IT is my friend・・・? 6

 6、女とカードと花札と

 そうだ。山田さんのところに行ってみよう。今日は出勤してるはずだ。

「こんちは」

「え?今日は?」

「トラブルがなきゃ顔だしちゃいけないんすか?」

「いや、あんたの顔見るとトラブルを連想する。それだけのことだよ」

山田さんはモニターから一度も顔を上げない。おれの顔を見てもいないのに。

「まぁいいや。社員が減ってるの知ってますか?」

「ああ、知ってるよ」

「どうしてなんでしょう」

「いや、ああ、それはわからない」

「何かある気がするんっすよね」

「早く片付けたいんだろ?電力も節約になるし」

「それだけっすかね」

「ああ、そんだけ」

「ここ、解体するんすか?」

「いや、ここはこのまんま使われる」

「山田さん、何か知ってますね」

山田さんが初めて顔を上げて目配せをした。そうかモニターを気にしてるんだ。これ以上聞かない方がよさそうだ。


「山田さん、私も残ることになるかもしれませんよ」

「だろうな。だいたい予想してた」

「どうしてですか?」

「おれ、社員の中であんたとしか話さないから」

「え?そうなんすか?それって光栄なことっすか?それじゃ吉田さんとは?」

「あいつはもう1年位前から自宅勤務だよ。知らなかった?」

「でも、先月見ましたよ」

「それシャドウだよ。バーチャル。よくできてんだろ?」

「凄いっすね」

「あの人がこの世で一番凄いかもしれない」

「へー山田さんがそう言うなら間違いなさそうだ」


「あんた、なんかゲーム持ってる?」

「ゲームっすか?そんなのネットにいっぱい転がってるでしょう」

「いや、カードとか人生ゲームとかモノポリーとか・・・」

「ああ、そういうやつ。ないっすねぇ」

山田さんはもの欲しそうな顔をする。分かりやすい人だ。

「ほしいんっすか?」

「ああ、ほしい」

先日コンビニに寄ったときに見かけた気がした。

「もしかしたらあるかもしれないっす」

「じゃ手に入れといてくれよ」

「はい。わかりました。4人勤務になったら持ってきてくれ。それで遊ぶんだ」

「マジで?」

「ああ、大真面目。じゃよろしくな」

山田さんは何か考えているみたいだ。何があるんだろう。


 仕事帰りにコンビニに寄った。店内を徘徊すると、やっぱりあった。トランプと花札まである。だがボードゲームはトイザらスにでも行かなきゃないだろう。この二つにチェックを入れて、先日と同じ女の子に頼んだ。

「お待たせしました」

コンビニは制服なんだが、弾けるようなかわいさがある。

「ありがとう」

「今日は変わったものをお買い求めですね」

「ああ、頼まれものなんだ」

「花札は最後の一つだったんですよ。珍しいですよね。私もここで初めて知りました」

女の子が花札から上目遣いにこちらに視線を向ける。ちょっと震える。

「昔はこれで賭博とかやってたらしいよ」

「そうなんですか?どうやって?」

「ああ、花がそれぞれ1月から12月に対応してるんだ。それで何枚か札を取り合って9に近い方が勝ちってことになる」

「13じゃなくて?」

「それ、ブラックジャックだろ。まぁ似たようなもんだけど、よく知ってるね」

「はい。叔父に連れられてよくカジノに行ってたんです」

「叔父さんどうなった?」

「はい。行方不明です」

「だろうな。カジノなんて通うもんじゃない。遊びで一度ならいいんだが」

女の子から笑顔が一瞬消えた。

「あ、ごめん。変なこと聞いちゃって」

「いいんですよ。私の家はバイトしなきゃ学校に通えないような家だから」

「まだ先は長いの?」

「あと1年です」

「そうか、連絡先教えるから何か困ったら連絡してきなよ。できないことはできないけど」

「はは、おもしろい」

「どうして?」

「普通できることはするって言うんですよ」

「そうか。次から気をつける」

「何もなくても連絡してもいいですか?」

「うん。いいけど。おれはクロード、こんな名前だけど純粋な日本人だ」

「私は由莉奈。純粋な日本人よ」

「はは、やられたな。でもおかしいよな、世界は国境がなくなったてのに返って自分の出身を固持するようになってる。じゃ連絡待ってる。たぶんおれからは連絡しない。フラれたらカッコ悪いから」

「おもしろい。フッたりしませんよ。それじゃ。ありがとうございました」


 なんかおれ、最近モテんじゃない?そんないい気分で帰宅した。

「ただいま」

返事がない。

「QPどうした?」

「ああ、おかえりなさいませ。昨夜のダイゴナスティックでパージョンアップの要請があったので、今真っ最中です。ご迷惑をおかけしますが、今はとてもお目にかけられない形状ですのでお許しください」

「いいよ。大丈夫。ゆっくりやってくれ」

形状変更を終えたQPを見て驚いた。おれ好みの女性に変わっていた。

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