「クックロビンを殺したのは誰?――絶対に裏切る探偵のミステリー
通称“クックロビン”と呼ばれる男が、ある夜突如として姿を消した。その翌朝、寂れた洋館の裏庭で彼の小鳥を飼う鳥籠だけが見つかり、地面には血痕のようなものが点々と残されていた。警察はすぐに周辺を捜索したが、クックロビンの姿はどこにも見当たらない。
さらに数日後、同じ洋館の地下室からは「こちらを見ろ」と指し示すように一羽の小鳥が息絶え、そばに奇妙なメモが落ちていた。「誰がクックロビンを殺したのか?」――そう書かれたそのメモには、彼の名前を挙げながら、まるで犯人を挑発するような文言が続いていた。いったいこれは、殺人事件なのか、あるいは壮大な悪戯なのか。それとも何者かの仕組んだ“劇”なのだろうか。
捜査に乗り出したのは「絶対に裏切る探偵」として知られる裏通りの名探偵、氷室(ひむろ)だった。彼の依頼人は次々に裏切られることで有名なのだが、それでも彼を頼る者があとを絶たない。というのも、裏切った先でこそ鋭い推理が生まれ、必ず真相にたどり着くと噂されているからだ。実際、氷室が担当したミステリーは、どれも最後には意外な結末を迎えてきた。
その夜、氷室は洋館の大広間に各方面の容疑者を集め、まるで芝居でもするかのように推理を組み立て始めた。「最初に消えたのはクックロビン自身だ」と口火を切るが、誰もがすぐには納得できない。けれど、彼の言葉にはある種の説得力があった。それもそのはず、氷室は常に想定外の視点から真実を見つけ出す。人を欺いておいて、最後には核心を射抜くためだ。
「容疑者は、僕も含めて全員だ」と静かに宣言する氷室。その時点で誰もが彼を疑い、彼も皆を裏切っている。だが、最終的に見えてきたのは“クックロビン”という名を使い、裏社会で密かに取引をしていた男の痕跡だった。しかも、その正体は意外な人物だ。氷室は薄く笑みを浮かべ、決定的証拠を手に取る。「――やはり、あなたがクックロビンを殺したんですね?」そう告げた瞬間、探偵自身が敷いていたトリックが一斉にほどかれ、驚愕の結末を迎えることになる。
果たしてクックロビンは誰に殺されたのか。それとも、クックロビンが自作自演で姿を消しただけなのか。謎が謎を呼ぶ中、確かなのはただひとつ。絶対に裏切る探偵は、裏切りという手段をもって真実に到達する──そして、その真実は往々にして、人々の想像をはるかに超える“狂宴”へとつながっていくのである。