POLICE in 2117 3-18

 3-18、相手を知る

 23階、地域安全課の西住宅地域に井澤の家はなかった。25階、北住宅地域担当に出向く。シティの端から10分ほどのところに井澤の家はあった。4キューブで家族は3人。しかし、おそらく実際に住んでいるのは井澤1人だろう。キューブは3月の下旬に少しシティから離されている。これで確定だ。おそらく不満タラタラなんだろうと想像がつく。

特捜班のコクーンに入るのは久しぶりだ。こんなことがあっただろうか。壁紙に由莉奈の写真を大量に追加してスライド表示させた。一番新しい論文を目の前のディスプレイに表示させて論文に挑む。読み解くのは大変だ。コーヒーを注文した。論文10本に目を通したあたりで結論が飛躍しているものが多いことに気づいた。本人だけが納得している感じだ。読み進めていくうちにさらに気づいたことがあった。物理にしろ化学にしろそもそも経済的利益を目的としているようには見受けられないことだ。それは研究の前提としているものが時代の流れに沿っていないことが原因だろう。この度の新繊維がフラッシュに利用できたのもたまたまだった感が強い。

途中で取調べの報告を聞き、明日は特捜班に集まるよう命じて解散を宣言した。それから何杯目かのコーヒーでやっと読了した。

コクーンを出ると梶原が待っていた。

「如何でした?」

「うん。まぁ有り体に言えば面白くなかった」

「ははは、それはそうでしょうね」

「やつの論文は独り善がりのものが多い。これじゃおれだって酷評するよ。おまえも読みたいか?」

「いえ、私は遠慮しておきます。面白いと言われたら読む気になったかもしれませんが」

「はは、よかったな。時間を浪費せずに済んだ」

「犯人は井澤賢介で決まりですね」

「山田さんに聞いたな?」

「はい。検索過程も聞きました。いろんなアプローチがあることを学びました」

「そうか、おまえの成長は恐ろしいな」

「すべてクロードさんのお陰です」

「相変わらず証拠はない。しかし、もう攻めていくしかない」

「そのようです。お供させていただいてよろしいでしょうか」

「もちろんさ。明日だぞ」

「はい。気を引き締めていきます」

「じゃあ、今日は帰ろう」

「はい。お疲れ様でした」


ボックスの中で半分眠ったまま家に着いた。「ただいま」

「遅かったじゃん。疲れた?」

「ああ、今日は本をいっぱい読んだんだ」

「そうなんだ。警察も大変だね。今日は一緒にお風呂はいろ。背中流してあげる」

由莉奈の存在のありがたさが身にしみる。

「由莉奈、ありがとな」

「どうしたの?急に」

「そう言いたくなったんだよ」

「私もクロードには感謝しなきゃ。こんなに幸せもらってるんだもん」

「それはおれも同じだよ。さ、お風呂入ろ」

由莉奈が身体中に泡をたっぷりつけて洗ってくれた。その泡でふたりともキレイになって、そのままベッドで愛し合った。


 翌朝はすっきり目覚めた。

「おはよう、由莉奈。今日はいよいよ今回の事件の主犯と対決なんだ」

「じゃ大切な日ね」

「そうだな。でも今日1日じゃ終わらないよ」

「そうなんだ。まだまだかかるってことね」

「でもいずれ終わる。この件が片付いたら姉のところに行こう」

「プラネタリウムね!やったー」

「由莉奈、キスしてくれ」

由莉奈を抱きしめてキスをした。

「じゃ行ってくる」

「うまくいくよう祈ってる」

「ああ、ありがとう」

特捜班には全員が揃っていた。

「おはよう。今日は今回の事件の主犯のところに行く。だが、逮捕はまだ無理だ」

「これから揺さぶりをかけるんですね」

「そういうことだな。今日は挨拶だ。中に入るのはおれと梶原の2人。あとはすまんが外で待機してくれ」

管理室で井澤の在宅を確認してもらった。

「よし、行こう」

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