ほおずきさん三題噺 第十二回
お題「勤労、夫婦、約束の場所」
このオレを見てわかるだろ?このだらしない学生。そう、自分から学生と名乗らなきゃ学生とはわからない。体たらくな勤勉精神とはかけ離れたところにいる学生だ。
親の顔?
顔のことはわからないが、やっぱりオレに似て勤労精神などとは無縁の夫婦だ。
とはいえ、家業はラーメン屋。水曜日以外はちゃんと店を開けて営業してるからたいしたもんだ。注文があったらラーメンは提供してる。これだってたいしたもんだ。
オレが長期休暇の間はオレは実家でバイトしている。たぶんバイトなんていらないんだろうけど。
こんな親子だから営業はグダグダだ。
それでも親父はまぁマトモな方かもしれない。なんせ美味いラーメンを開発したんだからそれだけでもたいしたもんだ。
この店が繁盛しないのはラーメンのせいじゃなくて店に問題があるってこと。とても客を迎えるような店じゃない。なんせ散らかり放題なんだから。誰かに任せた方がきっと儲かる。
夏休みになる前にオレは考えた。どうせ開けててもお客なんて来やしねえんだから、夏の間だけ出前専門にしたらどうかって。親父が作ってオレが配達する。お袋が丼を洗うってわけだ。偉そうに分業体制を敷こうってこと。これならグダグダもちぃとはマシになんだろう?
親父もお袋も一応その意味はわかってると見えてお袋なんて小躍りして喜んだ。オレをラーメン屋経営の天才だ!とか言って。
夏休み。
「営業中」の札だけはあげておいて出前注文だけに応じる。ラーメンは美味しいから、たまには忙しい日もあった。夏休みも終わろうかというときこんな注文を受けた。
「ラーメン一丁、配達は約束の場所」
「へい」と親父。なに?
「ああ、それあたしが行かにゃきゃ」とお袋。
オレと親父の目が合った。
どういうこった。
お袋はエプロンを外すとラーメンをひょいっと持って、つっかけをカタカタ鳴らして出て行った。
オレと親父はまたまた目が合った。
ふたりとも即座に職場放棄して後をつけた。
いったいどこに届けんだ?お袋のやつ。親父は気が気じゃない顔してる。
家のない方へない方へと・・・
河川敷に下りて橋の下まで来るといきなりうずくまった。
あれ?いなくなった。
オレと親父も慌てて橋の下に。
気がつくと3人で仲良くラーメン食ってた。
どうなってんだ?
それ以来、オレたち親子は「にゃー」としか言えなくなっちまった。親父もお袋も元に戻っただけだと言いやがる。そんなはずねえだろ?な!ねえよな。
店は営業中のまんまだ。
店の前を通りかかると札はそのままあがってた。
いや、何やら傷が付いてる。
「営業中(止)」だって!きっと親父の仕業だ。