IT is my friend・・・? 26

 26、奇妙な生き物

 するとその生き物はいきなり目を見開いた。思わず後退りする。

「なんだ生きてるのか」

「おまえは誰だ。どうやって入った」

「なんだ話せるのか。ここは何なんだ」

「ここはわしの家だ。どうして入って来れた」

「鍵はかかってない。セキュリティ甘いぞ」

「おまえ、リング持ってないのか」

「ああ、持ってないよ」

「クソ、どうしてこの世にそんな輩が存在するんだ」

 丸いそのプールの周りを回る。壁に薄い膜がある。たぶんディスプレイだろう。この怪しい揮発系の液体のせいで中空に映し出すことができないんだろう。

「あんたどうしてこんなとこにいるんだ?病気か?」

「わしを何歳だと思うね?」

「見当もつかないね」

「もうすぐ200歳になる」

「そうか、自己細胞の再生の成果ってわけか。それでも200歳は凄い」

隅の四角い箱はどうやら電源のようだ。

「あんた何しに来た」

「ああ、そうだった。女性と男性を捜している。男性は50才くらいの気弱そうなギャンブラー。女性は20歳そこそこの身長が160弱くらいのかわいい女性だ」

「ほう。その彼氏ってことか」

「あんた察しはいいな。少なくとも男性はここに来たはずだ」

「ああ、来たよ。だけど帰してやった。帰りたいって言うもんだから」

「それからまた攫ったのはここのことバラしそうになったからか?」

「どうしてまた攫ったと?」

「あの写真をどうしてそこまで徹底的に消そうとするのか、ここに来て意味がわかったよ」

「どうしてだ?」

「あんたが動けないからさ。動けないからこの場所が漏れたらマズい。それでその男の口を封じるために再度拉致した。ここがバレる可能性は徹底的に排除するってわけだ」

「それはあんたの想像だろ?」

「あんたが浸かってるその液体。その液体の臭いがその男の部屋に充満してた。他にはない臭いだ」

「ほお、なかなかキレるな」

「彼女もその件に絡んで拉致されたんだろ?」

「安心しろ。みんな元気にやってるよ」

 おれがプールの周りを回るに合わせてプールの中の住人も回ってくる。

「見逃せない殺人が一件。彼女の上司があんたに殺されてる」

「どうしてこんなわしに殺人なんぞができる?」

「あんたはレプノイドを使ってる。おれにそっくりなやつも作っただろ?」

「ああ、使うはずだったが・・・」

「そうか、ちょい役だけでお払い箱になったのか。おれより前に彼女が先に家に着いてしまったから」

「ほう、察しがいいね。おまえはフォンの声が低いんだな」

「残念だったな。完コピできなくて」

「上司のレプノイドは間に合わなかったようだな」

「あんたも知っているだろ?レプノイドに人は殺せん。あいつが勝手に逃げ回って自分で40階から落ちたんだ。体の破片はとても短時間で始末できなかった」

「殺人は殺人だ」

「わしは手を下してないぞ」

「あんたの命令であんたのレプノイドがやったことだ」

「まあいい。おまえさんは見込みがある。わしと一緒にやらないか」

「なにを」

「地球を救う仕事だ。やり甲斐はある」

「ごめんだね。あんたのやり方は間違ってる」

「そうか、残念だ」

「彼女はどこだ」

「さあね、せいぜい捜すことだ。ここから出られたらな」

「出られるさ。あんたを人質にする」

「ふん。できるかな?」

「この電源を使う。あんた電源を切られたらどれくらい生きられる?」

「何をする気だ」

「お楽しみだな」


 電源装置の蓋を開けてドライバーを差し込んだ。二カ所の接続を緩めて切断する準備をした。

「もうすぐ電源が切れる。おれが外に出たら直し方を教えてやる」

「やめとけ。わしが死んだら暴走するぞ」

「なに?」

「やるならやれ」

「外のレプノイドを1人、中に呼んでくれ」

2mもある大男が入ってきた。

「こいつに出口まで案内してもらう。いいな」

「この場で電源を壊してもいいんだ」

「わしの負けだ。出て行け」

二本のケーブルの接続を外して装置に蓋をした。部屋は真っ暗になった。

「早く行け。ご主人が死ぬぞ」

大男のレプノイドのベルトを引っつかんで走っていく。ガーンという大きな音と共に踊り場に出た。

「地下鉄までだ」

階段を落ちるように下りて地下鉄の保線作業用通路に出た。とたんに地下鉄が目の前を通り過ぎた。

「赤と黄色を繋ぐんだ。早く行け」

レプノイドはまた走って行った。

「なんて忠実なやつだ」

走って地下鉄のホームに出て、そのまま一気に地上に上がった。

鍵が壊れている自転車は幸いまだそこにあった。飛び乗って南に向かう。行く道とは風景が違う。何度か道に迷って引き返した。途中で日が暮れてしまった。

やっと我が社のビルが見えてきた。辿り着くまでに3時間が経過していた。いつもどれだけリングに頼り切っていいるのかを思い知らされた一日となった。

これからは外を出歩くのも命がけだ。

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