白猫である僕を全国旅に連れていってくれたジュンタは僕のベストフレンド!第9話「エンジェルタイム」
ぼくの体調は不安定な状態が続いていたけど、昨日病院へ連れていってもらった後で、たっぷり睡眠をとった翌日の4月24日、ぼくの体は不思議なぐらいに軽かった。
だから、ぼくは久々にジュンと一緒に散歩がしたくてお願いしたんだ。そしたら、ジュンはぼくの事が心配して迷っていたようだけど、今日のぼくの元気な姿を見てコンビニまで一緒に散歩してくれる決断をしてくれたんだ。
本当に体が嘘のように軽くてさ、ぼくは久々の外とジュンとの散歩に大はしゃぎしちゃったよ。
その二日後にも、ぼくは深夜にジュンとコンビニまで散歩したよ! そうそう、前にも言ったけどさ、ぼくは本当にジュンの言葉が分かるんだよ?
え? 信じられないって? じゃ、それを証明してあげるよ!
ね? 本当でしょ? ぼくはね、ジュンとコンビニまで一緒に散歩する時には、いつもお店の前でお座りしてジュンが買い物し終えるまで待ってるんだよ!
そうそう、ぼくの体調が良くなったとはいえ、それは完全じゃないから今は出来ないけどさ、まだぼくが病気になる前にはムササビのような事だって出来たんだよ。ぼくが高齢猫なんてとても思えない自慢の動きでさ、ムササビ猫忍者フアといっても過言じゃないぐらいにね!
どうだい、凄いでしょ? エッヘン!
そういえばね、この4月はなんだかコロナとか呼ばれる感染病が流行り出していたから、ジュンもヨメもいつも以上に家にいてくれたから一緒に過ごせる時間が多かったんだ。
軽く外に出ることもあった日、暖かい春の4月の陽気に包まれたぼくはさ、とんでもない場所でお昼寝しちゃってさ、ジュンに怒られもしたんだけどね(笑)
今、ぼくの体の調子が一時的に良くなっている事、病気自体が完治することはない事、ぼくの命がそう遠くない未来に尽きてしまう事はぼく自身が1番理解していたからこそ、いつも以上に2人と一緒に過ごせている今月は嬉しかったんだ。
5月、まだぼくの体の調子は良い方だ。それに、今月もジュンとヨメと一緒に過ごす時間は多かったと思うんだ。
そんなある日、ぼくはね、ジュンにある事を頼まれたんだ。どうしようなかぁ~って迷った振りを見せてジュンに意地悪してみたんだけど、答えは最初から決まってるよね!
どんなことかは知らないけども、ぼくはジュンの頼み事を喜んで引き受けたんだけど……ええ? 大丈夫? ぼくが特に何かをするわけじゃないけど、ジュンはかなりキツそうだけど?
てかさ、ぼくは一応はこれでもレディーだからね、そんなレディーに対して重いは失礼だよジュン!
そんな楽しい日々だからこそ、ぼくは2人と一緒にいることで堪らなく悲しくなる夜が多かったんだ。このまま、ずっといつまでも2人と居たいと思えば思うほどに、ぼくの小さな胸は張り裂けそうになるんだ。だからかな、今月は特に夜にはぼくだけで外に出ることが多かった。
静寂な夜の道を歩きながら、ぼくはジュン達とのこれまでの色々な思い出を思い出しては誰にも見られないように泣いていたんだ。それは、絶対にジュン達には見せたくなかったからかもしれない。
そしたら、ぼくが夜遊びしまくっていると思ったのか、ぼくはジュンに指名手配されちゃったんだけどね(笑)
なんだかさ、悲しみや不安が馬鹿らしくなってさ、ぼくはこれを見て笑っちゃったよ。不思議と全ての不安がどこかに吹き飛んじゃったよね。
いつまでぼくが生きられるかは分からないし、ぼくの苦しむ顔をまたジュンにみせて悲しませてしまうかもしれない。それでも、ぼくは楽しい事や嬉しい事だけじゃなくて、悲しみも苦しみもジュンと最後まで共有したいと思うんだ。
きっと、それはお互いにとって辛いかもしれない。でも、ぼくは彼を信じているし、彼もぼくを信じてくれるはず……。
だってさ、君はぼくにとって最高のベストフレンドなのだから。
普段以上にジュン達と沢山の時間を一緒に過ごせた4月、5月が終わり、季節は初夏が終わりを告げようとする6月4日、一時的に収まっていた病魔がぼくの体の中で再び活発し始めていた。
体が重く、ダルさもあって、ぼくの体は元気を失くしていた。
それから4日後、ほんの少しだけ調子が良くなったぼくはジュンと乾杯という儀式を行ったんだ。人間のようにお酒は飲めないけども、互いに乾杯を交わすことが出来たのは最高だと思う。
もしも、ぼくが猫じゃなくて人間だったら……そう考えると、少しだけ悲しくなったけど、きっとぼくは猫として生まれてジュンと出会えたことに大きな意味があるのだから、猫で良かったのだと思うんだ。
それからのぼくは、日に日に食事すらまともに出来なくなり、体重はみるみる痩せ細る。そんなぼくを見て、ジュンもヨメは辛そうな表情を見せて心配するけど、それ以上に応援もしてくれていた。
それは、日々辛く苦しむぼくに対して最後の最後まで頑張れる生きようとする強い意思を与えてくれた言葉だったんだ。
7月、これまで何度も病院で痛み止めの注射を受けてくるも、注射の効果は日に日に弱くなり、ぼくは毎日痛みと苦しみと戦う日々を過ごしていた。
この一週間、ぼくはジュンが帰宅してきても彼を出迎えにいけていない。これまでは、ジュンが外から家に着いた時には階段を上る音でジュンの帰宅を察知して玄関まで出迎えに行けていたんだ。でもね、悲しいけど今のぼくにはそれが出来ないんだ。
ごめんね、ジュン……
7月3日、この日は少しだけ体調が良いから、ぼくは久々にまともに食事がとれた。ここ最近、ぼくは押入れに籠りっぱなしだったけど、この夜は久々にジュンとヨメのいる部屋で一緒に寝たんだ。
それから、ぼくの体に異変が起きていることに気が付いたんだ。不思議と痛みも和らぎ、食欲も出て、重かった体が軽くなり体の自由が戻っていたんだ。
だから、ぼくは久々にジュンと散歩をした。多少、無理した日もあったけども、ぼくは出来るだけ多くジュンと一緒に散歩をすることにしたんだ。
そして、7月15日の真夜中。この日もぼくはジュンと一緒に深夜の散歩に出かけたんだ。
途中、色々な顔見知りの猫と出会った。顔見知りの猫達は、ぼくの顔を見て察したのだろう。ぼくにこれまでのお礼を言ってから、互いに別れの挨拶を告げて猫達は去っていった。
別れを告げた猫達の後ろ姿を見て、ぼくはもう一度心の中で別れを告げた。
真夜中の散歩中、ぼくはこの散歩がジュンとの最後の散歩になることが分かっていた。きっと、この散歩を終えた翌日からは、もうぼくの体は……。
だから、ぼくは人生最後の散歩を精一杯楽しむことにしたんだ。きっと、ジュンもそれをどこかで察していたんだと思うから。だからこそ、ぼくらは互いの悔いを残さないようにいつも以上に長い散歩をすることで、最後の散歩をお互い笑い合って楽しんでいたんだと思う。
途中、疲れたぼくを抱っこしてくれたジュンは公園のベンチに座って、ぼくの頭を優しく撫でながら小さく耳元で呟いた。
「フア、顔を見上げてみろ?」
ジュンに言われて、顔を見上げたぼくが目にしたのは、辺り一面が暗闇の中で、まるでぼくらだけを照らすかのように光り輝く満天の星だった。その輝きは、今まで見てきた星達の中で1番綺麗で大きく輝いていたんだ。
まるで、ぼくとジュンの最後の散歩を祝福するように。
ぼくらを祝福する星の輝きに照らされながら、ぼくらは互いに長い間に渡り語り合い続けたんだ。
絶対に悔いを残さない為にも!
こうして、ぼくらは4時間に及ぶ長くも一瞬だったように思えた最後の散歩を終えたのだった。