アカボシゴマダラの分布調査からわかったこと
①はじめに 【自己紹介】
こんにちは!もっちと申します!!
自然観察を趣味にしている高校1年生です!
普段はXhttps://x.com/motti_nature で虫の写真などを投稿しています。
私はここ2年間で2回、「個人的興味による調査」として、中国からの外来種とされるアカボシゴマダラの日本での分布はどのようなものかの調査を行いました。
以下、その内容と結果を記載します。
②アカボシゴマダラについて
アカボシゴマダラ (Hestina assimilis) は日本に分布するタテハチョウ科のチョウです。厄介なことに、日本に分布している個体群が2つあり、奄美大島などに分布している奄美亜種(Hestina assimilis shirakii)は日本に元から分布していたもので、外来種ではありません。
しかし、本州に分布する個体群は中国が原産の外来亜種の個体群だとされ、名義タイプ亜種(H.a.assimilis)として区別されています。外来の個体群は近年関東地方を中心に分布を急速に拡大しているとされ、環境省は奄美亜種を除くアカボシゴマダラを特定外来生物に指定し、これ以上の分布拡大を食い止めようとしています。
生態
幼虫はエノキの葉を食べ、成虫は年に数回発生します。あくまで私の感覚ですが、年に3~4回ほど成虫が発生しているように感じます。
食樹であるエノキは、日本在来のチョウであるオオムラサキやゴマダラチョウなどのチョウと同じであり、これらの種との競合が心配されています。
また、幼虫の見た目はゴマダラチョウやオオムラサキと酷似しており、同定間違いによる捕獲をしてしまい、分布域を拡大させている可能性も考えられます。
③調査概要とその方法
概要
近年目撃数が増加しており、分布域が拡大しているとされる特定外来生物であるアカボシゴマダラの分布を、X(旧Twitter)を利用して調査する。
方法
・Xでアカボシゴマダラの分布についての情報提供をお願いする投稿をし、集めたデータを集計する。
・情報提供だけでなく、見たことがあるか、ないかという簡単な情報を得る。そのためにリポスト機能を使い、見たことがある方にリポストをしてもらう。
④調査の様子
実際にXで調査を行いました。
第1回調査(2023/2/26)
第2回調査(2024/7/21)
⑤調査の結果
二回の調査から、アカボシゴマダラを「見たことがある」という情報は合わせて245件、場所などの情報は120件を超える提供がありました。
二回分のツイートの「いいね」の数に対するリポスト(見たことがある人)の割合は約30%で、これは決して低くない数値だと考えられます。
集計の方法
集まった情報を別に集計し、グラフにしました。
その際、分布している地域ごとの生息密度などを考慮し、目撃件数を集計する際の数字に以下のような差を付けました。
・情報提供に「多い」、「どこでも」などの数が多いことを表す言葉が含まれていた場合、情報件数を3件としてカウントする
・「かなり」や「すごく」がついている場合は4件とする。
・ひとつの場所で複数個体目撃した場合でも、情報提供件数は一件として数える。
【例】
・新宿区に二匹いた⇒情報件数は1件
・千葉県市原市ではかなり多くみられる⇒情報提供件数は4件
・東京都で2匹、神奈川県では多く見ます⇒東京都に1件、神奈川県に3件
上記のようにして集計した情報をExcelを使ってグラフにしました。また、情報提供の際に添えられていた具体的な情報の一部を、下記⑨にまとめましたので、そちらも併せて読んでいただけると幸いです。
図1 アカボシゴマダラの目撃件数
また、このグラフをもとに日本の白地図を情報提供件数別で色分けし、分布状況が視覚的にわかりやすくなるようにしました。
図2 アカボシゴマダラの分布
調査の結果、アカボシゴマダラは関東地方を中心に、北は宮城県、南は大阪府まで分布していることが分かりました。
⑥分布拡大の要因として考えられること
アカボシゴマダラは1995年に埼玉県で発見されて以降、関東地方を中心に分布を広げてきたらしく、2000年代後半には東京都や神奈川県でも個体数を増やしていたとのことです。
初確認から約30年の時を経て、今や関東地方のみならず、東北地方や中部地方、さらには近畿地方まで分布を広げていることが今回の調査を通して明らかになりました。
では一体なぜここまで分布を拡大したのでしょうか?
考えられる原因はいくつかあります。
繁殖力・生命力が強い
考えられる原因の一つ目に挙げられるのが、やはりその繁殖力の強さです。
私もアカボシゴマダラが定着している地域に住んでいますが、エノキの木ではたいてい幼虫の姿を見かけます。
また、特定外来生物に指定される前は飼育したこともありますが、比較的飢えに強く、少ない餌でも成虫になることができる昆虫でした。また、50匹以上は飼育しましたが(100匹かも)アカボシゴマダラは寄生率がほかのチョウ類やガ類に比べるとかなり低く、私の飼育下では寄生されていた例はありません。また、野外で観察をしていても、寄生されたと考えられるものが少なく、アカボシゴマダラに寄生する寄生昆虫が少ないこともアカボシゴマダラ増加、ひいては分布の拡大の理由の一つになっていると考えられます。
地球温暖化の影響
前述のとおり、アカボシゴマダラの日本在来の個体群(アカボシゴマダラ奄美亜種)は主に奄美大島などの鹿児島県の島に分布しています。また、その他の亜種も台湾などの比較的亜熱帯気候区域に分布していることから、アカボシゴマダラは本来南方系のチョウであることが推測できます。
しかし、近年の地球温暖化の影響で、冬の気温が本来アカボシゴマダラが定着できない(越冬できない)温度だった地域の気温が上昇したことで、より高緯度地域に、より高標高の地域へ分布を拡大したのではないかと考えられます。今回の調査では、高緯度地域では宮城県や山形県、高標高地域では長野県や新潟県での目撃情報がありました。
このような気温上昇によるチョウの分布拡大、定着の現象は、アカボシゴマダラのみならず、各種の昆虫で起こっています。最近ではソテツを食べる外来シジミチョウであるクロマダラソテツシジミや日本在来のアゲハチョウのナガサキアゲハも分布域を拡大、北上させているとのことで話題となっています。
このようにして、近年問題視されている地球温暖化も、アカボシゴマダラの分布域拡大の原因になっていると考えられます。
競合が少ない
アカボシゴマダラは関東地方を中心に分布域を拡大しており、関東地方ではかなりの数が生息していることが分かりました。今回アカボシゴマダラの目撃例が一番多かったのは東京都です。東京23区内の情報が最も多く、人目に付きやすいところに生息していることがうかがえます。このような都会では、食樹のエノキは植え込みの中に混じって生えていたり、公園に少し植えられている程度です。このような環境では同じエノキを植樹とするオオムラサキやゴマダラチョウは生息することができません。彼らは「里山」と呼ばれるよう、都会から少し離れたところに多く分布しています。そのため、アカボシゴマダラは東京のエノキの葉を独占できます。また、少ない餌で育つことができるというアカボシゴマダラの特徴も餌が少ない東京で有利に働いた結果、東京大都市圏内での個体数を増加させているのだろうと考えます。
⑦疑問点
調査を通して、アカボシゴマダラの分布状況をある程度つかむことができました。その中でいくつかの疑問が生じました。
近畿地方での飛び地的な分布
図2をご覧いただくと分かるように、アカボシゴマダラが分布している近畿地方の府県は、大阪府、京都府、奈良県です。しかし、これらの府県はアカボシゴマダラが分布しているほかの県と隣接しておらず、地図上ではこの3府県が孤立したような状態になっています。
考えられる理由としては、
(1)実際は三重県や滋賀県などにも分布しているが、調査ができなかった
(2)近畿地方産のアカボシゴマダラは関東地方周辺の個体群と別のものである
(3)放蝶などによって人為的に放たれたものが定着した
の3つが挙げられます。このうち(2)についてはアカボシゴマダラの亜種が4つしかないことや、本州産定義亜種以外の亜種は九州以南に分布していること、この3府県だけに飛来し定着することは考えにくいことなどから可能性が低いと考えられます。
残りの2つの考えについては現時点での情報が少なく、明確な回答を出すことが難しいので、今後の課題にしていきます。
東北地方などの高緯度、高標高地域での分布
アカボシゴマダラは宮城県、福島県、秋田県などの東北地方や、長野県や新潟県などの比較的標高が高い都道府県でも目撃情報がありました。
これらの地域でアカボシゴマダラは越冬できるのでしょうか?
夏季は気温が高くなるため、本種も繁殖が可能だと考えられます。しかし冬季は多くの雪が降ります。そんな環境で本種が越冬できているのかどうかは不明です。
夏に北上して繁殖するが、冬の寒さに耐えられず死滅する。そのようなサイクルを送っている可能性も十分ありうると考えます。
⑧まとめ
今回の調査を通して分かったこと、考えられたことは以下の通りです。
(1)アカボシゴマダラは関東地方を中心に北は宮城県や秋田県、南は大阪府や奈良県まで分布している
(2)近年のアカボシゴマダラの急速な分布拡大には、本種の生命力が強いことや地球温暖化の影響が考えられる。
(3)競合他種がおらず、餌のエノキを独占できている
(4)近畿地方には飛び地的に分布している。
以上がこの調査のまとめになります。
⑨提供された具体的な情報
情報を収集した際に、具体的な情報も添えて情報をくださった方が多数おられましたので、以下にその一部を地域別に記載します。
東北地方
【福島県】
雑木林、浜通り、会津北部、いわき市
【宮城県】
岩沼市
関東地方
【東京都】
国立駅周辺、文庫の森、新宿御苑、城門の村、荒川など多数
多摩地区では10数年前には普通種だった
【埼玉県】
狭山丘陵、蕨市、公園の雑木林、大宮市
【神奈川県】
菅北浦緑地、江の島
【群馬県】
前橋市、渡良瀬遊水地
2010年に前橋市で初確認した。
【千葉県】
千葉市某貝塚、市川市
【栃木県】
思川流域、那須塩原市、
【茨城県】
那珂川流域、つくば市
中部地方
【山梨県】
甲府市、オオムラサキより見る機会が増えた
【岐阜県】
雑木林近くの住宅街
【長野県】
塩尻市の県有林
【愛知県】
岡崎市、海沿いの森
【静岡県】
「静岡にはめちゃくちゃいますよ….」
伊豆町、河津町、熱海市
近畿地方
【大阪府】
山間部で定着しつつある。放蝶の可能性もある。
四條畷市
【奈良県】
複数の地点で遭遇した
ほかにも複数の情報をいただきました。詳しくは調査の投稿のリプランをご覧ください。(調査の投稿のリンクは④にあります)
⑩参考にしたサイト
環境省 特定外来生物同定マニュアルhttps://www.env.go.jp/nature/intro//2outline/manual/6hp_konchurui.pdf
国立研究開発法人 国立環境研究所 侵入生物データベース
https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/60400.html
ZUKAN アカボシゴマダラとは
https://www.zukan.earth/descriptions/1/563871
⑪反省
今回のような調査は私自身初めての取り組みだったため、至らない点も多くあったと思います。
情報を収集してから発表するまでの時間や、情報処理の正確性など、改善出来ることは沢山あるので、今後に繋げて行きたいと考えています。
また、間違っていることや、今後のためのアドバイスなどありましたら是非教えて頂けると嬉しいです。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
今後とももっちをよろしくお願い致します。
2024/11/10