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読書の記録(28)『そこに工場があるかぎり』 小川洋子 集英社

手にしたきっかけ

以前、小川洋子さんの本で工場を見学された話を読んだ記憶があります。エッセーだっかも。『とにかく散歩いたしましょう』かなあ。手元に本がなくてうろ覚えですが、その中の一節で、ある工場での挨拶が「ご安全に」だったというエピソードが記憶に残っていました。

昨年、高専ロボコンにはまり、魔改造の夜にはまりました。もともと、もの作りにまつわる話が好きで、この本も面白そうだと思い、読むことにしました。

心に残ったところ

見学に行かれた小川洋子さんの真摯な様子が伝わってきます。工場の方々のものづくりに向き合う姿も、説明してくださる言葉も、とっても魅力的。

作っている製品に命が吹き込まれる感じや、制作の過程の描写が美しくて、何度も繰り返し読んでしまいました。私は早く浅く読んでしまう傾向があって、ついつい先へ先へと読もうとしてしまいます。音声の再生の感覚でいうと、1.5倍速ぐらいの感じ。小川洋子さんの本は、自然と1.0倍でじっくり、もしくはもっと速度を下げてゆっくり読みました。

心ひかれた描写。例えば、お菓子のポッキーを作る工程。

そうこうしている間にも、カットされた生地がベルトコンベヤーに載って次々と流れてくる。この段階では大きさはまだ不統一で、両手で抱えられるくらいの塊もあれば、ポロポロとした欠片もあるのだが、その不揃いな感じが初々しくて好ましい。自分がこれからポッキーの軸になるのだ、などとは気づいてもおらず、長い旅は始まったばかり、といった高揚感に包まれている。
(略)
生地の端っこたちには、ついさっき意気揚々と原料混合器を出発したばかりなのに、早くも逆戻りをしているのを恥ずがしがるような、あるいは、皆の流れに逆らって、逆に目立ってしまっているのを申し訳なく思うような風情がある。つまり、ラインが表情を持っているのだ。そこが重工業製品とは様子が違っている。生活に密着するどころか、口に入れるものだから、製品の形になる前の段階から、自分の感情をついかさねてしまいがちになる。

『お菓子と秘密。その魅惑的な世界』   グリコピア神戸 2016年7月取材

ポッキーの軸の擬人化!

この工程を見るために、グリコピア神戸に行きたいという思いが抑えられません。ポッキーがどんな大冒険を経て、商品として生まれるのか、自分の目で確かめてみたいです。

『手の体温を伝える』五十畑工業株式会社 では、『サンポカー』が登場します。『サンポカー』というネーミングのなんとほのぼのしていること。『サンポ』のための『カー』だからそのままなんだけど、温かくてポカポカした感じがします。

きっとうちの子もこれに載せてもらって、毎日お散歩に連れて行ってもらってたんだろうなあ、ワクワクしながら流れる景色を見ていたんだろうなあ、と思います。サンポカーを街で見かけると、「保育所の先生!いつも、ありがとう!!」と心の中で手を振っています。

全部で6つの工場見学の様子が書かれているのですが、どれも読んでいてワクワクしました。

今年やりたいことリストに、工場見学を入れました。

まとめ

小川洋子さんの文章が好きです。美しくて、優しくて、品があって、心にするすると入ってきます。ゆったりとした気持ちになれます。


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