IT is my friend・・・? 5
5、自宅
さて、自宅。
ボックスがピットインするとき、磁気が消える瞬間があるんだけどちょっとだけガタガタする。修理依頼しなきゃな。
『Jh5cc653nだけど、ガレージの調子が悪い。格納するときガタつく』
「QP依頼して」
「はい。おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
これは家政婦さん。おれん家、住所は9桁なんだぜ。今はだいたい10桁になってる。もう早期取得者は珍しいんだ。
「QP、今日ね、かわいい女性と知り合ったんだ。もしかするとうまくいくかもしれない。黒髪の日本人」
「レプノイドじゃありませんか?」
「いや、違うと思うんだけど」
「わかりませんよ。最近のはよくできてますから」
「そうかなぁ。最新型は嘘もつけるらしいね、どうやって調べたらいいんだろう」
「切ってみるしかないですよ」
「それはできないよ。まあレプノイドでもいいけどね。君みたいな女性なら」
「まあ、ありがとうございます。ご主人さま」
「今日はもう休んでいいよ。これからビール飲むから」
「はい。ではまた明日。おやすみなさいませ」
「おやすみ」
リビングにはソファとテーブルがあるだけで他にはこれといったものはない。室温は年間を通して26℃、湿度60%に設定してあって快適だ。これの維持は自宅のソーラーですべて賄えてる。
『モーツァルトのK312、リピート』
音楽はなるべく聴いていたいたちだ。はっきりいって何でも構わない。
『ボリューム1ナップ』
いい曲だよな。でも寝るにはまだ早い。動画でも観ようか。
「Lexus phantomは試合やってる?」
「今日はありません」
言い忘れたがドライブボックスはほとんどがLexus製だ。ほとんどと言ったのは、ほんの一握りのリッチな連中はMercedesにオーダーして自分だけのボックスを持っているからだ。
「そうか、何かオススメの動画ある?」
「PPAPという昔の動画がリバイバルで流行っています。画質の劣化レベルは30です」
劣化30ってかなり保存状態がいい。200を超えるとほとんど見えなくなるんだが、100くらいまでならなんとか見れる。
「じゃそれを」
♪i have a pen♫ i have an apple・・・♪
なんだこれ?めちゃおもしろいな。昔はこんなに楽しかったんだ。そんな時代があったんだな。
「画面フィクスにして、さっきの動画もう一回見せてくれ」
壁面に画面フィクスしておかないと、自分の目の前に画像がずっと追いかけてきてうるさいんだ。じっくり画像を見るときはそっちの方がありがたいんだけど。
そうこうしている間に眠ってしまったらしい。
翌日出社するとなんだか様子がおかしい。
「おい、どうしたんだ?」
帰ろうとしている社員に声をかけた。
「オレは今日でおしまいだってよ。随時減らしていくことになったらしい。待遇はこれまでと同じだから、今日から暇との闘いだよ」
「そうなのか。ありがとう」
オフィスのコクーンはそれでも半分くらいは点灯している。
「課長、どうなってるんすか?」
課長はちょっと興奮気味だ。
「ああ、随時解体ってことになった。クロードおまえさん。社に残るのホントにNGか?」
「待遇改善があるなら考えますよ」
「そうか、じゃあ要求してみる。うまくいったら受けてくれよ」
「わかってますよ。でなきゃ課長が残ることになるんでしょ」
「まぁそうズバリと正解を言うもんじゃないよ。私は家族が多いからな」
「何人なんですか?」
「5人だよ。多いだろ?」
「何キューブの家なんですか?」
「6キューブだよ。三回建てでエレベータ付き」
「エレベータはいいですね」
「そうでもないぞ。階段の方が早かったりする」
「ああそうか、階段ないんですよね」
「そりゃあった方がいいけど、居住スペースが減ることになるしな。エレベータを選んじまった」
「エネルギーはどうなんです?」
「それは問題ない。ソーラーだけで動く低消費のやつだから」
「まぁ、家族5人ならかなりの割り当てがありますよね。役員加算もあるし」
「そうだな。おまえさんになら安く売ってやるよ」
「はい。足りなくなったらお願いします。課長は最終日までですよね」
「そうだよ。役員は全員だ。おまえもだろ?『ザ・メッセージ』見てないのか?」
「はい。見逃してますね」
「そうだ、どうして早くから解体始めたのかご存知ですか?」
「いや、今日突然言われたんだ」
何か思惑があるに違いない。急ぎ過ぎだ。社から早く人を減らす理由。電力を節約すること以外には思い当たらない。交通関連の“R”への移行は順調に進行中。これからは交通はすべてコンピュータが握ることになる。続いて電気、通信、水道の順で移行が行われる予定だ。もう人間はどうしようもできなくなる。
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