白猫である僕を全国旅に連れていってくれたジュンタは僕のベストフレンド!最終話「ベストフレンド」
2020年7月30日、ぼくの意識は朦朧(もうろう)としていた。直前に死期が迫っていることだけは理解出来ていたけども、体を動かすことも声を出すことも、何もかもがどうすることも出来なかった。
今、ぼくは生きているのか、それとも既に死んでしまっているのかすら分からない状況の中で、微かに声が聞こえる。
何も出来ない状況の中で、ぼくは必死にその声の主に対して声を出した。その声を無視することは出来ない。だから、ぼくは声の主に対して声を返すことに全生命力を注ぎ込んだんだ。
例え、死期が更に縮まったとしても。
だって、ぼくの意識が徐々に闇に包まれていく中でも声の主が誰なのかはハッキリと理解出来たから。
そう、声の主はジュンだったから……。
ぼくの死はもう目前まで来ているけども、ジュンがぼくに対して優しい声を、ずっとずっとかけ続けてくれていることで、ぼくは「まだ、死ぬわけにはいかないよ!」と心から思ったんだ。
変えられる運命と、変えられない運命がある中で、ぼくの運命は変えられない運命だということも理解していた。それでも、せめて1分1秒でも長くジュンと過ごす為に、ぼくは苦しみに耐えながらも少しでも長く生きたかったんだ。
でもね、そんなぼくの姿を見てジュンは今まで出会った中で最も優しい声で、ぼくの耳元にそっと囁いてくれたんだ。
「充分頑張ったから、もう頑張らなくていいよ……フア」
その言葉を聞いた瞬間、ぼくの体はぼくの体を蝕(むしば)む病魔の痛みから解放されたと同時に、まるで太陽のような夏の暖かい日差しが全身に照らされたような気がしたんだ。
君の最後の声はね、ぼくを痛み、悲しみ、不安から開放してくれた上で幸福感を抱かせてくれて凄く気持ちが良かったんだ。それは、いつもの日常のように僕がジュンの膝の上で幸福感に満たされていたように、ぼくは安らかに深い深い眠りについたんだ。
2020年7月31日0時13分、白猫フア享年17歳
後日、フアの葬式が開かれました。葬儀には、近所のアイドル猫として有名だったフアを偲んで、彼女の最後の姿を見送る方々が参列してくれました。それだけ近所の方々からも愛された愛らしい猫でした。
ここは、どこだろうか?
真っすぐ伸びた1本道の階段の最上には大きな金色の扉が聳え立っている。道の両脇には真っ白な雲が浮遊していて、まるで天空に浮かぶ道のようだ。どこだかは分からないけども、1つだけハッキリしたこと、それはぼくが死んだのだということ。
一段ずつ階段を上る度に、ぼくはジュンと過ごしてきた思い出が脳裏に鮮明に蘇ってくる。一段、また一段と金色の扉へと進む度にぼくの目からは大粒の涙が落ちていく僅かな音でさえも自分自身には分かる。
思い出される、ジュンとの出会い、そしてジュン達との楽しかった全国旅と、彼らと過ごした日常は……もう、二度と戻れない。寂しいし、今すぐにまた会いたいけども、それよりも……
ジュンもヨメも大丈夫かなぁ? 今頃、ぼくの居なくなった世界で彼らは寂しくないかな? 落ち込んでいないかなぁ? ちゃんとご飯食べているかなぁ?
彼らの事が心配で、ぼくは気が付けば歩みを止めていた。もう、残り数段登れば、目の前に見える金色の扉に辿り着いてしまうから。きっと、あの扉をくぐれば、ぼくはジュン達の事を忘れてしまう気がしたから。
だからこそ、それが1番何よりも怖くて先に進めずにいるんだ。
「怖がらなくていいんだよ、フア」
この声、聞き覚えがある。確か……そう、あの時だ(第8話参照)
「君は、一体誰なの?」
目の前には確かに誰かいるけども、その姿は白くボヤけていてよく分からなかったけど、ぼくより小さい姿をしているように見えた。
「俺かい? 俺は、君の君自身が生み出した子供のような存在と言うべきかな? 勿論、本当の肉親とは異なるけどね」
「何を言っているのか、分からないのだけど?」
「簡単に言うとね、俺は君、いや……フアが完全にこの世界からいなくなった時、俺は君の代わりにこの世界に誕生する者と言えば分かるかな? そして、俺はジュンタと出会う者ってとこかな」
「つまり、ぼくの生まれ変わりってこと?」
「それは違う。あくまでも、俺はフアの想いと最後の意志をこの魂に刻まれて誕生する猫なんだよね。あ、でも勘違いしないでね? 新しく誕生する俺はあくまでも俺自身でフアじゃないから。ただ、フアの最後の想いと意志が俺の魂に刻まれるというだけさ」
「うん、それでいいと思う。じゃ、君に頼みがあるんだ」
「なんだい? 言ってごらんよ」
「ぼくはね、沢山の旅をジュン達としてきたんだ。でもね、北海道という場所には行けなかった。それ自体は後悔じゃないんだ。だって、ぼくを沢山の場所に連れていってくれたのだから。ただね、ぼくを北海道に連れていけなかったことをジュンは後悔しているかもしれない。だからさ、君がぼくの代わりに北海道へ行って欲しいんだ!」
「おう、任せとけ! それだけでいいのか?」
「んーとね、もう1つあるよ」
「おう、なんだ?」
「君はきっとジュンと仲良くなって彼やヨメに幸せにしてもらえる。だから、君も同じようにジュンやヨメを幸せにしてあげて欲しい」
「愚問だな、言われるまでもない……が、了解だ!」
「じゃ、ぼくはそろそろ行くよ。あ、そうだ。そういえば、君の名前をまだ聞いてなかったね?」
「そうだったな。俺の名はニコ。ニコさ!」
「ニコ……うん、いい名前だね。じゃ、ぼくはもう行くね」
これで思い残すことはない、そう思った時には恐怖は消えていた。そして、同時に目の前にある金色の扉が徐々に開閉されいく。
後ろにいるニコという名の猫に背を向けたまま、ぼくは金色に輝く扉の中へと安心した足取りで中へと入った。扉の中へと入る最後に心の中で叫んだんだ。
「ぼくと友達になってくれて本当にありがとう」とジュンに感謝を込めて。
本当に最後の最後に僕は想像した。願わくば、ジュン、ヨメ、ニコ、そしてぼくが平穏で楽しく過ごす最高の日常の風景をね。
ご協力絵師:スケッチ似顔絵あみち様
読者の皆様、最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。誤字・脱字には注意しましたが、語彙力・文法力等、まだまだ執筆者としては足りないですが、ジュンタさんの愛猫フアを題材にした物語を書かせて頂けたことは今後の糧になり有難く思います。
ジュンタさんへ、奥さんに関しては自分から見て似ているマイラバのボーカルを参考にしました。また、愛猫フアを題材にさせて頂きまして本当にありがとうございます。
上記の原画はA4サイズで、ジュンタさんさえ良ければ北海道でお会いした際には差し上げるつもりで一応持って行きますね。
完。