IT is my friend・・・? 11
11、彼女はレプノイド
家に帰る前に綾香の会社に寄った。ボックスエリアには20台分の来客用スペース、自動ドアの向こうに受付がある。受付嬢より綾香の方が断然かわいい。
「すみません。雑誌の広告やってる綾香さんいるかなぁ」
おもいきりヤサ男風に言ってみた。
「少々お待ちください」
しばらく時間がかかった。
「今日はもう退社しております」
「そうなんだ。ここって冬は自動ドア開いたら寒いんじゃないの?」
「そうなんです。もうお客さんがいらっしゃるのが怖くて」
「はは、だよね。同情するよ。おれんとこもそうなんだ。受付なんか止めちまえばいいのに。直接コンタクト取りゃいいんだよ」
「そうですよね。でもみなさんホッとなさるんだそうです」
「ああ、たしかに。おれ、今ホッとしてるよ。そうだ、彼女はこの会社にはいつからいるの?」
「一年くらいじゃないかと」
「そうか、新人さんか。ありがとう。また来るね」
綾香は思った通り新人だった。でも結局のところは切らなきゃわからないんだよな。
ボックスに乗り込んだ。
「綾香にフォン」
「はい。クロード?どうしたの?」
「今日、会えない?」
「いいけど。もう着替えちゃった。あ、今日はダメだった」
「用事か?」
「いや、そうじゃないんだけど」
「ちょっと顔か見たいだけなんだ」
「何かあったの?」
「うん。行ってもいい?」
「じゃ来て。待ってる」
綾香の言ってた通り30分で着いた。2キューブで幾何学模様。今どきの女の子らしい仕様だ。
「いらっしゃい。うち、小さいでしょ」
「十分だよ。キスしてくれ」
「うん」
綾香はしっかり首に手を回してキスしてくれる。
「でも、これから先はダメなの。わかるでしょ」
「なんだよ。監視なんて無視すりゃいい。どうしてもイヤならうちに行こう」
「バカ、そんなんじゃないって。ホントに彼女いなかったみたいね」
「ああ、モテないのは自覚してる」
「冥王星のこと覚えてる?女の子の体の機能の問題なの」
「ああ、そういうことか。わかった。じゃ一緒にお風呂だったらいいだろ?」
「イヤよ。流れるよ。そんなの見たくないでしょ」
「そんなの構わないよ。綾香と裸で抱き合いたいんだ」
「しかたないなぁ。じゃ入ろっか。知らないよ」
「大丈夫だよ」
ベッドルームのコーナーに透明なシャワーブースがある。かなり広めだがシャワーと白い椅子しかない。
「綾香」
抱きしめた。
シャワーで汗を流す。綾香がシャワーを使ったとき、美しい白い太ももの内側に一筋、赤い線が引かれた。
「綾香、すまなかった。おれ、綾香がレプノイドじゃないかって疑ってたんだ」
「えー、マジで?あんなに愛し合ったのに?」
「シャワーを強めにしてくれ」
「今、うちの社でおかしなことが起きてるんだ」
「どんな?」
「急に職員が減らされてる。凄い勢いなんだ」
綾香は特に興味がなさそうに頷いた。
「それから君が個人広告の話をしてくれただろ?その広告がなくなってる」
「あれは削除依頼があったのよ」
「誰から?」
「広告主の方からよ、もちろん。見つかったからって」
「よくあるのか?その、削除依頼って」
「珍しいわね。あんましないけど、なくはない」
「その広告主は行方不明者の親族じゃないんだ」
「じゃ、誰よ」
「それがわからないから訊いてるだよ」
「ご兄弟って確認取れたって言ってたよ。上司が」
「それはどっちかが嘘をついてる。その兄弟の広告主か上司が」
「上司は嘘はつかないと思うんだけど」
「そうだな。怪しいのはその広告主だよな。どんな人か覚えてる?」
「そうねぇ。普通に企業で働いてて、食品の加工かなんかだったと思う。年収は二万くらい。48才の冴えない男。特徴がないのよね」
「やっぱりそうか。特徴がないってのが特徴だ。たぶんそいつはレプノイドだよ」
「でもリングも持ってたし、経歴もちゃんとしてたよ」
「そうなんだよ。最近は何でもありなんだ。完全に人間になりすませる。切ってみなきゃわからないんだ」
「あっそうか。だから血がみたかったのね。いやらしいったら」
「ごめん。ほんと謝るよ。でもな、君が邪な使命を帯びてるとかじゃなかったらレプノイドでもいいって思ってた。これはホントだ」
「わかった。だからいきなりキスしてくれって言ったのね」
「そう」
「そんなに愛してくれてんだ。うれしい。でも今日はダメだからね」
「わかってるよ。今日はおとなしく寝よう」
綾香のキングサイズのベッドのベージュのカバーが発酵しているようにふっくら膨らんでいる。
抱き合って朝まで寝た。
翌朝はちょっと違う朝だった。
「クロード、オレンジジュースだよね。5分で届くから」
お化粧こそしていないけれど、綾香はしっかりかわいい顔をしている。
「そんなのわざわざよかったのに。それより今日もダメなんだよな」
「そうよ。1日じゃ終わらないの。大変な作業なんだから」
「わかってるよ。いつまでダメなんだ?」
「そうねぇ、あと4日。それよりもさ、私のどこがよかったの?」
「女ってとこ。・・・ウソだよ!おれのタイプなんだ。ほぼほぼ」
「じゃ足りないとこって何よ」
「4日後までって日があるとこ」
「もう、真面目に言ってって」
「そうやって問い詰めるとこ。今のとこ完璧だよ」
「ほんと?ほんとにそう?」
「ほんとだって。昨日言っただろ」
「うん。でも何回も聞きたいのよ。凄くうれしいんだから」
「何度でも言うけど、何度も言ったら安っぽくならないか?」
「そんなことないよ。クロードってモテそうじゃない?カッコいいし、頭いいし。誰に見せても恥ずかしくないもん」
「なんだよ、おれはアクセサリーみたいなもんか。綾香がどう思ってるかが大事なんだろ?」
「もちろん私は愛してるに決まってるじゃん。その上でよ。その上で、自尊心も満足させてくれるのよ」
「なんだか難しいな」
「だって、たとえば友だちに彼氏だって紹介してもらって、ショボい男だったらな~んだって思うじゃん」
「そんなもんかねぇ。自分が好きだったらいいと思うけど」
「だから~、一番はそれなのよ。でプラスαがそこなの」
「そんなに見栄張りたいの?」
「やっぱり羨ましいって思ってほしいよ」
「クロードはそんなことないの?」
「ないね。自分がかわいいって思ってるだけでいい」
「不思議よね~男って」
「そうか?それが必要十分条件だよ。でも男が全部そうだとは限らないからな」
綾香は短い花柄のパンツで足を交差させている。耐えられなくなりそうで目を逸らした。
「見栄でキレイな女の子連れてるやつもいるかもしれない。好きじゃなくても」
「そうよね。たぶん」
今日は出社する日だからシティまでボックスを繋げていった。だけど綾香は化粧に余念がなく、話し相手にはなってくれない。それでふと思い出した。
「綾香ごめん。今日は出社前に用事があった。ちょっと離すよ」
「うん。今日も来る?」
「そうだなぁ、わからない。時間ができたら連絡するよ。じゃ」
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