ほおずきさん三題噺 第六回

お題【コロンブスの卵・人形・実行犯】

だから実行犯人形なんだよ。それは間違いないところだ。

君が言うように、もしそれが完璧な密室で蟻の這い出る隙間もないとしても、その信憑性は高くなることはあっても低くなることはない。

しかしながら実際はそんな密室なんてないんだけどね。

事件現場のホテルの部屋は13階とはいえ窓は外側に10㎝は開くそうじゃないか。犯行現場に人の出入りがないことが監視カメラによって証明されているのだから、隙間といえばその開いた窓しかないと言っていいだろう。しかし残念だろうがその窓と事件は何の関係もない。

被害者がからくり人形のコレクターとして有名な人物ということだから、犯人がそこに細工をしてくる可能性は高いと考えていい。それに触る機会の多さという点からそうなんだ。

今回犯行に使われたその人形というのは一度寝かせて、それから立てると顔が鬼の形相になり舌を突き出すというものだから、そこに針が飛び出す仕掛けを組み込むなんて容易いことだ。それもたいした威力は必要ない。針が少しだけ肌に刺されば目的は達せられる。

さて、この犯行の面白いところは犯人自身も成功を確信していない点なんだ。

第一に針が上手く刺さるかどうか分からない。服に刺されば何も起きない。

第二に被害者がアナフィラキシーショックを起こすかどうかも未知数。ただ、その要素は十分にあったんだけどね。実際にそれが死因だろう。検視をすれば小さい傷が見つかるはずだよ。また部屋か衣服をくまなく探せばごく小さい針も見つかるはずだ。それは複数かもしれない。

さらに第三点。それがいつどこで起きるか、犯人にも分からないということ。一時間後なのか、一日後か、はたまた一週間後かもしれない。いつ被害者が人形のからくりを作動させるかは専ら被害者に任されていた。犯人はその時、そこに居合わせなければそれでよかったんだ。それがたまたまホテルの一室という最大級の密室で起きてしまったから、ますます解明を難しくしてしまった訳なんだけどね。もし被害者が人前でそれを作動させていたら、すぐに救助されていただろう。だけどそれはレアなケースだと言っていい。被害者はコレクターだ。それが本当に上手く作動するかどうかは、まず一人でいる時に確かめてみるはずだからね。コレクターとはそういうものさ。犯人が果たしてそこまで考えていたかどうかはまた別問題だ。

犯人はこれほど不確定要素のある犯行を行ったんだよ。そして見事に成功してしまった。正に「しまった」んだよ。犯人がどれだけそれを望んでいたのかは犯人に訊かなきゃわからないことだね。

と、こういうことなんだよ。したがってこの犯人は被害者がアナフィラキシショックを起こす可能性があることを知っている人物で、さらにからくり人形を違和感なく渡すことができる人物。そして殺したいという殺意がいかばかりかはある人物。となれば絞り込むのは容易いはずだ。これらの動機と知識と機会がある人物ってことだ。

ぼくにとってもこの事件はコロンブスの卵のような事件だったよ。

君にはもう真犯人の目星はついてるんだろ?

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