IT is my friend・・・? 8

 8、宇宙旅行②

 遠くに土星らしき星。減速するというアナウンス。イビツな土星がどんどん丸い形になっていく。少しGを感じる気がする。以前に来た時は土星の衛星のタイタンに着陸したんだった。美しい星だった。今回は違うようだ。白い衛星エンケラドゥスの横を通り抜け、土星の輪の氷の粒の真下を通る。光る氷の粒が美しい。頭上を氷の川が流れているような錯覚に陥る。

土星を通り越して、天王星、碧い星海王星を堪能した。目指すは冥王星らしい。この惑星は一度、準惑星に格下げされたという経歴を持つ。冥王星の周回軌道に入る。雲間から茶色い冥王星の地面が見える。

 「ただいま無重力ですが、シートから離れないでください。後ほどゆっくり宇宙遊泳を楽しんでいただけます」

シートは一台ずつ発車され、冥王星に向けて落ちていく。ゆっくりとしたランディング。

シートから離れて綾香を探す。実物とは輝度はかなり上げてはあるのだろうがそれでも薄暗い。

「綾香」少し小さい声で呼んでみた。

「綾香」背後から抱きついてきた。

振り返ると唇が重なった。しばらく抱き合った。

「マズいよ」

「え?マズかった?お姉さん?」

「そんなんじゃない。身体の体積が増えちまって・・・このスーツが・・・痛い」

「え?大丈夫なの?」

綾香が真剣に心配しているのがおかしい。

「男は体積が増える機能を備えてるんだよ」

「ああ、バカ。いやだ。もうそんなの言わなくていいから」

と言いながら、もう一度キスした。

冥王星でキス。一生の思い出だ。


このフィールドはかなり広い。空には三つの月、一つはとても大きい。綾香と手をつないで探検し、たまに立ち止まってはキスしながら過ごした。

 「シートにお戻りください。リングがご案内します」

誘導に従ってシートに着いた。また一台ずつ上空に上がっていき、周回軌道にあった母船に帰ってきた。

「これから宇宙遊泳です。ごゆっくりお楽しみください。母船の進行方向に重力地帯が設けてあります。お休みはそちらでお願いします」

「あまり回ると気持ち悪くなるよ」

ただぼんやり浮かんでいるだけでも気持ちいいのだが、綾香がちょっかいを出してくる。もみ合っているうちに抱き合って回る羽目になってしまった。

「どう?気持ち悪くなってない?」

「うん、ちょっと」

「ほら、だから・・・」

綾香と一緒に重力があるところへ避難した。

「凄いよね!おもしろいね!」

綾香は気持ち悪いといいながら、結構喜んでくれている。

「気分よくなったらも一度行こうか。今度は回らないように」

「じゃ行こう」

「なんだ、もう大丈夫なんだ」

本当の宇宙遊泳と違うところは、私たちの身体と備え付けの備品以外の物は浮かないという点だ。だから水がこぼれるとそのまま下に落下してしまうことになる。

 ひとしきり楽しんで、アナウンスに従って席に着いた。いよいよ帰還だ。木星の第一衛星イオの周回軌道にのるのはお約束だ。チーズのような星、これが表現としては一番近いだろう。いくつものクレーターが気性の激しさを表している。それから木星。木星の茶色いリングを横切って大赤斑を真近に臨む。大気の乱れ、この超大型台風は膨れ上がっている。この頃には本当に宇宙旅行をしている気持ちになってきている。

太陽を大きく回り込む軌道をとる。黄色い有毒ガスの雲をもつ金星。灼熱の水星。そして太陽フレアが船に当たるほどに迫ってくる。太陽の反対側を回ったところで彗星に遭遇し、船が大きく揺れる。

そして青い美しい地球。ホントに美しい。ため息ともとれる歓声が上がる。

最後に大気圏突入。船がガタガタ音を立てて揺すぶられる。急激に室内の温度が上昇。チラチラと炎が見えて、それが大きくなっていく。たまらない緊張感とともに帰還するのだ。

無事帰還して、拍手が巻き起こる。止まない拍手だ。おれは綾香と抱き合って喜んだ。本当に旅をした達成感がある。


 服を着替えてボックスに戻る。心地よい疲労感。

「どうする?ご飯食べに行く?」

「あなたの家がいい」

「いいのか?」

綾香は小さくうなずいた。

バッハの無伴奏チェロ組曲No.1を聴きながら自宅へと向かう。

「ここが家だよ」

「へー大きいのね」

「ああ、持て余してる。2階はゲストルームだよ」

今日はスムーズにピットインできた。どうやら修理ができたらしい。

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