見出し画像

【学生落語大会日記】第22回策伝大賞を終えて

本記事の概要と注釈

岐阜県で行われた学生落語最大の大会、「策伝大賞」について。
私自身は、学生落語から身を引く前の、最後の大会。
大会の名前を使った仰々しいタイトルを付けたが、ただ一人の予選落ちの雑魚の言う事なので、期待せずに見ていただけると有難い。
また、時系列順に話を進めるため、大会について知りたい方は1日目、決勝については2日目まで飛ばして頂ければ。
感銘を受けた落語について述べさせてもらう部分があるが、もし上から目線に映ったら本当に申し訳ない。


0日目


起床、朝6時30分。
男の朝の準備なんて無いに等しいので、すぐに終わってしまう。
代わりに、旅行の為のプレイリストを作ってダウンロードをする。
ポッドキャストも忘れずに。

朝の地下鉄でのスーツケースは、場所を取りすぎていて申し訳なくなる。


博多駅はいつも通りクロワッサンの香りで満ちていて、早起きは悪くないなぁと思う。
旅行の時の朝ごはんは、いつになれば適量を買えるようになるのだろう。
寝ぼけていて、はかたろうのおにぎり弁当に、コンビニおにぎりを買っていた。
早起きは、ちょっとだけ悪いかもしれない。


福々亭兎子(うさこ)、福々亭茶々匁(ささめ)の二人と合流して、新幹線へと乗り込む。

そそくさと朝ごはんを食べると、パソコンを開いて小説の続きを書き始める。
気持ちは蓮見水族館。

横の二人は関西学院さんとの合同寄席直後なので、だいぶ疲れている様子。
すやすやと寝ていたので会話は無く、ただ山口広島岡山を、淡々と通り過ぎていく。
無我夢中で2000字程書いたところで、新大阪についたので乗り換える。

乗り換え後、今度は台本を開き、落語に集中する。
録音した自分の落語を聴きながら、細かな改善案を練る。


気付いたら新幹線は岐阜羽島駅に着いていた。
ペコペコのお腹を抑えながら、岐阜羽島駅から名鉄で岐阜駅へ。


岐阜のポーズ!


ついたぞ!!!

一年ぶりだな!!!

お世話になるぜ!!!


茶々匁は別行動。
たまたま会ったらしく、一八四さんとお出かけ。
いいなぁー。


golden chiken

こちらは兎子とホテル横のメキシコ料理屋へ。
通りかかったときに、たまたま出てきた2人のサラリーマンが「美味かったっすねぇ」と言っていたので、とても期待していたお店だ。

なんかブレてるし、真ん中じゃない。

野菜たっぷりで、健康優良ランチ。
スパイシーな味付けが癖になる。
スモークチキンに小骨が多く、お行儀良く口を手で隠すなどして上手く食べていたが、途中からめんどくさくなって二人ともがぶがぶ食べ始めた。


せっかくなら神頼みだということで、お店の向かいの縣神社に参拝。
いつになく丁寧に、2礼2拍手1礼。

ご利益を見ると、「子どもが長生きする」とあった。
文章のご利益初めて見た。
「子孫繁栄」とか「五穀豊穣」とか、普通四字熟語じゃない?



腹は満ちた。
去年時間がなくて行けなかった岐阜城へ。
兎子が関西学院との合同寄席の思い出を楽しそうに話すのを聴きながら向かう。

旅行初日にお金を使いすぎるのは怖いので、ロープウェーの値段が高かったら、乗るのを止めようということで合意。
そこでロープウェーの値段を予想。

兎子(予想)→1000円
十(予想)→1200円

1300円

1300円…

まあ、乗るか。
イベント事に、私は弱い。


ロープウェーが意外と速い。
風に揺られながら登っていくので、まあまあ怖い。


岐阜のポーズ!
(もう一回!)

着いたぞ!!


かっこいい!!

かっこいい!!


綺麗!!

綺麗!!


馬鹿観光。


時間は閉門ギリギリ。
説明を読み飛ばして天守に登ったので、信長が築城したことを全く知らなかった。
そのため、途中で木造の信長像が出てきたが「お前だれ!!」と2人で叫んでいた。
そんな奴ら来んなよ。


移動で疲れたので、ホテルに戻って一休み。
そのあとは後輩と合流して晩御飯。


JR岐阜駅横に、ご飯所を見つけたのでそこを一周。

せーのでなにを食べたいか言う。

せーの

兎子 「とんかつ」
十  「とんかつ」
宝町 「とんかつ」
希茶句「とんかつ」
宝水神「スパイスカレー」



選ばれたのは、とんかつでした。
宝水神ごめんね。


後輩と別れ、ゆっくり帰還。
身の回りを整えたあと、兎子と見せ合い練習。
堀之内は本当に完璧な仕上がりで、声のトーンとか少しの目線とか、細かいことくらいしか言う事がなかった。
おかふいもそれなりに練度が上がってきて、感情の流れが上手くなってきたので、手ごたえがあった。
1時間もせずに煮詰まったので、早く寝ることで合意した。

こんなに待ちわびた策伝大賞が、怖くて、うまく寝付けなかった。
だが体は正直で、長い移動の疲れには勝てず、果てには倒れるように眠りに落ちていた。



1日目


兎子が扉を叩く音に慌てながら、準備をして部屋を出る。
男の準備なんて、やはり無いに等しい。
この旅行の間、私の方が早く準備する日はなさそうだ。

予選会場はホテルと驚くほど近く、歩いて5分ほどだった。
しかも道中にはセブンイレブンがあり、便利の良さに助かっていた。
朝ごはんを買うが、ここでも買いすぎた。
私はいつになったら学ぶのだろう。




昼休憩中は驚くほどじっとしてられなくて、かといって人の落語を聴けるほど余裕もないので、録音していた自分の音声とMOROHAの楽曲を交互に聞き続けていた。

出番が近くなってきて、会場裏へと移動する。


藤乃家つが瑠さんの落語が聴こえてきたときは特に緊張した。
丁寧なペース配分の本格派な語り口調で客席を沸かせていた。
津軽弁の出てくるお話だったが、最初のお名前や出身の紹介を活かして、落語の筋をマッチさせることで、落語の見方や情報を簡潔に提示し6分という短い時間に合わせていた。
凄く上手なやり方に関心した。



気付けば直前。
気持ちはMOROHAの四文銭。


お願いします どうか聴いてください
お願いします どうか聴いてください
じゃなくて 本当は
聴かせてやるぜ 有難く思えよ
なんて言えるくらい俺たち頑張ってきたつもりです
だからこそ どうか
聴いてください お願いします



気合を入れて音のならない程度に両頬を叩く。


鳩ぽっぽが流れ出し、緊張をほぐそうと少し揺れて踊ってみたりしたが、そのせいで自分の足の震えに気が付き、もう一段緊張する。











高座を後にするとき、魂が剥がれ落ちて、座布団の上に置いていってしまったような感覚を覚えた。

その瞬間に、この世界に今の自分を待ってくれる座布団はもうないんだろうなと思った。

悔しくて、廊下に大事な手ぬぐいを投げつけてしまった。
多分こういうところなんだと思う。


2年かかった。
自分には才能がない、の一言。
これを言うだけに、2年かかった。
長いなぁ。



絶対に見たかった初代飛翔さんの落語を聴くために、急いで信長会場へと戻る。
もう噺が始まっていて会場に入れなかったので、幕の外から聴かせてもらった。
本格派の質の高い声と喋り。時間をたっぷり使って喋る船頭のキャラに、6分間じわじわと笑いが絶えない。笑い所と引き付け方が分かりやすくてとても笑いやすい。
本当に面白くて、綺麗で、最高の古典で、悔しさも相まって涙が出そうになった。




ここからは生でみて凄かった方について話させていただく。


ロック座ポールさん「憧れのBAR」

会場の雰囲気が、ホームだった。
凄い。
この方が四年間作り上げた、人望や信頼のようなものが会場に詰まっていて、胸が熱くなった。
勿論噺も素晴らしい。
噺をバーの店内に固定することによって、展開が伝わりやすくなっている。
聴き手のことまで考えているような、熟考の一端が垣間見えた。
あまりにもかっこいい落語だった。


二松亭姫爆さん「現代版厩火事」

採点する師匠方が、声を出して笑っていた。

若者に特化したような題材で、師匠方を笑わすなど、簡単にできるものじゃないことは想像するには容易い。
圧巻だった。


晴陽亭十二時さん「恋のキューピッド」

やはりランチさんの恋愛の話は一級品。
キューピッドを前提に進む話は現実と乖離しすぎているように思うが、それを感じさせない演技力と構成力。
キューピッドお仕事大喜利を一つも外さず爆笑を取っていく。
ラストのドラマチックな展開を利用した笑いも、見事だった。
聴き手のイメージを上手く利用した、落語だからこそできる、充実の6分間。


ふられ亭愛狂さん「鰍沢」

お美しい!
そしてかっこよすぎる。
会場を見渡してニヤリと笑ったときに、ぐっと心を掴まれた。

良いと思ったものを、なぜ良いと思ったか、全て詰めて完璧に教えてくれるような落語。
一言一言に思いが乗っていて、会場中が一人残らず、息を呑んで食いつくように見ていた。
自身のキャラクターを理解したうえで放つ、渾身の一席に震えた。

策伝で「鰍沢」をする。
かっこいい。


彼岸亭唯一存在さん「田楽喰い」

去年も見させてもらっていたが、変わらずとにかくテンポがいい。
客席が全てリクライニングシートになったような心持。

インパクトのある見た目から、正統派古典の美しさ。
間違いなくどこかの決勝で見ることになるだろう。


一八四さん「真田小僧」

「いやよいやよも すきのうち」

まさか聴けるとは…。
M-1グランプリで真空ジェシカが「智治さーん」をした時と同じ感動。

熟練の真田小僧はやはり綺麗でかっこいい。
流れるように演じるが、きちんと引っ掛かりを作って印象に残す。
改めて、とても基本に忠実な方だなと思った。


境屋悧怜さん「権助提灯」

学生が「権助提灯」を古典でやり通したとき、最高到達点はここだろう。

卓越した細かい技術。
特に、最初に妾に振られたときの首の振り方には感嘆した。
あそこまで美しくやられたら、もう気持ちがいい。

終盤にかけての盛り上がりも素晴らしい。
ジェットコースターのように聴き手が乗せられて振り回されていく、爽快感。

策伝の決勝進出者発表が協議で遅れたというが、間違いなく悧怜さんのせいだろう。





時間があったので、一度ホテルに帰る。
兎子には、あなたは決勝に残るだろう、練習通り綺麗な落語をしていてすごかった、と言うとまんざらでもない顔をしていた。



決勝進出者は御覧の通り。

決勝進出者発表は淡々と行われた。
万馬さんのエントリーナンバーが読み上げられた瞬間に、信長17番の私は天を仰いだ。

兎子は残るだろうと思っていたので、名前が呼ばれたときに、腕組み頷きという、キモムーブをしてしまった。
放送されるのだとしたら、私だけ綺麗に切り落としてほしい。

東家四街さんの名前がよばれたときは、自分でも驚くくらいのガッツポーズが出た。
嬉しかったなぁー。
自分ごとのように嬉しいとは、こういう事なんだろうなと思った。






会場の一階で銀杏亭逸福さんとお会いした瞬間に、悔しさで涙が出た。
「兎子さんおめでとう。でも悔しいねぇ」と優しく声をかけてくださって、余計に涙が出た。



打ち上げ会場のビアガーデンの道をゆっくり歩く。

あまりに長い。
繰り返した後悔と反省が無に消えていく感覚があまりに苦しかった。


去年の策伝大賞の打ち上げで泣いている方々を見て、ここまでやれたら幸せだろうな、と思っていた。

結局、自分は泣いただけだった。
ただひたすらに、ボロ負けして、泣いただけ。

あああくうやしいい。

幸せなんて場所に到達させようには、この悔しさはあまりにも重すぎた。



1.5日目


ビアガーデンに着く前に、泣けるだけ泣いたのでスッキリしていた。

おしまいだぁー!飲むぞぉー!
…とはしてられない。

冷えたグラスにビールを注いだら、片耳にイヤホンをして、決勝進出者のアーカイブをひたすら見る。



でもお話はしたいなぁ…

ファンとして尊敬している先輩方に挨拶をすると、一個気が抜けて、いつの間にか喫煙所へ吸い込まれてしまっていた。

息ついて外をみると、弘道さんが駆けまわっていて、そういうところが愛される理由なんだろうなと思う。


宇田川鶏市さんが「おかふい」を選んだことを面白がってくださり、声をかけてくださった。
素直に嬉しい。
声をかけてくださるのなら、輪をかけてこの噺にしてよかったと思う。

桂福丸杯でお会いした味覚亭ゑん磨さんをはじめとする方々にも挨拶させて頂いて、とても充実した時間だった。


決勝進出組が会場にやってきた。
眩しい。

決勝進出者の挨拶が始まり、一人一人に拍手が送られるとき、やはりここに居れてよかったなと心から思った。


兎子には密着カメラがついていた。
お名前を田中さんと言うらしい。

兎子が10時に出るというので、同行。
飲み足りない!とは言ってられない。
決勝進出者の傾向や雰囲気、兎子の予選の様子をもとに話を進める。


ホテルに戻ると、そのまま練習。
くだりを追加して喋るように言うと、すらすらと1つくだりが出てきたので、そこだけ追加することで合意。
あとは細かい所の修繕と、タイム感を覚える練習だ。

兎子のすごい所は、やはりタイム感。
この時、三度通しで喋ってもらったが、時間はそれぞれ
「5:40」「5:38」「5:41」だった。
ズレは脅威の二秒のみ。
これができる人は早々いないだろう。

そして吸収力も段違い。
1つ指摘をすると、1回でばっちりと合わせてくる。
それを2回目でも忘れない。
いやぁ凄い。
惚れ惚れする。


最後にインタビュー。
2人で5分ほどインタビューを撮り、そのあと兎子のみで10分ほどだった。

田中さんが帰った後、気を付けるポイントを復習。
練習をするには体力がないかも、とのことだったので、休むことを優先した。



まだ寝れないなぁと思い、簡単な荷物で表へ出る。
夜風は手の先を冷やすが、顔回りはそのままなようで、気が利かない。

途中にたこ焼き屋を見つけたので、買って帰ることにした。

お兄さん1人でやってた。
お疲れ様ですね。

お腹がいっぱいになると、眠くなるのは自然の摂理で、抗うこともなく眠りについた。


2日目


8時ちょうどに起きた。
前日飲みすぎたので、ひたすらに頭が痛い。
シャワーを浴び、入念に歯を磨いて部屋を出る。

兎子と歩いて会場に向かう。
おにぎりのCMソングを作ってみたり、中臣鎌足が後輩だったときの感じを思い付きで再現してみたり、ただしょうもないことを喋りながら歩いた。
緊張をほぐす仕事は出来ていただろうか。
会場近くの信号を渡った時、密着カメラの田中さんが前から撮ってくれていた。緊張をほぐすように、昨日寝れたかどうかや、朝ごはんなどのことを聞いていて、緊張をほぐすってこうやってやるんだなと知った。
全然、後輩の中臣鎌足じゃなかったわ。
決勝関係者は9時半に集合だったため、そこまで練習しようとしたが、あまり余裕が無かったため、1度通しから軽くアドバイスで終わった。
特にいう事もなく、昨日の夜にブラッシュアップしたことをより良い精度に昇華出来ていた。流石だ。

やることがおわり急に暇になったので、ラジオクロワッサンのそうめんの話を聴きながら移動。
去年体験できなかった、念願のカフェのモーニングとやらへ。

決勝会場から5分ほど歩いたお店を訪問。
お客さんはお年を召した方が殆どかと思いきや若い人も結構多くて、店内は賑わっていた。


これがタダで付いてくる!?

写真が美味そうだったので、フロストコーヒーを注文。

トースト半分・サラダ・ゆで卵・みかんゼリー。そして追加のドーナツ。
健康すぎる。
うまそー。

まずはトーストをかじる。
SEのような軽い音が八重歯のあたりから広がって、耳の奥まで響く。
サラダで口の中を整えたら、念願のフロストコーヒーを、一口。
ホイップの控えめな甘さが、疲れた体に沁みる。
ドーナツはほんのりと蜂蜜の香り。
唇についた上白糖を右端から順番に剥ぎ取るように舐める。
今度はフロストコーヒーのホイップをすくい取り、トーストの歯型の部分に押し付けるように塗りたくる。スプーンにはっ付いて残った少しのホイップも勿体ない。舐めてしまおう。

氷と一体化するようにして温度が下がり固くなったホイップを、コーヒーを混ぜて無理やり溶かし、飢えた喉に流し込むと、いつのまにか念願のモーニングは目の前からなくなっていた。

これは…おれがやった…のか… ハアハア

私が食べました。
美味しかったです。


途中のなんかよかった公園。
和風。



「みんなの森」はずっと気になっていた。
明らかに綺麗な建物。市民のための施設が、かっこいいという理由で観光資源にもなっているのはすごい。

マジで綺麗。
白を基調とした繊細な模様の張り巡らされた図書館に唸った。
円形のソファ席には、笑話施亭二郎さんが座っており、きちんと勉強をしていた。
あとから聞いたら、追試のレポートらしい。頑張ってほしい。


11:30に会場集合。
兎子が慌ただしそうに登場。
その後ろには田中さん。
友人が遠くから密着されながら近づいてくるのが、今更だが意味分からなくて面白かった。
市役所横のベンチで、最後の調整。
繰り返し練習したおかげで入りが板についてきたが、慣れと焦りのせいなのか兎子には珍しくペースが速くなっていたので、序盤を焦らずに丁寧に、ひとつひとつ進めるように言うと、それで合致した。

福大の先輩後輩とも合流して開場。
一宝さんが南山大学の方から頂いたチケットが、福大一行と少し離れていた。
身内を気にせずに集中して落語が見たかったので、頼んでそっちに座らせてもらった。


しばらくして、決勝が始まった。

ここからは感想。



一 東家四街さん「鈴ヶ森」

慣れない会場に丁寧なまくらで場を温めた後の会心の6分。

トップバッターとは思えないウケ量。
広めの舞台に映える、大きめの動作のひとつひとつで笑いが起きていて凄い。
スピード感のある展開と話振りだったが、一人もお客さんを置いていかずにオチまで走り切ったのは、間違いなく喋りの高い技術に裏打ちされたものだろう。
鈴ヶ森の面白ポイントの強調の仕方が見事だった。
丁寧な台本の上のおかげで成り立つ、表面上雑に見えるがきめ細やかで丁寧な落語はとても面白かった。


二 二松亭姫爆さん「現代版厩火事」

やはり面白い。
何度見ても、最初の礼までの「0秒目」の戦い方が、とても上手な方だなぁと思う。
自分を客観視したときの、見た目から得られる印象を全て知っていて、それを最大限活かすことで、大会の短い制限時間に合わせた、コンパクトながらにインパクトの強い掴みを作っている。
桂福丸杯のときは、華のある見た目から色っぽい話に繋げることで目を引いていたが、今回はまた違うアプローチで攻めていて、引き出しの多さに感心せざるを得ない。
今回は歩き方と挨拶を真面目に見せることで、「ホットペッパービューティー」の一言で作れるギャップの幅を最大化しているように見えた。

そこからの展開も見事。
情報が多くて説明チックになりそうな美容室の会話の場面で、タイトに瞬発的な笑いを入れ込んでいて、飽きる瞬間を1つも作らなかった。
後半も怒涛の展開ながらに新規の情報が少なく、聞き手の負担も少なく楽に聞き続けられていた。
一階席の笑いが段々と増えていく。
年齢の大きく離れた難しい客層の、どちらにもアプローチするバランス感覚が素晴らしい。

とにかく制限時間の中で出来る最大のことを余すことなく行っている。
間違いなく、学生落語賞レースの不動の女王として君臨しているように見えた。


三 福々亭兎子「堀之内」

ひたすらに完璧だった。

台本が出来た時からここまで、全ての注意ポイントをミスなくこなしていく。
テンポ感もばっちりで、どこを切り取っても笑いのない部分がない。
最大限のパフォーマンス。

「あらそう?なんだかワクワクしてきたわね」
見事に決まっていた。
兎子にしか出せない一言。

世界平和!で爆笑を搔っ攫う姿はかっこよかった。

よくぞやり遂げてくれた。


四 四笑亭丸慧さん「お見立て」

圧倒的な台本。
これに尽きる。
聴き味は、改作ではなくて「古典」だった。
そのくらい長年色んな人の手でブラッシュアップされてきたような、無駄のない美しい台本構成。
それを一人で作って、しかも6分に収めているとは…。

誰がやっても面白そうなこの噺を、丸慧さんのプレイスキルによって、独自のより高いレベルまで持ち上げている。
また、男前な見た目からは難しそうなお大臣のキャラクターを、キレのある演技力で見事に演じている。
ピンク色の着物にすることで、お茶らけたキャラを見やすくしていたのだろうか。
どこまで計算されているかは知りえないが、卓越した話しぶりに感服せざるを得なかった。


五 燻川木っ葉さん「死神・改」

溜めて溜めて溜めて…一気に放つ!!
最終兵器のような落語。

お客さんがついていくには難しそうな、登場人物4人、場面転換が2回という慌ただしい落語を、小気味のいいテンポと軽快な語り口で、無理やり感なく纏めている。
情報の取捨選択が巧みなのか、これだけ情報が多いのに、無駄がひとつもない。
決勝進出発表の時に仰っていた、「誰よりも台本に向き合ってきた」という発言がうかがえる素晴らしい台本。
まさに最終兵器。
終盤の怒涛の伏線回収で爆笑が起きるという事は、序盤に詰めた情報が完璧に伝わっているという事の証明だ。

5番という聴き手の集中力が切れてくる難しい順番で、想像を超える精度で聴き手を引き付ける、高い技術を見せてもらった一席。


六 葵家万馬さん「玉置そば」

間違いなく、今大会のMVP。
圧倒的だった。

玉置浩二のモノマネという、一見飛び道具のような落語。
だが、「玉置浩二さんを落語の世界に殴りこませた、玉置そばという落語でお付き合い…」から「そばぁ~」の売り声までの迅速な移行による完璧な掴み。
玉置浩二が歌い出す前の期待させるような空気の作り方。
そして何より、そばを作るときの所作。

玉置浩二を引き立たせるための、周りの技術が巧みで素晴らしい。
落語本来の腕に裏打ちされた面白さだ。

サゲを、「見つめてたよ」で終わらせる、憎さ。
余韻の作り方まで完璧な構成。

玉置前、玉置後で、圧倒的に会場の空気が違った。
この方にはどこまで見えていたのだろうか。


七 扇屋なん輔「擬宝珠」

なん輔さんは何度見ても、ズルい。
こんなの面白くない訳がない。

桂福丸杯の「蚊いくさ」もそうだが、我が道を行く!というその独自の道が、強固すぎる。
どんな乗り物を持ってきても、絶対に事故が起こらないような、完璧な道を舗装してしまった。

1つ1つのワードチョイス、コミカルな世界感から誰もおいていかないテンポ。
そして一番すごいのが、一つも難しくないこと。
独自の世界に入り込むと、煮詰まって難しい単語や状況を作ってしまいそうだが、シンプルで簡潔に説明できる状況で常に話が進んでいるのが凄い。
今回は、塔の上と下という乖離した2つの映像を、塔を上ったり落ちたりする、間のシーンを入れることで、1つの映像として見せていた。
場面転換にも工夫が施されていて、抜かりの無さに驚かされた。


八 葵家竹生さん「胡椒のくやみ」

文句のつけようのない、大賞。
玉置そばの作った、聴き手の空気感に見事に乗っかって走り切った。

ポンの助登場の瞬間の爆発は凄い。
年齢を問わず、会場中の全員が笑っていた。

本格的な落語を、決勝のトリでやり切る。
古典の枠を逸脱せずとも、最大限のパフォーマンス。
耐え難い重圧を見事振り払った会心の一席。

素晴らしいものを見させて頂いた。

本当におめでとうございます。





決勝が終わりしばらくたった頃、兎子が泣きながら出てきた。

悔しかったらしい。
凄いな。
賞まであと一歩という体感があったのだろう。

自分の能力不足のせいで、上手くプロデュースをできなかったと思い、兎子に「ごめんなさい」と言うと、兎子は「ありがとうございました」と言ってくれた。

そこで私の二年間は救われたような気がした。
到底たどり着けない明るい場所を、見せてもらった。



2.5日目

ホテルに帰ってシャワーを浴びると、少し冷静になれて、自分の落語に興味が湧いてきた。パソコンを開いて、見てみることにした。

敗因はやはり明らかだった。
結局、想定していたテンポ感を全くつかみきれずに終わっていた。
3分くらいの鼻を落とすシーンで、客席の半分が引いていたのは誰よりも分かっていた。
シリアスとコミカルのバランスを取り持つには、明らかに技術が追い付いていなかった。
明確に負けた。

だが、春風亭かけ橋さんが実況席で、「こういう落語を選ぶ人とは、友達になれる。よく見つけてこれで戦おうと思った」と言っていて、この噺で戦えてよかったと思った。
自分なりに色々と考えて、残ったのがこの噺だった。
福丸杯の「まめだ」といい、自分の面白いに忠実に向き合ってきたつもりだったので、自分のやりたいことの片鱗が、少しでも伝わったような気がして嬉しかった。


部屋で一人寂しく小説の続きを書いていると、逸福さんが飲みに誘ってくださったので、すぐに合流する。

阪大さんと少し散歩をした後、市ヶ家猿坊一行と合流。

横になって話す花零くん

笑話施亭二郎さんに「兎子に申し訳ないと思っている」と言うと、「十から見て穴は無かったか?」と聴かれた。
「穴は無かったが、私の実力不足で見つけられなかったんじゃないか」と言うと、「俺の目から見ても穴は無かった」と言ってくださった。

救われた。

そのあとも色んな方が兎子の落語を褒め倒してくださって嬉しかった。


猿坊くんを中心に二次会がスタートして、5時まで続いた。


田町家翠くんが可愛くて、同郷だということもありずっと喋っていた。
いい子だねぇ。すくすく育ってほしい。

酔って横になっている二郎さんに覆いかぶさるようにハグをして帰る。

色んな方や新たな出会いに感謝しながら帰る道の街灯は、寒空の下で温かく光っていた。



3日目


頭痛い。
兎子に扉を叩かれて、寝起きの朦朧としたままで返事をしていたら、朝は別行動ということになってしまっていた。
間違いなく私のせいだが、寂しいなぁ。

急いで荷物をまとめたが、特に行きたい所もなければやりたいこともない。
ブラブラし始める。

商店街はマルシェをやっていて、少しずつ活気が出てき始めたところだった。
古着屋さんは早めに出店して物も並んでいるが、パン屋やコーヒー屋はまだのよう。
どんなお店が並んでいるのか、またいいお土産になりそうなものはないかと思い、マルシェをぐるっと一周したところで、なにか面白そうなものを見つけた。


やながせ倉庫

オシャレで可愛い雰囲気。
ひと1人分の幅の狭い廊下を、スーツケースを押しながら進む。

突き当りに、興味を引くコーナーが。

交換日記!

可愛い!

本物!?
二行に分かれたおいしくるメロンパン、初めて見た。

古着屋やレザークラフトのお店が軒を連ねるそのなかに、面白いお店があった。

やながせ団地倉庫と言って、様々なクリエイターさんの販売施設になっているようだ。
夢や日常が詰まっていて素敵だった。

かわいいお部屋も


カフェを見つけたので入ってみる。

クレヨンで書いたポケモン
斜め!
おもしろい!!
おっしゃれ!!

店内では、高橋アキの「クセナキス」のレコードが流れていた。
現代音楽とこんなところで出会えるとは。

キーマカレーはとても美味しかったし、セットで頼んだ辛口のジンジャーエールも特別感もあって非常に良かった。


待ちに待った「春待ち落語会」は、とても面白かった。
第一線の先端で活躍し続ける師匠方のパワーが凄かった。
桂文枝師匠の「妻の旅行」はとても好きだった。

何度も息を呑み、何度も笑い転げた。
凄い時間だった。




全てが終わった帰り道。

兎子に対する師匠方の講評のよかった点が、私の言っていたことと丸被りしていたらしく、それを教えてくれた。
とてもうれしい。
自分の見る目が間違ってなかったと、勘違いする材料としては十分だった。

ありがとう、と言うと、こちらこそ、と言ってくれて、それだけで救われた。


先輩の一宝さんが誘ってくださって、三人で飲んだ。
二人の話を全部肯定して、ゆっくり聴いてくださった。
自分の大学の安心感ってすごいなぁ。


名鉄で岐阜羽島。
新幹線がギリギリだったので、勢いでお土産を買いまくり新幹線へ走る。



行きと同じように小説を書こうとパソコンを開くが、フィクションよりもノンフィクションがどうしようもなく楽しくて、おぼつかなかった。


新幹線を降りたホームに茶々匁もいた。
同じ便だったらしい。

主催の後夜祭でウケたそう。
茶々匁の新作がウケるのは嬉しい。
お疲れさん。






地下鉄七隈線に乗る。



最寄りまでの間、ふと顔をあげると、黒い窓に満足気な自分の顔が映る。



ああ楽しかった。







宣伝

そんな福々亭十の落語は後2席のみとなりました!!

1 マイ・ソーダ・アゲイン・ソーダ

主催:晴陽亭十二時

最初で最後の新作落語。

東京で、念願の晴陽亭十二時さんとの共演です!

やったぜ!!

どれくらいランチさんが好きかはここで熱弁しています。
合わせてこちらも!


2 2年が7人で九州落語会

主催:福々亭兎子

学生最後の落語。
気合を入れて、一番思い入れのある噺をします。
よろしければお越しください。



そしてもうひとつ!

3 東屋四街独演会

ゾゾさん独演会に、弾き語りで出演させて頂きます!
遠くの落研さんに音楽の姿を見てもらうのは初です。
是非お越し下さい!!



最後に

ここまで読んでくださって、ありがとうございました!
アーティスト「もつ鍋you」、並びに、アマチュア落語家「十」をどうぞよろしくお願い致します。

学生落語家のみんな!
愛してるぜ!



創作活動に関して、普段はもつ鍋youとして福岡を拠点に音楽活動中。福々亭十として福岡大学落語研究会で落語、漫才、コント。趣味では戯曲の執筆をしています。
少しでも気になる方は是非SNS等覗いてください。
また、月額200円で毎日更新の有料記事を全て読めるメンバーシップも開設しています。
そちらも是非よろしくお願いします。

X(twitter):もつ鍋you/福々亭 十(@MotsuYou_ten)/ X
instagram:@motsu_you
YouTube:もつ鍋you - YouTube
Email:yuki12asa@icloud.com

いいなと思ったら応援しよう!