「成果なきマーケティングは撲滅すべし」 〜マーケターのプロとアマチュアを分ける3つのこと〜
2020年7月9日にSGMSウェビナー「スマホゲームマーケターのキャリアとスキルアップのリアル」を開催しました。SGMSでは初のウェビナーでしたが約200人に参加登録いただき、ゲストのアツいトークでとても白熱したイベントになりました。マーケターのスキルアップやキャリアを考える上で参考になる内容だと思いましたので、イベントレポートを公開します。参加できなかった方も含めて少しでもご参考になればと思います(この記事の最後に次回開催のお知らせもあります)。
■ゲスト
㈱ブシロード 広報宣伝部 副部長 森下明さん
㈱ミクシィ モンスト事業本部 データマーケティング室 室長 松尾 雄司さん
㈱アプリボット マーケティング統括室室長 三浦 慶介さん
スマホゲームのマーケティングは"総合格闘技"。だから成長できる、だから面白い
――:何故、今スマホゲームのマーケターをやっているのですか?
森下さん:最初のきっかけは成り行きだったのですが、当時はまだスマホゲームやアプリのマーケティングが黎明期で先行事例がなく、まだ型が何も無い中から1から考えていくのがとても面白くやりがいがありました。さらに現在働いているブシロードでは、ゲーム以外にもIPビジネスを幅広く展開しており、また創業者の木谷をはじめ経営と近い距離で仕事ができており、新しい経験や学びが得られています。これが魅力的でこの業界で働いています。
三浦さん:元々新卒で今の会社に入社してゲームのプロデューサーをやっていて、その後経営コンサル会社に転職、そしてもう一度今の会社に戻ってきてマーケターをやっています。この業界に戻ってくるきっかけになった1つ目は、当時スマホゲームは急速に成長しており、成長市場でマーケティングに携われることがとても貴重な機会だと考えたからです。そして、2つ目はスマホゲームのマーケティング=総合格闘技みたいだと思っていて、成功のためには幅広いマーケティングが求められるため、様々な経験とスキルが身に付くことが魅力的だと考えたからです。
スマホゲームは生活必需品ではないので、極端に言うと生活に必要ないものです。だからこそ顧客理解が非常に重要になります。また、運用型広告等を中心とした数字を追いかけて着実にパフォーマンスを出す「地上戦」と、リターンの見えないコミュニティマーケティングやマスプロモーション等を中心とした「空中戦」のどちらも活用していかないと大きな成果は出せません。やることが幅広い分だけ成長できるのがスマホゲーム のマーケターだと考えています。
松尾さん:最初のきっかけは海外展開に携わる仕事をしたいと考えていて、その条件に当てはまるのがゲーム業界だったからです。実際に働いてみると、さらにスマホゲーム業界はとても伸びていて、最先端の情報もたくさん集まり、変化もダイナミックかつスピーディーで、それがとても面白く感じました。また、今は上司の根本さんと働くことでたくさんの学びがあり、まだまだ学びたいと思っていることも理由です。
☆スマホゲームのマーケティングは新しい経験をどんどんできる
・スマホゲームは成長市場で市場が大きく、ビジネスモデルも多岐に渡る
・マーケティングもあらゆる手法が求められ、実際に経験できる
・そして日本から海外へのビジネス展開の機会も
・そして魅力的な人が働いている
自らをいかに限界突破させるか?が成長の鍵!あとはやるかやらないか
――:これまで成長できた経験やエピソードを教えてください。
三浦さん:あるタイトルでTVCMを実施し成果を出せたときに一番成長を実感しました。これまでに経験がない大規模な予算で、TVCMの実施も自分で判断しただけに、全ての施策要素に仮説を持ってプランニングし、仮説を情報収集や調査で事前検証して実施しました。結果、想定以上の成果を出すことができました。この経験によって、一気にスマホゲームのユーザやマーケティングの解像度とターゲットやコミュニケーション設計への精度が格段に上がりましたね。
森下さん:あるタイトルをマーケターではなくプロデューサーとして担当した経験です。そのタイトルはリリース後、DAUや売上をはじめとした各KPIが計画値に対して未達成の状況でした。その状況を打開するため、売上を構成している数値やKPIを徹底的に分解し、事業課題を定義した上で改修プランを作成して、開発会社に指示出ししました。その結果的にDAUが改修前後で1.2倍に上昇、月次の売上を大幅に更新することが出来ました。プロモーションでコントロールできるインストール数やRRだけでなくゲーム内KPIであるPURやARPPUに対するテコ入れに関しても再現性を持って成果が出せたと感じました。マーケターではなくプロデューサーとしてこれまでとは異なる領域にチャレンジした結果です。
――:マーケターが一部のプロモーションKPIしか見れておらず、ゲーム内のKPIになかなか関与できていないケースは多いと思います。
森下さん:ゲームの内のKPIにも一定の型というか傾向があるのでマーケターなら誰でも分析可能です。まず売上構成比を課金クラスターに分解します。そうすることで、誰がこのアプリに多く課金しているのか把握できます。そのユーザーが時系列でどのようにクラスター移動しているか確認し、起きている現象の仮説を立てます。そして、その仮説が合っているか自分自身がユーザーとして同じ体験をして検証する。あるいは、定性調査のようなインタビュー調査を行います。そうすると、大体仮説が当たっていることが多いです。そうして見えてきた課題をどう解決するか?を考えれば、自ずとゲームの改修ポイントは見えてくるはずです。マーケティングのPDCAと同じです。
今は面白いスマホゲームがたくさんあります。ランキング上位のタイトルはもちろんUIUXがよく出来ています。少しでも似ているゲームをやり込んで、担当タイトルの課題に対して優れている部分や差分を見つけて埋めるだけでも、ある一定のKPI改善ができます。これをやるのに特殊能力はいらないし、案外マーケターでできる人がほとんどいないので、やっているマーケターの価値は上がると思います。マーケティングに限らずに、ゲーム内外の全体プロセスを自分でやり切ることが大事だと考えています。
松尾さん:私が間違いなく一番成長できた機会は、私が管轄する部署で広告宣伝予算を持たなくなった時です。私は元々広告代理店出身でミクシィでもWebプロモーションの専門家のキャリアが長かったんです。最近異動して、データマーケティングの部門に所属しているのですが、そこで広告宣伝予算を持たず、あるアセットはこれまで培ってきた知恵と優秀なメンバーのみ。限られた条件で事業貢献のためにやれることを考えたら、実はまだできていないことがたくさんあることに気づきました。特定の手法に囚われない視点や、事業損益の視点が自分に加わり、一気に成長できたと思います。
☆これまでと異なる挑戦から得られる新しい視点が自身を限界突破する
・新しい領域の視点や視野こそが自身の大きな成長につながる
・マーケティングやプロモーション、特定の手法だけに固執すべきでない
・ときには制約も自身の成長につながる
・成長が鈍化したと思ったら、新しい領域に挑戦しよう
スマホゲームのマーケターのあるべき姿とは
――:スマホゲームマーケターのあるべき姿をどうお考えですか?
森下さん:あるべき姿=「売上営業利益に責任を持つ人」だと考えています。すなわち、プロデューサーや経営者の立場でKPIやコストに向き合うということです。自らの役割を型にはめると成長機会を失います。ビジネスを伸ばす変数が無限にある中で「私はデジタルマーケターだから、CPIとROASだけに責任を負う」という姿勢をとることは、自分がコントロールできる変数を絞ることを意味します。そもそも変数を絞った中で売上営業利益を増やすには限界があります。視点を広げ、マーケターとして成長する上でも、ビジネスを成功に導く上でも、「売上営業利益に責任を持つ」というマインドセットをマーケターは持つべきだと思います。
三浦さん:あるべき姿=「事業を伸ばす人」だと考えています。事業がうまくいっていない時は、マーケターはともすると、利益使って遊んでいる人と思われます。前提として、事業を伸ばす人=仕事の本質だと考えており、これはデザイナーもエンジニアも同じだと考えています。ただ、特にマーケターはコストを使う立場である以上、どの立場の人よりも、事業を伸ばすポジションとして自分をちゃんと捉えるべきであると口酸っぱく言っています。
松尾さん:あるべき姿=「事業”を理解し、”人”を知り、体験し続ける
人」だと考えています。事業構造や、ゲームの面白さを理解している人は少ないと思います。だからこそマーケターはその視点を持つべきであると感じています。そして、人を理解する為に、インタビューやしっかり仮説を立てる等、基本的なことを忠実にやっていくことに加えて、自分たち自身がユーザーとなることが非常に大事だと考えています。
みなさんが共通して「事業」というキーワードが入っていました。まさにマーケティングはビジネスそのもの、マーケターは自身の視点と領域を広げるべきですね。
スキルアップのためにはインプットとアウトプットの両輪が大事
――:あるべき姿に向かってスキルアップのために日頃からやっていることはありますか?
森下さん:本を読み、考え、実務に使って、学んだことをnoteに出して、世の中と反応をすり合わせるようにしています。あとは売上営業利益を理解するための会計スキルの知識、マーケティングフレームワーク等、ベースの戦闘力を高めるための勉強を普段からしています。
三浦さん:マーケターは学び続けるしかない職業なので、普段から勉強するのは当然だと思っています。あとは、インプット=仮説検証量だと思っています。本で読んだ内容と実際にやっていることの差を見ることが重要です。CMを見た時にランキングと照らし合わせて良いCMかどうか、自分の感覚と照らし合わせたりしています。情報を聞いて鵜呑みにしないように意識しています。
松尾さん:私は森下さん、三浦さんのnoteを読んでインプットするようにしています。良質でわかりやすいからですね。立場は度外視して、良いと思ったものは何でも積極的に吸収するようにしています。そして、ちゃんとインプットして、部下によかった記事を紹介する等、周りにシェアするようにしています。
☆アウトプットはインプットでもある
これはとても深い真実ですね。このnoteの最後にゲストのみなさんのnoteを紹介します
――:インプットは大前提だけど、インプットして終わりじゃなくて、仮説を持って検証する、アウトプットするプロセスがスキルアップする上で大事ですね。ちなみに、森下さんと三浦さんはよくnoteに記事を書いていますが、アウトプットする意義やモチベーションは何ですか?
森下さん:「世の中からクソゲーを無くしたい」というのが一番のモチベーションです。正直せっかく作っているのにもったいないなと思うゲームがたくさんあります。そして、スマホゲームにはホームランは打てなくても必ずヒットを打つ法則と言うものがあると思っています。クソゲーというのは多額の開発費を投入したにも関わらず、ヒットで出塁することもでき無いタイトルのことです。このようなタイトルが日本では多すぎると認識しております。ヒットの法則を知っているだけで回避できる失敗がたくさんあるし、それが浸透すれば日本のソシャゲ市場規模はもっと大きくなるんじゃないかと思っています。
三浦さん:「成果の出ない悪いマーケは撲滅すべし」と言う思いがモチベーションですね。ビジネスの現場では「富士山に行くはずが高尾山に目指しちゃう」のような目的やゴールを見失ってしまうことは本当によくあるんです。でもそこに乗っている人は優秀だったりする。それって不幸だなと。人を不幸にしたくない、だからこそマーケティングでビジネスの成功確度を高められるようにしたい、その思いが発信するモチベーションの根本にありますね。あとは、実利上のメリットもあります。アウトプットすると分かっていない部分が分かるようになるんです。そういった自己採点のためのアウトプットでもありますね。
世の中をもっと良くしたいという想いがアウトプットのモチベーションになっているのですね(笑)
――:最後に今後のキャリアについて教えてください。
松尾さん:ぶっちゃけ具体的には考えていません(笑)。私は元々プロモーション畑。マーケティング全体への知識や経験が身についてきたのはつい最近なので、当分はどうしたら市場貢献出来るのか考えながら、マーケターとしての幅を広げる事に取り組んでいきたいです。
森下さん:売上利益に貢献する立場の最終形は経営のボードメンバーなので、ゆくゆくはそちらに行きたいと考えています。あとは、実務ができる"ホンモノ"であり続けたいです。プレイングから逃げずに常に真剣勝負していたいです。また、マーケット規模等の観点から、海外で働くことも視野に入れていますね。
三浦さん:事業を伸ばすための力を磨く上で、担う役割は何でもいいなと考えています。ひたすらこれからも事業成果と向き合って、その中で出来ることを広げていきたいですね。私のキャリアの軸は好奇心なんです。より難しく、より面白く、より世の中に貢献できるビジネスに関わっていく為に、自らのスキルを磨き続けていきたいなと考えています。
ウェビナーのまとめと感想
<登壇者の共通点>
①自らを限界突破するための新しい経験をする。
②自らを型にはめず広い視野で、そして事業の成果にこだわる。
③自ら学び続け、学びをアウトプットして、さらに学びを深める。
事業成果という揺るぎないゴールに向かって、日々領域を超えた挑戦と研鑽をし、仕事に再現性を持たせることで安定的なパフォーマンスを発揮する。まさしく、彼らはプロのマーケターだと思いました。
<佐藤基>みなさんに話を伺っていて感じたことは、「スマホゲームはビジネス規模は大きいためにマーケティングの領域が広く、しかしながらチームはコンパクトだからこそ自分の領域を広げやすくもある。だからこそマーケターは視野と領域を広げるべき。それこそがあるべき姿であり、自身の成長である」ということです。その意味でキャリアとしてとても魅力だと思いました。スマホゲームのマーケターのみなさん、これからも頑張っていきましょう!
<古賀>お三方とも「ビジネスゴール=利益」を生み出すことに対して真摯に向き合っていらっしゃったのが印象的でした。自分の役割や足元のKPIだけに囚われるケースは本当に多いと感じます。「でもそれって、ビジネスゴールに貢献していない、プロじゃないな・・!」と改めてマーケターとしてのスタンスを見つめ直す良い機会になりました。あと、お三方のバランスよく情緒的な思考(面白さの追求、ストーリー設計)と論理的な思考(ロジカル、データ)を駆使されておられるエピソードも興味深かったです。ゲーム=エンタメを取り扱う立場であると共に、ビジネスを成功させるための立場として、スマホゲームマーケターである以上はどちらの思考も出来るように日頃から研鑽をしておく必要があるなと強く感じました。
登壇ゲストのおすすめnote
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松尾さんもnoteを開設!今後のnoteに注目です!
次回のウェビナー予告
2020年8月4日(火)に第2回のSGMSウェビナーとして「ここが変だよ(闇だよ)、スマホゲームのマーケティング」を開催しました。スマホゲームのマーケティングにおいて「これって変じゃない?」「これっておかしくない?」「これを変えていきたい」などのスマホゲームマーケティングの課題と今後のあり方について議論しましたので、ぜひレポート記事をご覧ください。
2020年11月20日(金)に「SNSの活用」をテーマにした第3回のSGMSウェビナーを開催します。ぜひご参加ください!
またnoteにレポートを書こうと思いますので、ぜひスキやシェアをお願いします!
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