IT is my friend・・・? 4
4、帰途
人類が昔から実現させようとしてきたことの一つに宇宙探査がある。今ではそんなことをしようなんて奴は一人もいなくなったが、100年くらい前には盛んに莫大な予算を使って研究されてたらしい。
だけど人類は星間旅行はおろか火星にさえ到達できなかった。だいたい遠い惑星に行くのは人体への負荷が大き過ぎた。何が転機になったかというと、有人火星探査だろう。初の惑星探査として期待されたんだが、あえなく15人の乗組員共々宇宙のデブリになってしまった。その頃のロボットの発達はめざましく、人類が危険を冒してまですることではなくなった。ロボットの方がより広範囲に正確な情報を取ってくるんだから、人間の出る幕はなくなったってことだ。
それでも宇宙への思いは捨てがたい。実際に地球周回旅行には行けるし、月にも行ける。だけど費用が高すぎる。エネルギー消費量がとんでもないからな。だからなんだろう。プラネタリウムのこういうアトラクションは凄い人気なんだ。6時間かけて宇宙旅行が体験できる。もちろん無重力だ。っていってもアトラクションの室内と体験用スーツの磁場による擬似無重力なんだけどね。それで十分さ。
帰路について、仕事のことを考えた。山田さんと吉田さんが社に残るというのは分かる気がする。彼らは特別待遇だ。山田さんに至っては社から1分くらいのところに自宅がある。当然、我が社は広大なシティのど真ん中にあるのだから、ほとんどミニスター並だ。
それでいて独身、彼女なし。たぶん・・・。これといった趣味もなくいつもコンピュータを触っている。いったい何をやってるんだろう。
死んでる吉田さんに至っては何もわからない。
コンビニに寄って行こう。コンビニは人と触れ合える貴重な場所だ。バーチャルディスプレイで店内を徘徊して商品を選ぶと生身の人間が品物を持ってきてくれるんだ。だから人気がある。山田さんがよくコンビニを利用するのはそのへんのことがあるからかもしれない。持ってきてくれる人も動画で選べるんだ。
ビールとカロリーメイトを1ダース買った。店員さんはやっぱり日本人の女性。おれ好みの丸顔で・・・まぁこの辺にしておこう。
フライングカートに載せられた品物がボックスのすぐ傍で止まった。その側にかわいい女の子。
「ありがとうございます」
「ああ、ありがとう」
「君は社員?」
「いえ、バイトです」
「そうなんだ。学生さんか」
「はい。アートの勉強してます。お客さん、アルコールパスお持ちなんですね」
「そうだよ。君はまだないよね」
「はい。羨ましい。私もそんな身分に早くなりたいです」
「アートは発展分野だからきっとなれるさ」
「はい。ありがとうございます」
こうやって人との触れ合いも終わる。貴重な体験だ。コンビニのバイトも難しいんだ。ご指名がないと辞めなきゃならないからな。
人と触れ合えるっていえばジムもそうだ。以前は器械だけを相手に自分と格闘するだけの味気ないものだったが、今はトレーナーと、また会員同士が触れ合える場となっている。今度、彼女を誘ってみよう。
自宅まであと1分。自宅の場所は知らない間に入れ替わる。まぁボックスに乗ってれば勝手に家に連れてってくれるんだけど。住宅地はすべてキューブとチューブでできていて繋がったり離れたりできるんだ。
もちろんキューブが居住用で1キューブで一人が十分暮らせる大きさだ。形は統一されているが表面加工や色彩で自宅と分かる。おれの自宅は4キューブの二階建て。動物園みたいだって言われる。つまり野山や草原が描かれてるってこと。住宅は戸建て形式も集合住宅形式もあって自由に選べる。選べないのは地域と大きさだけだ。
リアル動物園は世界に3カ所しかない。その一つが自宅から1時間ほどのところにある。動物の動きは予測できないからおもしろいんだ。
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