ほおずきさん三題噺 第十一回
お題「色、着物、パラダイス」
オレの職場は「スペースシップ」、宇宙船という名前だ。店内はそれらしい内装で天井には星や惑星が光っていて、たまに流れ星が流れたりする。各所にミラーボールもあって賑やかだ。
オレはレバーを引き、ボタンを3つ押す。朝一から一日中、これを飽くこのなく繰り返す。これが主な仕事。
これは精神力も体力も消耗する。ドラムの回転を見切って反射的にボタンを押すのは至難だ。午後になるとだんだん集中力も途切れがちになり目も霞んでくる。
そしてその頃になると必ず和服姿の女性が現れた。顔ははっきり見えないし着物の柄もはっきり分からないが、妖艶な雰囲気のその女性はいつも決まった台に座ると30分ほど遊んで帰っていく。勝っているのか負けているのかも知らない。ちょっとした息抜きなのだろう。それでもその時間がオレには宝だ。心の慰めだ。ほんのひと時、そこだけがこのうるさく欲にまみれた空間に浮かぶパラダイスになっていた。
ところが突然、その女性が来なくなった。あれだけ毎日決まってあったものがなくなるなんて・・・
3日が経過した日。やむなく店員に訊いてみることにした。
「ちょっとすみません。いつもこの時間くらいにあそこの席に和服姿の女性が来てたと思うんだけど」
「申し訳ありません。そのような女性は存じません」
「あのこう、日本髪っていうの?髪が盛り上がった感じで」
「いやぁわかりません。記憶にないですねぇ。ちょっと他の従業員に訊いてみます。少々お待ち願えますか」
それから30分ほど経ったころ、この店の古株らしい顔にも立ち居振る舞いにも年季を感じさせる従業員がやってきた。
「失礼します。お客様、その女性というのは髪を結い上げた感じの・・・」
「はい。その通りです」
「おそらくその女性は3日前に辞めたうちのパート従業員じゃないかと思います。その女性は髪をいつもお団子にしていまして、仕事が終わると私服に着替える前に必ずあそこで遊ぶのを日課にしていましたから」
「何を言ってるんですか?和服姿なんですよ!」
「どんな柄でしたか?」
「あの何ていうか、こう柄が服一面にある。とにかく和服だよ」
「それじゃ私があの席に座ってみますのでご確認ください」
その古株従業員がその席に座った。
そこには、この店の宇宙服風の銀色の制服に店内のあらゆる光が反射して宇宙を思わせる青地に様々に彩られた和服姿があった。