IT is my friend・・・? 24

 24、反撃

 管理室に自転車ごと乗り付けた。

「おお、またワイルドなご帰還ですね」

「ああ、任せといてくれ。えっと、パソコンとバッテリを繋いだらいいんですよね。ケーブルください」

山田さんがケーブルを投げて寄越した。なんだ山田さんのパソコンっすか。クラッシックなもん持ってますね。

「OSはバージョンアップしてるけどハードはほとんど触ってない。だけど今でもしっかり動くんだ。こういう時役に立つ」

「こういう時ね。あの、骨董品で申し訳ないんですけど、ケーブル切断しますよ」

「なんだって?それは困るよ。もう代替品ないんだ」

「でもそうしないと繋げないんです。直流(DC)と交流(AC)の違いはご存知ですよね」

「あ、そっか。じゃ変換器の手前からプッツリか。でもそれじゃ長さが足りない・・・あ、そうか」

ポリスが先ほど引きちぎったモニターのケーブルを振っている。

「何でも役に立つもんだ。さっきのレプノイドも何かの役に立つんじゃないのか?」

「あれに用はないですよ。これからの手順を教えてください」


 「そうだな。今、電力の移行が行われてる。これから何度か停電することになるが、その都度ここから停電前に動いているものすべてを安全な状態に置くようにされる。はずだ。“R”が処理するわけだからこれはあまり期待はできないけどな」

「それはいくら何でもするでしょう。予備電源に切り替わるまではほんの数秒、それでも道路から磁気が消えるのは命取りです。あまりにも酷すぎる」

さすがポリスらしい意見だ。

「だけど告知せずに停電したらすべて一瞬ダウンして大量の死者が出るだろ。やつらには一石二鳥じゃないのか?」

「まぁ、その辺は臨機応変に対応できるようにしておこう。幸いなことに一瞬電源が落ちるだけでもコンピュータは再起動が必要になる。その数秒間で全てが決まる」

「今3人がかりでウィルスを書いた。至極軽いバイナリなんだが大量に送信するから普通にやったらすぐに察知される。そこでその停電の間に送信する。ウィルスは普通のメッセージ形式だが着信するとすぐに発症するようにした。いつか流行った『ホウセンカ』っていうウィルスを応用した。送信されたウィルスは停電の間宙を彷徨ってるんだが、停電から回復すると即座にコンピュータに到達して発症するというわけだ」

「どんなウィルスなんですか?」

「それは成功したら教えてやるよ。山田のノートサーバーからこの管理室のコンピュータにも届く」

「これからいつ来てもいいようにスタンバイしといてくれ」

いよいよ緊張が高まってくる。


 「ノートの方は準備できた。ケーブル頼むぞ」

「はい。すぐに」

工具箱からニッパを取り、山田さんのノートのケーブルをちょん切った。

山田さんの顔をチラッと見やると、なんとも情けない顔をしている。

それから銅線を剥き出しにしてモニターから取ったケーブルと繋いだ。ショートしないように2本のケーブルをビニールテープで巻いた。それを自転車のバッテリに繋ぐ。不細工だがちゃんとしたDC電源供給装置だ。

「ポリス君。君が自転車に乗ってくれたまえ」

「え?私がですか?」

「軽くこいだら最大の電力が発生する。停電になったらでいいんだけど告知が来ない可能性もあるし、軽くこいどいて。息が上がらない程度に」

「じゃ始めます」

軽くペダルを踏み込むとノートのディスプレイが明るく光った。

「よし順調だ。そのまんま軽くでいいから」

「30分で交代してくださいよ。いくら何でも・・・」

「じゃ1時間で」

「はい。思惑通りです」

「やられたな。ポリス、交渉うまいな」

「いいか、これからまた“R”に繋ぐぞ」

吉田さんが右手を挙げて宣言した。

「OKです」


 情報がどんどん更新される。被害は爆発的に拡大している。ほんの半日の間に5万人近い人命が失われた。停電の告知がなかったらおそらくもっと被害は拡大するだろう。既に歴史的にも未曽有の出来事になってしまった。


 ついにその時はやってきた。

停電。

おれが踏んでる時だった。

山田さんのノートからウィルスが世界中にばら撒かれた。ほんの10秒ほどの間のことだ。

管理室のコンピュータには停電復旧後、コンピュータが立ち上がるとすぐに着信した。

「よし、“R“のプログラムを見てみよう」

『世界民は平和の下、自由で平等な暮らしを何人も傷つくことなく安定的に享受できるよう努める』

「わかった。《なんびとも傷つくことなく》って一文を挿入したんですね」

「そういうこと。これで“R“はこれに逆らえない。次に先方はどう出るか」

「まだ終わりじゃないんですか?」

「まだ始まったばっかりだ」

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