◯新作篇005 『スウィング・キッズ』
(監督:カン・ヒョンチョル/韓国/2018年)
3/15(日)@立川シネマシティ
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会社の先輩の勧めで見ました。
映画でこれほど「音」を楽しんだのはいつ以来だろう。
洗濯にも、炊事にも、他人のビンボゆすりにさえもリズムを感じてしまうロ・ギスの気持ち、
この映画をみれば痛いほど分かるはずです。
そして、「クソ イデオロギー」がいかに「クソ」かということも。
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監督のカン・ヒョンチョルさんは済州島の出身だそうです。
私は東洋史は明るくないのですが、
済州島は歴史的に見て、非常に境界的な立ち位置にあったようです。(※1)
そういう、監督の生まれ育った地の持つバックボーンが影響しているのかは分かりませんが、
この映画の主人公たち、まさに境界人です。
自由主義も、共産主義も、性差も、肌や目の色も、アカもキイロも超越して、同じリズムを刻む。
このリズムの前には、どんなイデオロギー、ナショナリズムも勝つことはできない。
収容所の所長も非常に寛大で柔軟な発想の持ち主だと、
途中までは本当にそう思って見ていました。
でも……
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とかく、「歴史」とは勝者のそれであり、
人間らしい営みは、暴力の前にいとも簡単に壊される。
たぶん、人間が人間である限り、その呪縛からは逃れられないのだ。
だからこそ、僕たちはその事実を認識しなければならない。
彼らは後世語られるような存在では決してなかったのだ。
それを知るのは今や、ジャクソン一人になってしまった。
だがそれは、あの世界では、の話。
鑑賞者たる僕らは、あのリズムとともに、
人間の弱さと残虐さとを、脳細胞に刻み込もうではありませんか。
Shall we tap dance?
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(※1)高橋公明「海域世界の交流と境界人」(『日本の歴史14 周縁から見た中世日本』〈講談社学術文庫〉所収)。