IT is my friend・・・? 10
10、行方不明者の帰還
ボックスに乗り込んですぐに綾香を呼ぼうと思ったが、一件の着信があった。どうして転送されなかったんだろう。見覚えのない名前だ。
「はい、由莉奈。クロード?」
「ああ、そうだけど」
「覚えてる?コンビニの・・・」
「もちろん覚えてるよ。どう?元気にしてる?」
「前に話した叔父さん。帰ってきたのよ。記憶喪失だけど」
「あ!知ってる。隣町で物乞いしてたんだろ?」
「え?どうして知ってるの?」
「まぁいろいろあるんだ。それで?」
「うん。叔父さん、すごいみすぼらしいカッコで帰ってきたんだけど、すごいクレジット持ってるの」
「ほう。それはおもしろいね」
「それが大変なのよ。どうやって手に入れたか本人は知らないんだもん」
「知らない間の入金か」
「それでどうしたらいいかと思って・・・相談する一番マトモな人がクロードだったってわけ」
「そうか。それは光栄だな。クレジットだったら怪しいもんじゃないよ。どこから入金されたか履歴が追えるはずだよ」
「それが履歴が一切ないの。だから困ってるのよ」
「そんなバカな。誰からかわからない入金なんてありえないよ」
「ホントにそうなのよ」
「わかった。ちょっと行くけど、どこに行ったらいい?誘導してくれる?」
「わかった。コンビニから30分はかかるよ」
「うん。承知してる」
長旅もやっと終わった。由莉奈の家はいかにも農家らしい佇まいをしている。
「やぁ由莉奈。相変わらずかわいいね」
「いきなりの挨拶が凄いのね」
「あ、そうだ。この軽さがモテない原因だった」
「え?モテないんですか?」
「ああモテないよ」
「不思議ぃ。背は高いしイケメンだし一流企業だし、なにか重大な欠陥がある!」
「正解!んなわけないだろ。ごく普通だよ。少なくとも本人はそう思ってる。ヤバいって思ったら言ってくれる?」
「了解!」
「あ、叔父さん。いる?」
「はい。呼んできます」
なんだかリビングまで土の匂いがする。清廉な香りだ。
少し腰をかがめて奥からゆっくりやってきた中年から初老に差し掛かろうかというその男は不安な時間を長く過ごしたせいか、目がキョロキョロと泳いで落ち着かない感じだ。
「初めまして。クロードといいます」
「あ、初めまして。由莉奈の叔父の宗治です」
「その指輪は新しく申請なさったんですか?」
「違うんです。見つかったとき、ポケットに入ってたの」
由莉奈が怪訝な顔で言った。
「ちょっと拝見させてください」
宗治は慣れない手つきで指輪を外した。
「はい、こんなの持ってなかったよ。私のじゃない」
「ずっとそう言うんです。でも確かに叔父のなんです」
「ちょっとスキャンしてみるね」
バーチャルディスプレイを立ち上げて内容を読む。IDは確かに弓山宗治とあるが過去の履歴が全く白紙だ。出生の記録もない。
クレジットも1行目にいきなり『5,000,000cd』とある。それをタップするが表示は何も出てこない。
「ホントだな。おかしい。こんなの初めてみたよ」
「叔父はカジノで勝ったんだって言うんだけど、それだけ記憶があるって変だし」
「叔父さんはどうやって見つかったの?」
「いきなり連絡してきたの」
「何もしないのに?」
「そう。何もしないのに。警察からの連絡もなくいきなり本人からよ」
「宗治さん。どうやって連絡したんですか?」
「ある日、ベンチに座ってたら男が現れて、この写真あんたじゃないかって言ってくれた人があってな。それでその広告に表示されてるとこにフォン繋いでもらったんだよ」
「その男の人に?」
「ああ、そうだよ」
過去の個人広告を探すが該当するものは見当たらない。
「由莉奈さん、ご家族も含めて広告出したりしてないよね」
「そんなことしてないです。高いし、そんなバカなお金は使えない」
「だよな。宗治さん、その男はどんな感じでした?」
「あんただよ。あんたが広告見せてくれたんだ」
「え?オレが?・・・オレにそっくりだったんだ」
「ああ、見かけはあんたそっくりだが声が違う。もっと低い声だった」
「どうやらオレとそっくりなレプノイドがいるらしい」
「どうしてそんなことするの?」
「わからない。だけど叔父さんをこの家に帰したがってるみたいに見える。何があるんだろう。何か目的があるはずだ。そのクレジット、いきなり5,000,000cdも払えるんだからそれなりの組織と考えていいだろう」
「組織なの?」
「親分は個人かもしれないけど、一人じゃできないだろう」
「そうね。ひとりじゃムリね」
「あ、宗治さん。クレジットが入金された心当たりは?」
「ああ、ギャンブルで当てたんだ」
「どこの?」
「エヴァンスってとこだ」
「どうしてその店に?」
「奥から三番目のスロットでフルに賭けて回せって言ってあんたが10クレジット、キャッシュくれたんだ」
「それはその広告のとき?」
「そうだよ。家にフォンしたすぐあとにだ」
「おれに似た男がっていうか、その背後にいるやつが全部仕組んでんな」
「でも叔父が帰ってくることに意味があるとは思えないけど」
「そうだよな。不思議だな。これは宿題にしとく」
「そうね。じゃまた会えるんだ」
「会いたいのか?じゃいつでも連絡してこいよ」
「ほんとに?」
「そうだ、うちの会社見にくるといい。もうすぐ解体なんだ」
「ほんとにいいの?会社に行っても」
「いいよ。おっさんたちが大喜びで迎えてくれる」
明日、迎えに来る約束を取り付けて家に向かう。由莉奈の話と綾香の話はだいたい符合する。でも広告のことはどうなんだろう。あったのか、なかったのか。消されたのか、初めからないのか。それからおれにそっくりなレプノイドがいる。それから、綾香がレプノイドの可能性。これも一応疑わなきゃならない。
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