IT is my friend・・・? 25

 25、綾香の捜索

 朝になっていた。

「おれ、ちょっと席を外させてもらっていいっすか。失踪事件で気になることがあるんで自転車でシティの北部地区に行きたいんですよ」

「ああ、いいよ。ヤンの店だな。くれぐれも気をつけて行ってこい」

「はい。じゃ行ってきます。リングは置いていきます。しばらくこの世から消えます」

 自転車を再び地上に持ち出した。ボックスエリアを見ると例の持ち主不明のボックスはもうなかった。エリアの隅にはレプノイドがうつ伏せで転がっている。目と耳を失うとレプノイドでさえこれだけのダメージを受けるんだ。両耳に突き立っているドライバーを引き抜いて自転車の鍵に突き刺した。

 ここから北部地区までは30kmほどある。力の限りペダルを踏み込んだ。先ほどの心地よかった風が音を立てて過ぎる疾風になった。そういえばシティの真ん中から北の方にはほとんど足を向けたことがなかった。このあたりは役人用の豪華な集合住宅がどこまでも連なっている。なんて役人が多いんだ。

30kmは苦もない距離だった。

「ヤンの店」の隣のカフェに自転車を停めて中に入りコーヒーをオーダーした。

「ちょっとすみません。一番近い地下鉄の駅はどこですか?」

「この道を左に100mほどのとこだよ。北B246駅がある」

「ありがとう。近々この辺で保線工事があったって話は聞かないですか」

「いや、知らないなぁ。あんまりメトロには乗らないんだ」

地下鉄はもちろん無料だがボックスの普及で利用者は少ない。昨日から地下鉄も“R”の統治下に入ったはずだ。

コーヒーを飲み終えて「ヤンの店」の前に立った。確かに出入りした形跡がある。ノブを握ってみるがビクともしない。地下鉄の駅のホームに下りた。カメラが客の動向を見張っている。ここから保線通路に降りて行くのは至難だ。諦めようとしたその時、停電が起きた。柵を飛び越えて通路を走った。100mほどのところに扉を見つけた。取手にグッと力を入れると難なく開いた。どうせここに来るのはレプノイドの保線作業員くらいしかいないからセキュリティが甘いのだろう。しかし地図には何もなかったはずだ。

 「どうか綾香、無事でいてくれ」そう願いながら空間を眺めた。コンクリートとペンキのグレー。色はそれしかない。グレーの階段をなるべく音を立てないように上がっていく。一つ目の踊り場にグレーのドアが付いている。さらに上には二つの踊り場があったが、何もない。一つ目の踊り場に戻ってドアを開くと中は真っ暗だ。どれだけの奥行きがあるのかもわからない。ポケットの中のドライバーをグッと握りしめる。中に入ってしばらく目を閉じる。それから目を開けると、暗闇の中に何かの輪郭だけは見えるようになった。

やはりここには懐中電灯は必須だ。

こんなところろに人はいるだろうか、そう思いながら壁を手で擦りつつ進んだ。ここは迷路か。何度か角を曲がった先に明かりが漏れているところがある。奥に部屋があるようだ。その前まで来て中の様子を伺ってみる。ブーンというコンプレッサのような音と風が吹き出すような音がする。

ゆっくりドアノブに手をかけてゆっくり回した。なんだセキュリティゆるゆるだ。アクリルのカーテンが天井からぶら下がっている。それをめくって中に入った。さらにエアカーテン、それを通る。

 「な、なんなんだ」

何かが直径3mほどもある丸いアクリルプールに浮かんでいる。弱い光がその容器から発せられて、部屋をぼんやり照らしている。隅には四角い箱がある。何やら台のようなもの、壁も天井も床もすべてステンレスだ。そしてプールの上の天井だけがゆらゆらと波を映して動いていた。

アクリル容器に顔を近づけてみると中のモノはどうやら生物だったようだ。身体中に毛はなく真っ白だ。

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