその背後にある、映画館で働く人々の実生活が見えてくる…家族経営、兼業映画館、市民がつくる映画館、文化財として観光名所になった映画館…一言にミニシアターとは言っても、各館ごとに異なるバックグラウンドを持っています。📽️
本作はそれぞれのミニシアターを一括りにすることなく、側に寄り添い、個性を尊重するような温かみを感じました。
また、今では解体されてしまった沖縄・首里劇場や、2022年8月に発生した火災で全焼してしまった後の福岡・小倉昭和館を記録した、貴重な資料でもあります。
前置きが長くなりましたが、今回は大阪のシネ・ヌーヴォ(作品では最後に登場します)での初回上映後舞台挨拶イベントの模様をお届けします!
当日は補助席あり満席のなか、会場は大盛況でした!
イベントに参加できなかった方も参加された方もぜひ、ご一読いただきたいです😌
文責:さや
リム監督:皆さん、まず明けましておめでとうございます(笑)今年もよろしくお願いします。
今日は本当にたくさんご来場いただき、満席になりまして、僕も正直驚いています(笑)というのも、この作品は日本の劇場で公開された10作品目になるんですけど、映画祭で上映される場合は満席になることも多いんですが、劇場初日に満席になるのは実は初めてなんです。
会場:(拍手)
リム監督:ありがとうございます。満席になるのは夢のような話で、この映画を上映することによって皆さんと出会えたことに感謝しているし、まずシネ・ヌーヴォさんに感謝しますね。もしシネ・ヌーヴォがなかったら、僕は今どこにいるかわからない(笑)もしかしたら映画を撮っていないかもしれないし、あるいはマレーシア料理屋をやっているかもしれない(笑)
会場:(大きな笑いが起こる)
リム監督:この映画は2022年に撮った映画です。前年の2021年に劇映画『あなたの微笑み』を撮りまして、沖縄の首里劇場からスタートして北海道の大黒座まで、売れない映画監督が全国を転々と回って劇場に自分の映画を上映してくださいと売りに行くロードムービー(首里劇場、別府ブルーバード劇場、大黒座、豊岡劇場など7つの劇場を回った)なんですが、2年前完成したときに首里劇場の金城さんに会いに行こうとしてたんですよね。その前日に金城さんが亡くなったというニュースを見てショックを受けて。さらにその後、豊岡劇場の閉館のニュース(その後閉館ではなく「休館」となり、現在は再開している)、サツゲキの経営母体が変わるという出来事、加えて8月末に小倉昭和館が火災で焼失してしまって、本当に『あなたの微笑み』という映画が呪われているんじゃないかって…(笑)
会場:(笑い)
リム監督:でも小倉昭和館は昨年の12月19日に復活しました。もちろん豊岡劇場もいま元気にやっている。残念ながら首里劇場は昨年の10月くらいに解体されて、今世の中に存在していないんですよね、更地になっていて。要するに、良いことも悪いこともあったりするんですが、『あなたの微笑み』という映画を撮り終わってから、ミニシアターの状況は改善されていないし、映画の上映環境もますます難しくなっていく中、閉館になったり、無くなってしまうニュースを見ると心が痛くなるし、撮影を通して保存したいという気持ちがあるんですよね。その時、テアトル梅田の閉館が決まったというニュースも流れていて、ものすごくショックを受けましたね。
やっぱりどうしても劇場を訪ねて、話を聞いたり、記録として残したいなという気持ちが強くなって。こういうミニシアターという文化があって、僕のような映画監督や自主映画監督を育てられるんじゃないかと思うんですよね。映画を上映する場所があるわけですよ。今国際映画祭で注目、あるいは巨匠とみなされている日本の若い世代の映画監督たちも皆んなほとんど映画祭で作品が上映される前に、話題を呼ぶ前に、地道にミニシアターで作品を上映されたりするんですよね。
要するにミニシアターがあって、そしてミニシアターに映画を見に行く観客がいて、土壌ができたから、映画を撮り続けて、今世界で有名になったわけで。だからコロナ禍に濱口竜介監督と深田晃司監督もクラウドファウンディングを呼びかけて、短期間中に3億円以上が集まって、全国のミニシアターに寄付され、コロナ禍の一番大変な時期を劇場たちが乗り越えたわけですよね。彼ら(監督たち)がなぜそういうことを行ったか、そしてなぜたくさんの募金が集まったかというと、ミニシアターの重要性があり、ミニシアターに通った人がいるからそういうことができるわけです。もちろんその後も色々とありましたが、ミニシアター(の運営)という問題はコロナ禍の前からあると感じていて、特に地方の劇場はコロナの前に大変だったのじゃないかと思っていたんですよね。だから、そういう地方の状況を取材したり、たくさんの人に知ってもらいたいなと思っていて、それがこの映画を作った理由にもなっています。
東京でヒットした映画でも、地方のミニシアターでは人が入らないこともしばしばで、興行として成り立たない中、取材している様子からも皆んな決して暗くないんですよ。この映画を見たらわかると思うんですけど、皆んな結構元気ですよね。明るいですよね。いろんな理由が考えられると思うんですけど、映画しかない人生、あるいはどうしても映画を上映したい、映画なしには生きられない人々かもしれないし、あるいは実際彼らの人生、生活の一部分となっていて、それはこの映画の最後の別府ブルーバード劇場や大黒座の(館長・支配人が)映画館を閉めていくという動きからも感じてくれると思うんですけど、もはや生活の一部分となっている。実はそれに僕は感動しているんですよね。大阪の場合はまた違う状況かもしれないですけど、東京のミニシアターは結構盛んになっていて、劇場もたくさんあってお客さんもいっぱい入ったりするんですけど、そういう状況はやっぱり地方と全然違うんですよね。
また、ミニシアター文化を支える女性たちのパワーをたくさん感じています。世界最年長の支配人、別府ブルーバード劇場の岡村照さん(今年93歳)はたぶんちょうど今(舞台挨拶時22時ごろ)、どんどん電気を消していって、扉を閉めて、エレベーターを降りて、(映画館を)閉めていく作業をやっているところじゃないかと思います(笑)
会場:(笑い)
リム監督:たぶん朝起きて映画館を開けるのも彼女だし、閉めるのも彼女。完全に人生の一部となっている。僕が今回この映画を撮った理由の一つは、なるべくたくさんの人に、もっとたくさんの劇場の状況を知ってもらいたいからという形でまとめられます。この映画はミニシアターの現状だけでなく、地方で映画に携わっているたくさんの人々の生活あるいは話も色々見えてくるんじゃないかと思います。タイトルは『ディス・マジック・モーメント』ですが、魔法にかけられている人々の話でもあるかなと思っていて。私もそうですけど、皆さんもそうじゃないかと。魔法にかかっていて、映画を見ることをやめられないし、たぶん劇場をやることもやめられないんじゃないかと思うんですよね。いくら大変で、ビジネスとして成り立たなくても。これからどうなるかわからないですけど、僕は映画館はずっとあるものだと思っているし、映画館に来る人もいっぱいいるんじゃないかと信じています。
ありがとうございました。
会場:(拍手)
リム監督:せっかくですので、質問があればぜひ。
質問者1:日本中にミニシアターがたくさんある中で、作品に登場する映画館を選んだ理由はあるのでしょうか?
リム監督:そうですね、確かミニシアターは100館以上あると思うのですが、やっぱり100館巡るのは物理的にも予算的にも難しいと思っていて、せめて50館くらい巡れると思っていたんですよ。ですが、映画を撮るには予算が必要で、この映画を撮るにあたってAFF2という日本政府がコロナ禍に苦しんでいるアーティストたちを応援するために設立した助成金を得て撮影することができたんですが、それが下りたのが2022年の9月頭くらいでちょうどテアトル梅田が閉館する1ヶ月前でした。その助成金の条件の一つは「年内に作品を完成させ、1回目の試写を行う」でした。
会場:(笑い)
リム監督:クランクインしたのはテアトル梅田が閉館する2日前、9月29日で、どう考えても50館巡るのはあり得ないじゃないかと思って、色々と逆算して25館くらいが巡れるんじゃないかと考えたんですが、最終的には22館しか巡れなくて。実はシネ・ヌーヴォはその年(2022年内)に撮りたかったんですが、スケジュールが合わなくて最後(2023年)に撮ることになりました。
助成金が下りてからすぐに撮影準備に入って、構成として「誰もいない劇場の中で、支配人(や館長、代表)と僕が座りながら話すのを撮影する」というスタイルがあって。誰もいない劇場で各館30分ほどインタビューを撮るということは、やっぱり営業時間外にしかできなくて、そうすると劇場のスケジュールとか都合もあって。それでも1ヶ月半くらいで22館巡るというのは奇跡に近いですけど、都合上で訪ねられなかった劇場があったり…実際、広島や四国の劇場には巡れなかった。
つまり、どういう理由でこの22館に決まったかというと、劇場のスケジュールと、(移動する)ルートです。まず九州に行って、九州のミニシアターを巡る。北陸に行って、北陸のミニシアターを巡るといった、ルートに則って取材する劇場を決めていった形です。ある理由でこの劇場にした、といったことは全く無くて、完全に撮影上の都合です。
質問者1:ありがとうございました。このシネ・ヌーヴォで、シネ・ヌーヴォが映っているスクリーンを見るという体験ができて、とても嬉しく思いました。
会場:(拍手)
リム監督:この映画は昨年11月にイメージ・フォーラムで上映されてたんですが、この映画に出ていなかったから、この映画に出てくる劇場で最初にこの映画を上映したのは今日が初めてですよね。世界初めてです。昨年復活した小倉昭和館でも上映されたんですが、更地から復活した新しい劇場なのでまた全然違う体験だったと思いますし、本当に同じ席、同じ天井の下で見るのは今日初めてですよね。だから、今日見た人には、僕にとっても、劇場にとっても、みなさんにとってもきっと良いことがあると信じています!(笑)
会場:(笑いと拍手が巻き起こる)
質問者2:最後のシネ・ヌーヴォでは景山代表が出ておられましたが、どうして山崎支配人は出ていなかったのですか?
会場:(笑い)
リム監督:今ご来場されている方の中にも山崎さんのファンがたくさんいらっしゃると思うのですが、僕も山崎さんのファンで、最初は山崎さんに取材しようと思っていたのですが出てくれなかったんですよね…(笑)
山崎支配人:ではちょっと私からお話しできればと思います(笑)リム監督から出演のご依頼を頂いてたんですけど、その時にミニシアターの状況がすごく厳しくて、この後何か対策を立てないといけないという、本当にそのことに夢中で。何か話したとしても、暗いことしか話せないという風に思ったんですね。それで、私は出演ができなくて…ということでした(笑)
リム監督:でもさっき決まったんですけど、来週の金曜日(1月12日)の上映回後に僕と景山さんと山崎さんで対談することになりました!もし、どうしても山崎さんの話が聞きたかったら、もう一回ぜひご来場ください(笑)
リム監督:でも実際、撮影したとき景山さん自身も悩みを抱えていた時ですよね。ちょうどヌーヴォさんが大変な時期にあって、映画を見たらわかると思うんですけど景山さんもすごく疲れていたんですよね(笑)
会場:(笑い)
山崎支配人:私も撮影直後に景山さんのシーンの映像を見せてもらったんですけど、もっと暗いのかなと思ったら意外とちゃんと話しているなと思って(笑)
リム監督:うまく編集しましたので(笑)
会場:(大きな笑い)
リム監督:大阪も厳しい状況で。でも地方ももっと大変です。それでもやっぱり、皆さん諦めてないですよね。これからの時代、映画を上映するだけでは難しいんじゃないかと感じていて、貸し館にしたり、イベントを上演したり、カフェやドーナツを売っても良いかもしれないですけど、なんか他のことをやらないと、おそらく限界になるというか…クラウドファウンディングでお金を集めるということは、ずっと続けていく中の一つの方法ではないですよね。映画を見る人が減っていくという現実をちゃんと受け止めないといけないと思います。そうしたら、どうすればいいか。やっぱり地方では劇場は文化施設として交流する場ですよね。文化を知る場所、シネコンでは上映されない世界中の作品を地方のミニシアターでは上映する可能性があるわけです。地方にいても、世界の情勢に関する映画を見ることができるし、言葉が違っても色んな人の話を知る機会になっているわけです。だから本当に、無くしてはいけない存在だと思っています。存続には映画を上映するだけではない、色々な方法がある、色々な可能性があるんじゃないかと僕は思っています。
写真撮影時のお写真はリム・カーワイ監督がXに投稿されていました!🔽
リム・カーワイ監督『ディス・マジック・モーメント』は大阪のシネ・ヌーヴォのまさに撮影されたスクリーンにて1月12日(金)まで毎日上映されています!
また、舞台挨拶で発表があった通り、1月12日(金)の上映後には、リム・カーワイ監督とシネ・ヌーヴォの景山理代表、山崎紀子支配人との対談が開催されます!
※1月13日(土)以降はシネ・ヌーヴォXにて上映が予定されています。
ぜひ、シネ・ヌーヴォでスクリーンに映るシネ・ヌーヴォを見て、映画の後にシネ・ヌーヴォについての話を聞くという体験をしてみてはいかがでしょうか??
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また、リム・カーワイ監督の劇映画『すべて、至るところにある』はシネ・ヌーヴォで3月中旬に公開予定です!
現在前売り券を窓口で販売しているので、ぜひこちらも🎦
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