トランス女性が女性トイレを使用すると女性の安全が脅かされると言う主張はトランス差別を生み出す
トランス女性が女性トイレに入れることを許可すれば、またはジェンダーニュートラルトイレを増設すれば、女性トイレのスペースが脅かされ、犯罪を狙った男性の変質者が変装して入りやすくなる、トランスジェンダー女性の自由は、シスジェンダー女性の自由に影響を与える、不安だという女性の声が上がっている。これは、19世紀に男女に二分されたトイレが、こうした犯罪への抑止力やプライベートが保たれるという考えを元にしている。
しかし、トイレを男女別にしたのは女性への性犯罪を減らすためではない。19世紀までは男性用トイレのみであり、女性は社会的イデオロギーによって家庭的で子育てと家庭の維持に努めるため、移動を制限され、家から遠くまで出掛けることはできなかった。よって、二分する前はユニセックスのトイレだったわけではなく、女性にはトイレがそもそもなかった。*7
また、男女別のトイレが男女共用のトイレに比べてシスジェンダー女性にとって安全であるという実証的証拠はない。男女別トイレが女性をより安全にするという考えは、男性は本質的に暴力的で捕食者であるという固定観念に基づいている。この固定観念は男性にとって有害であるだけでなく、女性が暴力の加害者になりうるという現実や、男性が被害者になりうるという現実を無視している。男女別か共用かで性犯罪の発生率との相関性はない。*8 つまり、男女別で分けることで、女性がより安心感を覚えるということだけだ。
トイレの性別区分は、戸籍上の変えがたい生物学的な女性と男性で分けるというポイントに根ざしている。つまり出生証明書に記載されている性別に対応するトイレを使用しなければならないとすると、戸籍謄本を変えたトランスジェンダー女性は、女性トイレに入る権利がある。しかし、実際にはトランス女性が女性トイレに入ると差別を受けている。*4
シス女性側の立場では、出生証明書が女性に変更されたトランス女性でも、見た目が男性らしければ、女性が男性が入ってきたと恐怖を覚えるため、男性のトイレを使用してくださいということになる。するとトランス女性が異性のトイレを使用することになるが、男性トイレはトランスジェンダー女性にとって安全な場所ではなく、それどころかシス男性から性的暴行を受ける事件が多発している*5
この時、トランスジェンダー女性が女性用トイレを利用する権利と、シスジェンダー(生物学的な性別が自己認識の性別と一致する)女性が安全でプライバシーが保護されたスペースを確保する権利が衝突するように見える。
女性の男性への恐怖は十分な根拠のあるものであるため、トランス女性が女性施設への立ち入りを許可できないと言うことはできない。なぜなら、トランス女性を装った男性犯罪者が女性を襲う可能性はしばしば過大評価されており、実際にはトランスジェンダーの人々が公共のトイレを利用しようとする際に、頻繁に利用を拒否されたり、暴言を吐かれたり、身体的暴行を受けたりすることは日常的に起きる深刻な問題だからだ。
これにはトランス女性は実際には女性のフリをして女子トイレに侵入してレイプする男性であると言う誤まった固定観念に基づいている。*5 トランス女性の服装は異性の服装をするいわゆる女装ではない。自分の性自認に基づく服装をしている。
レストランなどの公共のトイレを使用するとき、女性から睨まれたり、奇妙な視線を受ける、退出を要求される、あるいは女性からハラスメントや性的暴行を受けたりするため、トランスジェンダー(女性)は自宅に帰るまで我慢して避ける傾向があり、またトイレを我慢することで尿路感染症などの健康被害が出る恐れがある。*3
また、トランス女性が女性トイレに入ったり、ユニセックストイレを設置することで性犯罪や暴力、覗き見が増えたという関連性と証拠はゼロである。*1*2
まとめ
トランスジェンダーの人々の権利と安全、そしてすべての女性の権利と安全の両方を尊重しながら、これらの問題を解決するには、まず、男女別トイレがトランスジェンダーへの差別を助長することを認識しなければならない。*4 トイレの性別に関する差別は、IDが女性なのかではなく、見た目が女性トイレを利用するのに十分女性であるかという基準に基づいており、トランスジェンダー女性は異性愛規範的な女性性から外見が逸脱しているとみなされる。男女別トイレでトランスジェンダーを守ることができないなら、私たちは新しい種類の公衆トイレを考える必要がある。*6
ジェンダーニュートラルトイレ、またはジェンダーインクルーシブトイレを増やすことで、トランスジェンダーの人々が公共トイレを利用しやすくなる。私の通うイギリスの大学や大英図書館でも多く導入されている。私も何度も使ったことがあり、最初は驚いたが、慣れてしまうと普通のトイレと変わらない。私はノンバイナリーの女性であり、フェミニズムが進んでいるのにトイレのマークは紳士と淑女のズボンとスカート、青と赤という前時代的なデザインで、いつも入るたびに、私はスカートを履く女性ではないのにな...と不快感を感じていた。だが、性別中立トイレは、ジェンダーインクルーシブであることが示されているため、むしろより快適で安全だと感じた。
そこには男性と女性のマークが半分に組み合わさった形の記号や、単純に男性と女性、そしてトランスジェンダーの記号が使われている場合がある。
男女トイレの隣にジェンダーインクルーシブトイレを増設し、性的少数者がアイデンティティに適したトイレを利用できる一方で、女性専用トイレも維持され、女性のプライバシーや安全性が感情的にも確保されるという形になる。
すべての人間が公衆トイレにアクセスできる必要があり、そのトイレは安全で安心できる場所である必要がある。
参考文献
*1 Francis, J., Sachan, P., Waters, Z., Trapp, G., Pearce, N., Burns, S., Lin, A., & Cross, D. (2022). Gender-Neutral Toilets: A Qualitative Exploration of Inclusive School Environments for Sexuality and Gender Diverse Youth in Western Australia. International journal of environmental research and public health, 19(16), 10089. https://doi.org/10.3390/ijerph191610089
Heath, F, D. (2017). Beyond Trans: Does gender matter?. New York. New York university press.
*2 Julie M. (2018). No link between trans-inclusive policies and bathroom safety, study finds. Available at: https://www-nbcnews-com.translate.goog/feature/nbc-out/no-link-between-trans-inclusive-policies-bathroom-safety-study-finds-n911106?_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=en-US&_x_tr_pto=wapp&_x_tr_hist=true [Accessed 11 June 2023]
*3 Lerner, J. E. (2021). Having to “hold it”: Factors that influence the avoidance of using public bathrooms among transgender people. Health & Social Work, 46(4), 260-267.
*4 Davis, H. F. (2018). Why the “transgender” bathroom controversy should make us rethink sex-segregated public bathrooms. Politics, Groups, and Identities, 6(2), 199-216.
*5 Brinker, Luke, and Carlos Maza. 2014. “15 Experts Debunk Right-Wing Transgender Bathroom
Myth.” Media Matters for America, March 20. http://mediamatters.org/research/2014/03/20/
15-experts-debunk-right-wing-transgender-bathro/198533.
*6 Sanders, J., & Stryker, S. (2016). Stalled: Gender-neutral public bathrooms. South Atlantic Quarterly, 115(4), 779-788.
*7 Laura, P(2018) The overdue case against sex-segregated bathrooms. the Yale journal of law and feminism. Available at: https://core.ac.uk/download/pdf/215559386.pdf [Accessed 11 June 2023]
*8 Nigel Patel (2017) Violent cistems: Trans experiences of bathroom space, Agenda, 31:1, 51-63, DOI: 10.1080/10130950.2017.1369717