POLICE in 2117 3-16

 3-16、新繊維の追及②

「よし、次は吉永精密機器だ」

そこはボックスに乗る必要もなかった。

「こんにちは。松尾さんはいらっしゃってないでしょうか」

「はい。今日はいらっしゃってません」

「じゃ社長はいらっしゃる?」

「はい。どちら様でしょうか」

「警察の大崎クロードと梶原です」

「あ、警察の方。少々お待ちください」

「今はお目にかかれないと申しております」

「それでは困るんですよ。社長室はどちらです?」

「あの、困ります」

「拒むともっと困ることになると思うよ。社長室は?」

「2階です」

「ありがとう」

階段を走って2階に上がって社長室に来た。

「失礼します。警察です」

「はい。何かご用が?これから商談なんです」

「はい。ちょっと教えていただきたい。あなたの会社で今、フラッシュの新機種を製造販売してますよね」

「はい」

「話はどこから?」

「はい。松尾元会長が持ってきた仕事です」

「販売は?」

「販売といいましてもまだ3基しか製造できていません」

「それはどうして?」

「新繊維のレイテックスが入ってこないんです」

「ああ、米田さんとこのね」

「販売はどうしてるんですか?」

「松尾が売ってくるんです。まだいくらで売ってるのかも知りません」

「松尾さんが個人的なツテで売って、ここに売り上げの何割かを落とすってことなんだろうな」

「はい。うちとしては美味しい仕事なんですよ。既存の機種の一部とデザインを変えるだけなんですから」

「これから爆発的に売れますよ。米田さんとは親しいんですか?」

「あいつとは親しいけど、いったい何をやってるのかさっぱりわからない。半年前にはもう潰れるって言ってたと思ったら、いきなり新繊維の特許を取得して売り出すんだから」

「その辺の事情は知りませんか?なんでもいいんだけど」

「そういや凄い人に会ったって言ってたっけ。それで息を吹き返したんですよ」

「どんな人とか言ってなかった?」

「凄く頭のいい人で、おデコが広くて黒いアザがあるとか言ってたな。アザなんてだいたい小さい頃に取ってしまうもんだからおかしいなって思ったんです。それでよく覚えているんです」

「松尾さんはもうここには来ないかもしれないな。でも販路はいくらでもあるでしょう」

「はい。しかしレイテックスが入ってこないことには」

「そうですね。しかし繊維自体が消えてなくなるわけじゃない。そのうちどこかが作ることになりますよ」

「ありがとうございます。気長に待つことにします」


社長室を出た。「犯人の息はこの会社までは及んでないようだな。結局、松尾と米田、2人には会えなかった。たぶん主犯に呼び出されたんだろう」

「そのおデコが広いっていう人が主犯と考えていいんでしょうか」

「たぶんそうだろう。今では取り巻きが相当数いるみたいだから、たどり着くまで大変かもしれないな。それにしても通信手段がわからない」

「そうですね。米田はどうして口止めされなかったんでしょう」

「されただろう、当然な。酒でも飲んで口が滑ったんだよ。親しいらしいから」

「こうして綻んでいくんですね」

「そういうことだ。本部へ帰るぞ」


地下高速で20分でシティに帰ってきた。

今日の取調べで思わぬ収穫があった。

「吉川、詳しく話してくれ」

「はい。半年前、大岡課長の命令で大友が名前を知らされない相手に警察無線を渡しにリックスカフェに行ったんだそうです。そこには大男が現れて、いかにもレプノイドだなって思ったんだそうです。すぐに無線の受け渡しは終わったけど、そのまま警察に帰るのもって思ってしばらくそこにいたら、カフェを出た大男のレプノイドにおデコに黒いアザのある眼光の鋭い男が合流したんだそうです。周囲には誰もいないのを確かめるとそのアザのある男がいきなり銃を取り出してその大男に発射したんだそうです。でもその大男は何ともなかったんで驚いたってことでした」

「へー面白いな。で大友の感想はそれだけ?」

「いえ。ついにレーザー銃が効かないレプノイドができたと思ったらしいです」

「つまり、半年前には新素材は完成してたってことだな。たぶんできたばっかりで試してみたくなったんだろう。吉川、よくやった。お手柄だ」

「みんなもこんなことが重要な情報になったりするんだ。何でもいいからとにかく話をさせることだ」

「はい」

「今日までに判明したことを伝えておく。犯人はこの大友が目撃した新素材を開発した人物だ。今、犯人には取り巻きが何人もいるようだ。田口と大岡の無線の相手もそうかもしれない。おれは主犯本人だと思うがな。取り巻きの1人はこの繊維を作っている会社、ローゼン精密化学の社長、米田。それからその繊維を使った診断機器フラッシュを作っている会社、吉永精密機器の元会長、松尾の2名。他にもいるかもしれない。今日のところは以上。みんな、おつかれだった」

「おつかれさまでした」

「明日も取調べに行きたかったら直行してくれ、他の用事があればここに。解散」

「じゃおれは帰るな。由莉奈の顔が見たい。カジ、おまえも奥さんのとこに早く帰ってやれよ」

「はい。おつかれさまでした」

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