誰もが吹奏楽を楽しめる世界を目指して
こんにちは、もとこです!
第2回の音楽人インタビューにご登場いただくのは、クラリネット演奏家、そして『管楽器能率練習コーチ』の浅原ルミ子さん。
「ん?管楽器能率練習コーチとはなんぞや??」
と思ったそこのあなた、この記事ぜひ読んでもらいたいです。
そう、浅原ルミ子さんは、”普通のクラリネットの先生”ではなく、『能率練習コーチ』、つまり、”管楽器の練習方法を教えてくれる先生”なんです。
そしてその対象は、全ての吹奏楽部の学生さんや、社会人の吹奏楽プレイヤーさんたち。
ご自身も中学校の吹奏楽部でクラリネットを始めたルミ子さん。
15年近くアマチュアとして活動したのち、”日本の吹奏楽を変えたい!”
という思いに突き動かされ、35歳でオランダのユトレヒト音楽院に留学。
2018年末に帰国され、現在の演奏・コーチング活動を始められました。
モットーは、“日本一アマチュアを理解するプロ”。
自身のアマチュア時代の経験とオランダで学んだ専門性を掛け合わせてこそ生み出せる、オリジナルなコーチングが、『管楽器能率練習コーチ』としてのご活動なんです。
実は私、大学時代の終わりにルミ子さんと出会い、コンサートでの共演やアンサンブル練習の手助けまで、いろいろとお世話になった経験があり。
将来の進路に迷ってもいたその時期、いつもエネルギーに溢れ、自分の信念を貫き通されているルミ子さんには、たくさん刺激をいただきました。
そんなルミ子さん、クラリネットの演奏ももちろんとっっっっても素敵なのですが。
今回はあえて、ルミ子さんの"管楽器能率練習コーチ"としての活動の詳しいところを改めてフカボリさせていただきたく、インタビューを依頼しました。
管楽器能率練習コーチ誕生の経緯、そこにある情熱。
そもそも、日本の吹奏楽部の課題って、いったいどんなものなのか。
そして、コロナ禍で吹奏楽プレイヤーに伝えたいことまで。
吹奏楽をする人に、そして楽器や音楽が大好きな人にもぜひぜひ聞いてもらいたいお話をたくさんいただきました。
浅原ルミ子
秋田県羽後町出身。「日本一アマチュアを理解するプロ」をモットーに、 社会に生き社会を活かす音楽家として活動中。中・高吹奏楽部経験の後高卒就職。アマチュアとして演奏活動を継続する中、オランダの社会人吹奏楽団、聖ミカエル・トールン吹 奏楽団に衝撃を受ける。日本の吹奏楽や管楽器教育に変革が必要と考え、その学びのために社会人からの音楽留学を目指す。2年間の準備期間を経て、2014年に35歳でユトレヒト 音楽院(オランダ)に入学。在学中はコンセルトヘボウでのランチタイムコンサート出演やPodium Witteman(現地日曜夕方のテレビ番組)にて生演奏。2018年に卒業し、帰国後は社会人演奏家と学校吹奏楽部のための能率練習と吹奏楽ライフバランンス向上のため に活動中。人間らしく自分らしい自由で闊達な音楽活動を広めることがミッション。猫好きの広島カープファン。
(詳しいプロフィールはルミ子さんのブログにもありますので、ぜひご覧ください!
→【浅原ルミ子/音楽家、管楽器能率練習コーチ、上達メンター、吹奏楽ライフバランス研究家】)
目次
自分のように苦しむプレイヤーの力に
”知る”を深めるコーチング
誰にでも、”音楽を学ぶ権利”がある
日本の吹奏楽を、もっと良い文化に。
コロナ禍で、吹奏楽プレイヤーに伝えたいこと
自分のように苦しむプレイヤーの力に
もとこ「ルミ子さんのコーチングでは、主に楽器の本質的な練習の方法や、音楽の根本的な捉え方についてのサポートを行っているのですよね。
そもそも、ルミ子さんはどのようにしてこの”練習コーチング活動”をするに至ったのでしょうか?」
ルミ子さん「1番最初に訪れた大きな転機は、オランダに留学してまもない頃です。そこで初めて、“自分は練習の仕方を全く知らなかった”ということに気づいたんです。
というのは、自分は、何か曲を練習するとある程度のクオリティまでは上達できるけれど、そこから先のレベルにどうしても行けないということにすぐに気がついたんです。
また、オランダでの1週間の持ち曲は10曲近く。それまでに比べて一気に多くなったことで、自分がアマチュア時代にやってきた練習方法ではとても対応できないことに気づいたんですね。
そこから、
楽譜って、どう読み進めて行けばいいんだろう?
どのタイミングでテンポを上げていったらいいんだろう?
どのくらい吹けたら先生に聞いてもらうべき?
どこまでできたら次のレベルに進んでもいいんだろう?
と、様々な疑問が湧いてきて、練習について常に考えるようになりました。
そしてさらに、『自分と同じような吹奏楽部出身者の中に、練習の仕方がわからなくて困っている人がたくさんいるのではないか?』と思うようになったんです。
私のように中学校の吹奏楽部で管楽器を始めた人は、大抵始めに楽器を教わるのは部活の先輩なんです。そして、ほとんどの人が専門家のレッスンを継続的に受けることはありません。そのため、吹奏楽部出身で、楽譜は読めないのに楽器は吹ける(ドレミはわかるけれど、リズムが読めないなど)、という状態の方が一定数います。これは、学校に講師の先生が来てくれたり、個人でレッスンに行ったりしないと改善できないことがほとんどです。
一方で、日本の吹奏楽部は数えきれないほどあり、管楽器のプレイヤー数自体はとても多いです。
もっと上手くなりたいと思っているのに、
“練習の仕方が分からない”
もしくはオランダに行く前の自分のように、
“練習の仕方を知らないことすら、知らない”
オランダでたくさんのヒントを得た自分が、こういった人たちの力になりたいなと。それが今の活動を始めるに至った経緯です。」
『知る』を深めるコーチング
もとこ「やはり、オランダ留学での経験が大きなきっかけだったのですね!具体的には、どんなコーチングをされているのですか?」
ルミ子さん「私が自分の生徒さんに必ず伝えていることは、『自分の演奏する曲について全て知っている』という状態を作ること。
毎日、曲について『知る』ということを徹底的に深めて、それが演奏に出てくるように練習する方法をお伝えしているんです。
息の出し方、トリルの数、タンギングの数、リズム構造、拍節感、音と音との関係性、演奏の全体のプラン。楽譜をもらった時点から、楽譜を理解して、理解したことを自分に教えてあげる、というプロセスを踏む。
それが舞台で練習の成果を発揮する確実な方法だからです。
幼児期に始められるピアノやヴァイオリンなどに比べ、管楽器はある程度成長してからでないと演奏できない楽器なんですよね。日本だと始める年齢の平均は大体12歳くらいでしょうか。その年齢の脳の発達は幼児とは全く違うのだから、初級者も最初から論理的に頭を使って意識的な練習を行っていくべきだと考えています。
やはり、楽器は適度な変化や上達があってこそ楽しめるもの。
せっかく楽器をやっているのに、自分にどう変化をもたらすか?というアイデアが得られないまま大人になってしまうということは本当にもったいないと思います。
コーチングを始めてみると、やはり私の仮説通り、練習の途中でつまづいた部分をどう改善していけば良いのかがわからない、という人がたくさんいらっしゃいました。それは、社会人の方も、現役で吹奏楽をやっている中高校生も同じです。
ただ、私の強みは専門性だけではなく、『社会人の人生のリアル』も知っていることです。
その忙しさや大変さを知った上で練習のプランを立てるので、”最低何時間練習しなさい”とか、”この教則本は絶対やりましょう”とか、そういったことは絶対に言いません。
例えば、忙しいお仕事をされていて練習時間が取りにくい方には、お風呂に入りながらのトレーニングや、寝る前のトレーニング方法などを提案します。その方には実践後、”週末に楽器を触った時、今までと全然感覚が違った!”と仰ってもらえました。
私の練習の提案に対して、『こうやればいいんだ!』『これならできそうな気がする!』と、生徒さんが練習の仕方を持ち帰ってくれたり、やる気になってくれたりすると、本当に嬉しいです。
私は何よりもアマチュア音楽家や吹奏楽部の方たちに、“自分たちのことをわかってくれる”と言ってもらえる音楽家でいたい。
だからこれからもひとりひとりに心を寄せて、生徒さんと対等な関係を築きながら活動を深めていきたいですね。」
ルミ子さんのお話を聞いていると、音大卒の自分でも、練習についてそんなにじっくり考えたことあったっけ...と思わされ、正直耳が痛いくらい。
でも、こういった基本的だけど一番大切なことをここまで徹底的に伝えようとしてくれる先生って、意外と少ないんじゃないでしょうか。
ご自身のブログでも、困ったときの練習方法や音楽の捉え方に関することなど、楽器を学ぶ人のためになる記事をたくさん書かれいますので、気になる方はこちらから、要チェックです!!
→【練習お役立ち情報&コラム】
誰にでも、”音楽を学ぶ権利”がある
実は、ルミ子さんがコーチングをしていてたびたび直面する、吹奏楽部出身者特有の”メンタルブロック”なるものがあるそう。そこから広がったお話がまたとっても大切な視点だったので、紹介します。
ルミ子さん「みなさん本当に管楽器の演奏が好きなのに、自分が楽器を上達することに対しては、へり下りすぎだと思います!
なぜか多くの吹奏楽プレイヤーが、もともとレベルが高い人や、専門家のレベルに上達したい人だけがレッスンを受けるものだと思っているんですよ。
でも本来であれば、どんな人でも分からないことがあったら先生や専門家に習えばいいし、聞いてみればいいんです。全ての人に、音楽を学び、上達する権利があるのだから、そこは遠慮しないで欲しいと思うのです。
ここからは私の考察ですが、このマインドの根底には日本の音楽教育のスタンスが影響しているのではと考えています。
日本の音大や音楽の教育機関などでは、マスタークラスや特定の講座を受けるためには選抜オーディションが設けられていることが多いですよね?
もちろん、この世界では実力のある人が次のチャンスを掴んでいくことは当然です。でも、教育の場での音楽の“学び”に関しては、もっと平等であるべきだと私は思っています。
ユトレヒト音楽院のマスタークラスは基本的に誰でも受講できましたし、教育のスタンスとしては、100人に1人のスターを生むためではなく、100人中80人が、プロ・アマ問わず、社会で音楽と共に生きていけるようになるための教育をしているんですよね。
今後は日本の音楽教育も、より“人間を育てること”に重点を置くべきではないのでしょうか。その方が結果、本当の意味で音楽を楽しめる“良い音楽家”がどんどん世に出て行くようになると思うのですよね。」
日本の吹奏楽を、もっと良い文化に。
更に、ルミ子さんの最終的なミッションである、”日本の吹奏楽をよりハッピーなものにしていく”ことについて。現状の吹奏楽部の事情や課題、そして、これから向かうべき方向についてもお聞きしました。
ルミ子さん「日本の現在の吹奏楽部には、間違った慣習や固定概念、意味のない苦しみが数多く存在しています。
例えばオランダの子供向け初級者レッスンでは、クラリネットの全ての運指を習うのに3年もかけるのですが、日本の吹奏楽部では大抵、楽器を手にしてから1ヶ月くらいで運指を全部覚えて来い、と言われます。その理由は、数ヶ月先の演奏会やコンクールに無理やり間に合わせるため。
そのスピードで運指を覚えられる子も中にはいるけれど、もちろん全員がそうではありません。そうすると、“速くできる子が優秀”という評価軸になってしまいますよね。これはとても恐ろしいことだし、あってはいけないことです。
運指をどんなに早く覚えても、耳と目と体がどう働いて楽器を演奏できているのかがわからないと、結局高校を卒業してその後伸び悩むし、更には大人になってから楽器が楽しくなくなってしまうからです。
また、日本の吹奏楽部は、音程を合わせることにこだわりすぎる傾向があります。
初級者はまず、体の使い方やテクニックを適切に練習し、高めていくこが大事です。また、聴音や和声をしっかり勉強し、音楽を本質的に捉えられていれば、“音程”よりも、“音楽”を優先して演奏できるので、音程そのものがそんなに気になるということはなくなります。
吹奏楽部ではそれをせずに、経験が浅い状態で長い曲や難しい曲をやろうとするから、音程が合わないのは当然なんです。これでは子供がフィジカル的にもメンタル的にも追い詰められてしまいますよね。
ですから、この先日本の吹奏楽を良い文化として育てていくためには、『初級者のケア』を何よりも大事にしないといけないと考えてます。
私はどの人も絶対に専門家のレッスンを受け続けるべきだとまでは思っていませんが、初級者の人は最低3ヶ月くらいはその楽器についてよく知っている人から教わって欲しいと思います。なぜなら、初級の時の取り組み方が、怪我やその後の練習の行き詰まりにつながっていくから。
今の吹奏楽部は、講師を呼ぶお金の余裕がない学校も多く、課題感はあってもなかなか変わっていかないのが現状です。
ただ、そのような状態でもコンクールでは金賞を目指すために子供に無理やりな方法で楽器をやらせ、間違った練習をさせ続ける。そんな吹奏楽部なら、ないほうがまだ良いとさえ思ってしまいます。
吹奏楽部出身者の中には、部活がとても楽しくて良い経験になったという人がいる中で、大変な思いや辛い思いをして、大人になったらもう楽器には触らない、という人もいます。
吹奏楽部の良し悪しは学校によっても差が大きく、その当たり外れはギャンブルのような状態になってしまっています。そんな風に、運に左右される体験を学校という場で子供にさせてしまうこと自体も、とても問題。
”所詮は学校の部活”と軽く考えるのではなく、子供の成長と安全を第一に考えて、部活そのものの運用の仕方を見直していくべきだと思います。
少子高齢化の進む中、吹奏楽をこの先も人々の喜びとして成立させていくには、まずこの現状を何とかしなくてはならないと考えているんです。」
コロナ禍で、吹奏楽プレイヤーに伝えたいこと
ルミ子さんのお話を聞いていると、吹奏楽部についてここまで真剣に考えている人は他にいないのではないか、といつも思います。現状を本当に何とかしたい、という強い情熱が伝わってきました。
最後に、そんなルミ子さんがコロナ禍で改めて音楽について考えたことについてお聞きすると、吹奏楽プレイヤーへの素敵なメッセージをいただきました。
ルミ子「コロナ禍を通して吹奏楽プレイヤーに伝えたいと強く感じたのは、楽器は1人で吹いても楽しいということ!
コロナ禍で合奏ができなくなってしまったとき、”合奏ができないから音楽を楽しめない!”と嘆いている人が多いように見受けられました。つまり、ずっと集団で演奏してきた吹奏楽部出身の人は、『音楽の喜び=合奏』となってしまっている人が多いんですね。
もちろん、合奏は本当に楽しいですし、私も大好きです!
でも、音楽の本来の楽しみ方を知っていれば、合奏ができないことにそんなに絶望する必要はありません。
音楽って本当は、きちんとした練習方法や、本質的な付き合い方を知っていれば、1人でも全然楽しめるんものなんです。
むしろ、音楽はまず1人で楽しめることが前提で、それぞれが独立しているからこそお互いに良い関係性が成り立ち、それが良いアンサンブルにもつながっていくのです。
だから今こそ、自分1人での練習の仕方や音楽との向き合い方を改めて考えて欲しいし、1人でも多くの吹奏楽プレイヤーに、”音楽の本当の楽しみ方”に出会って欲しいなと思っています。
自分1人でも何かを楽しむことができる”個人力”を持っている方が、人生の面白味はどんどん増していくと思うし、それはとても価値のあることだと思うのです。」
編集後記
今回は、記事には書ききれないほどたくさんの貴重なお話をいただいて、泣く泣くカットした部分も多かったのですが、中でも印象に残った、励まされる言葉を最後に。
「自分の進むべき道は必ず用意されているものだし、それを知っていれば、そこに乗っかって、自分のできることをするだけ。」
ルミ子さんの活動や吹奏楽への想いを、この記事を通して受け取ってくれる人が1人でもいると嬉しいです。
そして、ルミ子さんを通して、1人でも多くの人が音楽とのより良い関わりを持てるようになりますように。
浅原ルミ子さん、今回は本当にありがとうございました!
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