ほおずきさん三題噺 第十七回

お題「ピーターパン、地下鉄、大晦日」

去年の大晦日のこと。


「あら、これからお買い物ですか?」

「そやな。ママのお遣いやんな」

「いつも親子仲良しですねぇ。うちのにも見習ろてほしいわ」


明日は待ちに待ったお正月。ぼくは錦市場までお遣いを頼まれた。ぼくが買うのは出来合のお節。ママにはできないものか、作るのが面倒なものらしい。買い物のリストと今日までの期限のスパの招待券を握りしめて私鉄から地下鉄を乗り継いで四条までやってきた。ぼくは電車も好きだけど、こんな雑踏も大好きなんだ。いろんな人が観察できるから。

ぼくが改札を抜けるとき、赤いランプが光って「ピンポン」って音が鳴る。これも好きなんだ。なんだか特別感があるから。それはぼくの切符には「小」って書いてあるからだってことももちろん知ってる。


「奥さんとこはもうお正月の準備はできはったの?」

「うちはまだよ。最後の追い込み。足りないものの買い物に行かせたの」

「さっきご主人とぼくに会ったわよ。どこまでお買い物?」

「そりゃ錦市場よ」

「遠くまで行くんやねぇ」

「ああいうとこが好きなんよ。奥さんとこは?」

「うちはまぁ、テキトーやしねぇ。今年はデパートにお節頼んじゃった。お掃除もルンバ任せだし」

「いいねぇ。うちはほとんど自分で作るんよ。できんものだけ買い物するの」

「そら大変やねぇ」


買い物を済ませて、ぼくはスパに行った。ぼくは銭湯も大好きなんだ。昼間だけど今日は混んでる。全種類のお風呂を回ってから一番大きな浴槽に入ってると知らないおっちゃんたちも次々と入ってくる。股間にぶら下がってるのは色も大きさもいろいろあっておもしろいんだ。アラブの王様みたいなおっちゃんのは爆発的に凄いけど、ぼくのもなかなかイケてると思う。


「あら、ウチの子どこ行ったんやろ。もうあの子ったら冬休みに入って、いっ時もジッとしてないんやから」

「ウチのと公園行ったんやない?」

「え?そやの?」

「クリスマス、お正月と続くから子どもも落ち着かんのよね。それで近づいてくる思うたらお年玉のことやし」

「どこもそんなもんやねぇ」


スパを出て帰りの電車の改札を入ると「ピンポン」と鳴った。駅員さんが近づいてきてぼくは腕を掴まれて案内所に連れて行かれた。

「あんた、常習犯やな」

「ぼく悪いことなんて何もしてへんで」

「何言うてんの。ええ大人が」


お向かいのご主人は「ピーターパン症候群」とのことやった。大人になりたくない大人なんやそう。それからというもの男の人が奥さんらしき人に「ママ」と呼びかける度に私は「ドキッ」とするんやけど・・・

「私、病気でしょうか」

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